2014-10-19(Sun)
小説・さやか見参!(246)
ちりりん
どこかで風鈴が鳴ったような気がする
だとしたら今は夏なのだろうか
思い返せばこの音は一年中聞こえている気もする
だとしたら今は夏ではないのかもしれない
視界に映る景色はただただ白くぼんやりとしていて
季節を識別するどころか
現実と幻想の境界を見極める事も出来ない
ちりりん
もしかしたら
この音すら
現実の音ではないのかもしれない
ふたつの影がわたしを覗き込む
『かあさま!』
甘えたような声がわたしを呼ぶ
明るくて
無邪気で
高圧的な声だ
『かあさまってば!』
別の声もわたしを呼ぶ
少し冷たさを感じる声
だがこちらの声にはわたしを支配するような高圧さは無い
『かあさま!もっと色々教えてよ!』
冷たい声がせがむ
『かあさま!もっとおねえちゃんに教えてあげてよ!』
甘えた声がせがむ
何故かその声は
わたしにとっては脅迫にも思えた
この甘えた声に命じられると
わたしは逆らう事が出来ないのだ
立ってはいけない
意思とはうらはらにわたしの身体が立ち上がる
動いてはいけない
意思とはうらはらにわたしの身体が動き出す
影が刀を差し出す
もはやわたしとは別の生き物になった左手がその鞘を掴む
そして
わたしの支配から逃れた右手がその柄に手をかける
その瞬間
ぼんやりとした視界に四筋の光が走った
いや
それを走らせたのはおそらくわたし自身なのだろう
気が付くとわたしは
抜いた刀身を鞘に納めているところだった
『やったぁ!』
影が喜んでいる
『すごぉい!』
影がはしゃいでいる
わたしは
とりかえしのつかない事をしてしまった
と思った
『やっと教えてもらえた!』
冷たい声から興奮が伝わる
『かあさま』
甘えた声が迫ってくる
『今のが』
言わないで
『今のが山吹流くのいち斬りだよね!』
あぁ
そうなのだ
とうとうそれを教えてしまった
山吹流くのいち斬り
山吹流忍術の正統にだけ伝えられる必殺技のひとつ
この子たちはそれを使って
山吹を斬ろうとしているのに
『かあさま、ありがとう』
甘えた声がわたしにぴたりと寄り添った
小さな掌がわたしの両目を覆う
『疲れたでしょ。ゆっくり休んで』
その声から労いは感じられない
用が済んだから解放されるだけだ
解放?
わたしはちょっとだけ可笑しくなる
解放なんてされはしない
わたしはこれからもずっと
これまで通りずっと
この子に囚われて生きていくのだ
ちりりん
幻聴を聞きながら
またわたしは意識を失っていく
どこかで風鈴が鳴ったような気がする
だとしたら今は夏なのだろうか
思い返せばこの音は一年中聞こえている気もする
だとしたら今は夏ではないのかもしれない
視界に映る景色はただただ白くぼんやりとしていて
季節を識別するどころか
現実と幻想の境界を見極める事も出来ない
ちりりん
もしかしたら
この音すら
現実の音ではないのかもしれない
ふたつの影がわたしを覗き込む
『かあさま!』
甘えたような声がわたしを呼ぶ
明るくて
無邪気で
高圧的な声だ
『かあさまってば!』
別の声もわたしを呼ぶ
少し冷たさを感じる声
だがこちらの声にはわたしを支配するような高圧さは無い
『かあさま!もっと色々教えてよ!』
冷たい声がせがむ
『かあさま!もっとおねえちゃんに教えてあげてよ!』
甘えた声がせがむ
何故かその声は
わたしにとっては脅迫にも思えた
この甘えた声に命じられると
わたしは逆らう事が出来ないのだ
立ってはいけない
意思とはうらはらにわたしの身体が立ち上がる
動いてはいけない
意思とはうらはらにわたしの身体が動き出す
影が刀を差し出す
もはやわたしとは別の生き物になった左手がその鞘を掴む
そして
わたしの支配から逃れた右手がその柄に手をかける
その瞬間
ぼんやりとした視界に四筋の光が走った
いや
それを走らせたのはおそらくわたし自身なのだろう
気が付くとわたしは
抜いた刀身を鞘に納めているところだった
『やったぁ!』
影が喜んでいる
『すごぉい!』
影がはしゃいでいる
わたしは
とりかえしのつかない事をしてしまった
と思った
『やっと教えてもらえた!』
冷たい声から興奮が伝わる
『かあさま』
甘えた声が迫ってくる
『今のが』
言わないで
『今のが山吹流くのいち斬りだよね!』
あぁ
そうなのだ
とうとうそれを教えてしまった
山吹流くのいち斬り
山吹流忍術の正統にだけ伝えられる必殺技のひとつ
この子たちはそれを使って
山吹を斬ろうとしているのに
『かあさま、ありがとう』
甘えた声がわたしにぴたりと寄り添った
小さな掌がわたしの両目を覆う
『疲れたでしょ。ゆっくり休んで』
その声から労いは感じられない
用が済んだから解放されるだけだ
解放?
わたしはちょっとだけ可笑しくなる
解放なんてされはしない
わたしはこれからもずっと
これまで通りずっと
この子に囚われて生きていくのだ
ちりりん
幻聴を聞きながら
またわたしは意識を失っていく
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