2014-10-14(Tue)
小説・さやか見参!(245)
穏やかな波が太陽を反射させてぎらぎらと輝いていた。
隣の大国の様式を模した船の甲板で揺られながら、封は離れていく陸地を眺めている。
祖国から逃げ流れ着いた島国。
そこでの殺戮の日々。
第二の故郷と呼ぶには封の思い出は凄惨すぎた。
ただ、
宿敵であったはずの幻龍イバラキと邪衆院天空の記憶だけは封の心を和ませている気がした。
封はかすかに微笑んだ。
それは己を侮蔑した笑みだった。
幻龍イバラキの人生を、幸福を破壊したのは誰だ。
一角衆の手先となって、幹部・血讐に命じられるまま暗躍した自分達ではないか。
蛇組次期頭領としての道を歩んでいたくちなわを追い込んで、追い込んで、非道の忍者・幻龍イバラキを誕生させたのは他ならぬ自分達なのだ。
封と断は幾度も幻龍組に戦いを挑み、イバラキと邪衆院に完膚なき敗北を喫した。
しかして彼らは、断と封の命を奪う事はしなかったのである。
その機会は、
復讐の機会は何度となくあったのに。
それどころか
封は呟いた。
『最後の最後まで助けられちゃって』
邪衆院天空が一角衆粛清隊カイテツを倒してくれた事で封は無事に祖国に帰る船に乗れたのである。
なぜ邪衆院が自分を助けてくれるのか、封には分からない。
尋ねてみても邪衆院は微笑むばかりで答えない。
恩に着せようともしない。
別れ際もあっさりとしたものだった。
カイテツを沈めた邪衆院は海からあがってくると
『これで国に帰れる。道中ご無事で』
とだけ言って去ろうとした。
『邪衆院天空!ちょっと待って!』
封が引き止めると邪衆院は立ち止まり振り返った。
そして封が二の句を継ぐ暇も無く
『あぁ、そういえば』
と口を開いた。
『あんたの一人娘、一角衆にいるんだよね?』
思いがけない言葉にどきりとする。
そう、封はかつて女の子を産んでいた。
祖国の貴族の血を引く男との間に身篭った子だった。
男の子だったなら、一族の再興の要となるはずだった。
だが、
女だったゆえに、
『血讐のところに』
邪衆院の言葉に、封は小さくうなずいた。
一角衆で生まれた女は血讐の配下となるのだ。
血讐の側女が育て、年頃になれば血讐によって身も心も調教され、死をも厭わないくのいちとなるのだ。
封の娘は今年で十五か。
ならばもう、
『娘の事は俺達がどうにかするから気にしなくていい』
邪衆院はそう言った。
『気にしなくていい、って言うか、諦めた方がいい、って言うか』
封はおずおずと尋ねる。
『殺すの…?』
邪衆院ははっきりと答える。
『助けられたら助けるけど、無理だったら殺す。血讐の側女達は完全に洗脳されてるらしいからね。このまま血讐に操られ続けるよりはそっちの方がいい、と俺は思うよ』
封は一瞬考えたが
『そうね、私もそう思う。私は母親としては何もしてあげられないから。邪衆院天空、お願いするわ』
と頭を下げた。
自分の人生のツケを娘に背負わせてしまった。
その罪を背負ってこれからは生きていかねばなるまい。
そう覚悟を決めたのだ。
邪衆院はうなずいて、
『じゃ、お元気で』
とだけ言って走り去った。
その光景を思い出しながら封は目を細める。
邪衆院と別れた砂浜はとっくに見えなくなっていた。
この後、故郷に戻った封がどのような人生を送ったのか、
この物語で語られる事はないであろう。
隣の大国の様式を模した船の甲板で揺られながら、封は離れていく陸地を眺めている。
祖国から逃げ流れ着いた島国。
そこでの殺戮の日々。
第二の故郷と呼ぶには封の思い出は凄惨すぎた。
ただ、
宿敵であったはずの幻龍イバラキと邪衆院天空の記憶だけは封の心を和ませている気がした。
封はかすかに微笑んだ。
それは己を侮蔑した笑みだった。
幻龍イバラキの人生を、幸福を破壊したのは誰だ。
一角衆の手先となって、幹部・血讐に命じられるまま暗躍した自分達ではないか。
蛇組次期頭領としての道を歩んでいたくちなわを追い込んで、追い込んで、非道の忍者・幻龍イバラキを誕生させたのは他ならぬ自分達なのだ。
封と断は幾度も幻龍組に戦いを挑み、イバラキと邪衆院に完膚なき敗北を喫した。
しかして彼らは、断と封の命を奪う事はしなかったのである。
その機会は、
復讐の機会は何度となくあったのに。
それどころか
封は呟いた。
『最後の最後まで助けられちゃって』
邪衆院天空が一角衆粛清隊カイテツを倒してくれた事で封は無事に祖国に帰る船に乗れたのである。
なぜ邪衆院が自分を助けてくれるのか、封には分からない。
尋ねてみても邪衆院は微笑むばかりで答えない。
恩に着せようともしない。
別れ際もあっさりとしたものだった。
カイテツを沈めた邪衆院は海からあがってくると
『これで国に帰れる。道中ご無事で』
とだけ言って去ろうとした。
『邪衆院天空!ちょっと待って!』
封が引き止めると邪衆院は立ち止まり振り返った。
そして封が二の句を継ぐ暇も無く
『あぁ、そういえば』
と口を開いた。
『あんたの一人娘、一角衆にいるんだよね?』
思いがけない言葉にどきりとする。
そう、封はかつて女の子を産んでいた。
祖国の貴族の血を引く男との間に身篭った子だった。
男の子だったなら、一族の再興の要となるはずだった。
だが、
女だったゆえに、
『血讐のところに』
邪衆院の言葉に、封は小さくうなずいた。
一角衆で生まれた女は血讐の配下となるのだ。
血讐の側女が育て、年頃になれば血讐によって身も心も調教され、死をも厭わないくのいちとなるのだ。
封の娘は今年で十五か。
ならばもう、
『娘の事は俺達がどうにかするから気にしなくていい』
邪衆院はそう言った。
『気にしなくていい、って言うか、諦めた方がいい、って言うか』
封はおずおずと尋ねる。
『殺すの…?』
邪衆院ははっきりと答える。
『助けられたら助けるけど、無理だったら殺す。血讐の側女達は完全に洗脳されてるらしいからね。このまま血讐に操られ続けるよりはそっちの方がいい、と俺は思うよ』
封は一瞬考えたが
『そうね、私もそう思う。私は母親としては何もしてあげられないから。邪衆院天空、お願いするわ』
と頭を下げた。
自分の人生のツケを娘に背負わせてしまった。
その罪を背負ってこれからは生きていかねばなるまい。
そう覚悟を決めたのだ。
邪衆院はうなずいて、
『じゃ、お元気で』
とだけ言って走り去った。
その光景を思い出しながら封は目を細める。
邪衆院と別れた砂浜はとっくに見えなくなっていた。
この後、故郷に戻った封がどのような人生を送ったのか、
この物語で語られる事はないであろう。
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