2014-10-23(Thu)
小説・さやか見参!(247)
さて、
邪衆院天空が西国の港町で封を助けていた頃、幻龍組頭領の幻龍イバラキは何をしていたのであろうか。
実は、炎一族長兄・紅蓮丸を叩きのめしていたのである。
一体何があったというのだろうか。
数週間前、魔剣に操られさやかに戦いを挑んだ紅蓮丸は、木に縛り付けられ魔剣を奪われなおかつ忘れ去られるという完全な敗北を喫した。
そこを聡明なる弟・灯火丸に救出されたのである。
二人は一路金丸藩に向かっていた。
かつてさやかに破れ捕らわれた次兄・炎丸を助け出さんが為であった。
紅蓮丸が騒ぎを起こしている隙に灯火丸が城に忍び込む、という手はずである。
(幼い弟とたった二人ではこれぐらいの策が限界でしょうね)
紅蓮丸はそんな事を考えながら、灯火丸を見て、ふふと笑った。
一方の灯火丸は
(あまり繊細な作戦を兄ちゃんに求めるのは酷だから…これが限界かな)
と考えて、諦観の笑みを浮かべた。
そんな二人が金丸の藩内に入ってすぐ、イバラキが姿を現したのだ。
『げ、幻龍イバラキ!!』
鉄の仮面、鋼鉄の義手が月明かりで鈍く光った。
紅蓮丸はとっさに灯火丸の前に出た。
兄の様子を見てかイバラキの放つ気を察知してか、灯火丸も咄嗟に身構える。
『炎一族、紅蓮丸。後ろの童は弟か。確か灯火丸』
イバラキの低い声が響いた。
『えっ、僕の事を知ってるの?』
灯火丸が驚いて声を上げる。
『油断ならない敵なのですよ』
紅蓮丸が刀を抜く。
だがイバラキは構えもせずにくくくと笑い、
『灯火丸、名を呼ばれて反応していてはこれからの戦いで苦労するぞ』
と忠告した。
『え?どういう事?』
『貴族の出であるおぬし達にとって名を名乗るは重要であろうがな、戦においては命取りになる事がある。ましてやたった二人で城に夜襲をかけるような戦をするのならばな』
紅蓮丸が刀を構える。
『お黙りなさいイバラキ!』
刀身から炎が上がり、紅蓮丸の鉢金をてらてらと反射させた。
だがそれは背後の灯火丸によって止められた。
『ちょっと待って兄ちゃん!』
炎がふっと消える。
『ど、どうしたのです』
『あの人、なんで僕達が城を襲う事を知ってるの。それに今の話、ちょっと興味がある』
紅蓮丸は自分と弟の温度差に驚愕し落胆した。
『おまえは、こんな時に何をのんきな』
そのやり取りにイバラキが笑い声を上げる。
『はっはっは!流石は聡明と名高い炎一族の末弟よ。よいか、これは忍びの定石だが覚えておけ。戦いにおいて最も恐ろしいのは敵の手の内が分からぬ事。刀を得意とするのか、それとも槍か、暗器を使うのか柔術か、流派は何か、人数は、得意技は、それらが分からぬ相手と手を交えては窮地に陥るは必定』
それを聞いて灯火丸がうなずく。
『なるほど。それじゃ有利に戦う為には、自分の情報は知られずに敵の情報を集めなくちゃいけないんだね』
今度はイバラキがうなずく。
『いかにも。そして己の情報の根本こそ名だ。名が知れればそこから先の事はいくらでも調べようがある。だからまずは名を秘するがよい。先ほどのように迂闊に反応しては足元を掬われるぞ』
その言葉に、灯火丸はにこりと笑い
『心得ました』
と頭を下げた。
『ちょ、ちょっと灯火丸!あんたなんで敵に頭下げてんのよ』
動揺した紅蓮丸がオカマ口調で弟を咎めた瞬間、
イバラキの背後に幻龍組の下忍達が居並んだ。
十名ほどの青装束である。
『や、やる気ね!灯火丸、行くわよ!!』
紅蓮丸が再び刀を構えた。
だが灯火丸も、イバラキも、そして下忍達も戦う素振りを見せなかった。
『あ、あれ??』
紅蓮丸は浮いている自分に気が付いたのか、ちょっともじもじしている。
イバラキは、にやりと笑うと
『灯火丸、我が手下を使うがいい。これだけいれば数は足りよう。城内の情報は道行き手下が話す』
と意外な申し出をした。
灯火丸は目を丸くする。
『もしかして、その為にここで僕達を?何の為に?』
だがイバラキはにやにやするばかりで答えない。
『そっか。腹の内を見せちゃいけないんだ』
灯火丸は納得した表情で
『お心遣い、感謝!』
とだけ言うと城に向かって走り出した。
その後に青い忍者集団が続く。
後には、イバラキと紅蓮丸だけが残された。
『ちょっと!灯火丸!なんで素直に言う事聞いてんのよ!罠かもしれないじゃないの!きっと罠よ~!!』
紅蓮丸の叫びが夜空に響き、そして夜風にかき消された。
紅蓮丸は仕方なくイバラキに刀を向ける。
『幻龍イバラキ、一体何を企んでいるのです』
だがイバラキはそれには答えず
『魔剣とやらは山吹の小娘に奪われたそうだな』
と質問を返した。
『ちょ…ワタクシが訊いているのです!!』
声を荒げる。
だがやはりイバラキは応えず
『どうだ、あの魔剣が無くとも人心を操りたいと思うか。圧倒的な力で人を従わせたいと思うか』
と尋ねながら紅蓮丸に近付いてくる。
紅蓮丸は言葉に詰まったが、どうにか声を吐き出した。
『も、もちろんですとも!強き者が弱き者を力で支配する!ワタクシはそう育てられてきたのです!それが!炎一族長兄として』
『分かった』
イバラキが紅蓮丸の言葉を遮った。
『なればそれがいかに愚かな事か教えてやろう』
イバラキが迫る。
『あ…』
威圧されて紅蓮丸が言葉を失う。
こうして
炎一族長兄紅蓮丸は、幻龍イバラキによって叩きのめされたのである。
邪衆院天空が西国の港町で封を助けていた頃、幻龍組頭領の幻龍イバラキは何をしていたのであろうか。
実は、炎一族長兄・紅蓮丸を叩きのめしていたのである。
一体何があったというのだろうか。
数週間前、魔剣に操られさやかに戦いを挑んだ紅蓮丸は、木に縛り付けられ魔剣を奪われなおかつ忘れ去られるという完全な敗北を喫した。
そこを聡明なる弟・灯火丸に救出されたのである。
二人は一路金丸藩に向かっていた。
かつてさやかに破れ捕らわれた次兄・炎丸を助け出さんが為であった。
紅蓮丸が騒ぎを起こしている隙に灯火丸が城に忍び込む、という手はずである。
(幼い弟とたった二人ではこれぐらいの策が限界でしょうね)
紅蓮丸はそんな事を考えながら、灯火丸を見て、ふふと笑った。
一方の灯火丸は
(あまり繊細な作戦を兄ちゃんに求めるのは酷だから…これが限界かな)
と考えて、諦観の笑みを浮かべた。
そんな二人が金丸の藩内に入ってすぐ、イバラキが姿を現したのだ。
『げ、幻龍イバラキ!!』
鉄の仮面、鋼鉄の義手が月明かりで鈍く光った。
紅蓮丸はとっさに灯火丸の前に出た。
兄の様子を見てかイバラキの放つ気を察知してか、灯火丸も咄嗟に身構える。
『炎一族、紅蓮丸。後ろの童は弟か。確か灯火丸』
イバラキの低い声が響いた。
『えっ、僕の事を知ってるの?』
灯火丸が驚いて声を上げる。
『油断ならない敵なのですよ』
紅蓮丸が刀を抜く。
だがイバラキは構えもせずにくくくと笑い、
『灯火丸、名を呼ばれて反応していてはこれからの戦いで苦労するぞ』
と忠告した。
『え?どういう事?』
『貴族の出であるおぬし達にとって名を名乗るは重要であろうがな、戦においては命取りになる事がある。ましてやたった二人で城に夜襲をかけるような戦をするのならばな』
紅蓮丸が刀を構える。
『お黙りなさいイバラキ!』
刀身から炎が上がり、紅蓮丸の鉢金をてらてらと反射させた。
だがそれは背後の灯火丸によって止められた。
『ちょっと待って兄ちゃん!』
炎がふっと消える。
『ど、どうしたのです』
『あの人、なんで僕達が城を襲う事を知ってるの。それに今の話、ちょっと興味がある』
紅蓮丸は自分と弟の温度差に驚愕し落胆した。
『おまえは、こんな時に何をのんきな』
そのやり取りにイバラキが笑い声を上げる。
『はっはっは!流石は聡明と名高い炎一族の末弟よ。よいか、これは忍びの定石だが覚えておけ。戦いにおいて最も恐ろしいのは敵の手の内が分からぬ事。刀を得意とするのか、それとも槍か、暗器を使うのか柔術か、流派は何か、人数は、得意技は、それらが分からぬ相手と手を交えては窮地に陥るは必定』
それを聞いて灯火丸がうなずく。
『なるほど。それじゃ有利に戦う為には、自分の情報は知られずに敵の情報を集めなくちゃいけないんだね』
今度はイバラキがうなずく。
『いかにも。そして己の情報の根本こそ名だ。名が知れればそこから先の事はいくらでも調べようがある。だからまずは名を秘するがよい。先ほどのように迂闊に反応しては足元を掬われるぞ』
その言葉に、灯火丸はにこりと笑い
『心得ました』
と頭を下げた。
『ちょ、ちょっと灯火丸!あんたなんで敵に頭下げてんのよ』
動揺した紅蓮丸がオカマ口調で弟を咎めた瞬間、
イバラキの背後に幻龍組の下忍達が居並んだ。
十名ほどの青装束である。
『や、やる気ね!灯火丸、行くわよ!!』
紅蓮丸が再び刀を構えた。
だが灯火丸も、イバラキも、そして下忍達も戦う素振りを見せなかった。
『あ、あれ??』
紅蓮丸は浮いている自分に気が付いたのか、ちょっともじもじしている。
イバラキは、にやりと笑うと
『灯火丸、我が手下を使うがいい。これだけいれば数は足りよう。城内の情報は道行き手下が話す』
と意外な申し出をした。
灯火丸は目を丸くする。
『もしかして、その為にここで僕達を?何の為に?』
だがイバラキはにやにやするばかりで答えない。
『そっか。腹の内を見せちゃいけないんだ』
灯火丸は納得した表情で
『お心遣い、感謝!』
とだけ言うと城に向かって走り出した。
その後に青い忍者集団が続く。
後には、イバラキと紅蓮丸だけが残された。
『ちょっと!灯火丸!なんで素直に言う事聞いてんのよ!罠かもしれないじゃないの!きっと罠よ~!!』
紅蓮丸の叫びが夜空に響き、そして夜風にかき消された。
紅蓮丸は仕方なくイバラキに刀を向ける。
『幻龍イバラキ、一体何を企んでいるのです』
だがイバラキはそれには答えず
『魔剣とやらは山吹の小娘に奪われたそうだな』
と質問を返した。
『ちょ…ワタクシが訊いているのです!!』
声を荒げる。
だがやはりイバラキは応えず
『どうだ、あの魔剣が無くとも人心を操りたいと思うか。圧倒的な力で人を従わせたいと思うか』
と尋ねながら紅蓮丸に近付いてくる。
紅蓮丸は言葉に詰まったが、どうにか声を吐き出した。
『も、もちろんですとも!強き者が弱き者を力で支配する!ワタクシはそう育てられてきたのです!それが!炎一族長兄として』
『分かった』
イバラキが紅蓮丸の言葉を遮った。
『なればそれがいかに愚かな事か教えてやろう』
イバラキが迫る。
『あ…』
威圧されて紅蓮丸が言葉を失う。
こうして
炎一族長兄紅蓮丸は、幻龍イバラキによって叩きのめされたのである。
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