2014-07-28(Mon)
小説・さやか見参!(243)
鉄槌が横薙ぎに払われる。
ものすごい速さだ。
邪衆院はそれをものすごい速さでくぐるようにかわす。
カイテツは回転しながら槌を頭上に振り上げ、邪衆院めがけて叩きつける。
邪衆院は斜め前に踏み込み、カイテツの腕を封じるようにしてその攻撃を捌いた。
高速の攻防が続く。
しかし、
ものすごい速さの者と、ものすごい速さの者が戦ったならば、本人達にとってそれは通常の攻防にすぎない。
封は若干ではあるがカイテツに速度で劣っていた為苦戦を強いられたが、邪衆院はどうやらカイテツの速さを凌駕している。
封はおののいた。
一角衆は下忍といえども高い戦闘能力を持っている。
中忍上忍となれば推して知るべし。
断と封はその中でも桁違いの腕前を誇っていた。
カイテツを含む粛清隊はそれよりもはるかに強い。
なのに、
この邪衆院という男は、その粛清隊に対してすら余裕を見せている。
実力の底が全く見えない。
鉄槌が風を切る鋭い音が響く。
その中に時々、
ぱぱぱぱん
という乾いた音が混じる。
封は思考を止め、戦いが生む音に集中した。
びゅびゅんびゅん、ぱぱぱぱん
びゅん、がっ、びゅん、たっ、ぱぱぱぱん
それが幾度も繰り返され、封はようやく分かった。
ぱぱぱぱんという乾いた音は邪衆院の連撃の音だ。
カイテツの攻撃をかわしては四発、捌いては四発と、左右の拳を叩き込んでいる。
そしてその攻撃はどうやら、封が鎖帷子を破壊して脆くなった一点に正確に集中されているようだった。
この様子だと、戦闘が始まってから今の瞬間までに数十発、あるいは百数十発は拳を繰り出している事になる。
『ぐぬッ』
カイテツが小さく呻いて、その丸太のような左腕がだらりと下がった。
邪衆院の攻撃を一点に受け続けたのだ。仕方あるまい。
おそらく筋繊維が使い物にならなくなっているのだろう。
『じゃ、邪衆院ッ!きさまァ!!』
さすがのカイテツもよろめいて距離を取った。
だが、またも邪衆院はそれを無視して封に声をかけた。
『助かったよ。あんたが帷子と鎧を壊しといてくれて』
そう言われて封は笑った。
本当に愉快な気持ちになったからだ。
そんな状況でないのは分かっているのだが。
邪衆院ならばおそらく帷子や鎧など気にもせずカイテツを圧倒出来るはずだ。
なのに何故あの部位、封が鎧を破壊したあの一点への攻撃にこだわったのか。
それは、封に気を使ったからである。
封が敵わなかった相手を自分が簡単に倒してしまっては封の自尊心を傷つける事になる。
だからあえて封が穿った一穴を突破口とする事で
『封あってこその勝利』
を演出してみせたのだ。
全く、余計な事に気を回す男だ。
『残念だったなァ!』
カイテツが戦意を取り戻して怒声をあげた。
邪衆院がちらりと見る。
口元が若干微笑んでいるようだ。
勝利を確信しているのか。
それに気づいているのかいないのか、カイテツは再び声を荒げた。
『左手は動かなくなっちまったが俺の利き腕は右だァ!右腕一本ありゃあこいつはぶんぶん振れるぜェ!』
それを聞いて邪衆院はふふっと笑った。
『やめておいた方がいい』
『なにィ!?』
『鉄槌のカイテツ。その呼び名はあくまでも鉄槌に意識を向けさせておいて仕込みの短刀で攻撃するという策略の為のものだ。だけどもうその手は俺に知られてる。必殺の技ってのは敵に知られた時点で無効化されちゃうもんだろ』
邪衆院が一歩近付く。
『なんだとォ!?』
『それにさ、そーゆーやり方って、殺し合いなんだから卑怯だとも思わないし全然ありだと思うんだけどね』
そう言って邪衆院は封を横目で見た。
表情こそ落ち着いてきたが傷だらけで血にまみれている事は変わりない。
邪衆院の声に、ちょっとだけ、本当にわずかにだが力が入ったように思えた。
『なんかちょっと、腹が立ってんだよね』
更に一歩進む。
カイテツは気圧されたが、自分を鼓舞するように三度叫んだ。
『うるせェ!!きさまごとき、この鉄槌で充分なんだよォ!』
カイテツの右腕に力が入った。
『だからやめておけって。そんな愚鈍な武器は俺には通じないよ。それに』
右腕一本で鉄槌が振り上げられる。
カイテツの筋肉が怒張する。
『なんで俺がずっとこれを持ってたと思う?』
邪衆院が逆手に持った短剣をかざした。
その瞬間、鉄槌を振り上げたカイテツの右腕が、まるで破裂するように血飛沫をあげた。
ものすごい速さだ。
邪衆院はそれをものすごい速さでくぐるようにかわす。
カイテツは回転しながら槌を頭上に振り上げ、邪衆院めがけて叩きつける。
邪衆院は斜め前に踏み込み、カイテツの腕を封じるようにしてその攻撃を捌いた。
高速の攻防が続く。
しかし、
ものすごい速さの者と、ものすごい速さの者が戦ったならば、本人達にとってそれは通常の攻防にすぎない。
封は若干ではあるがカイテツに速度で劣っていた為苦戦を強いられたが、邪衆院はどうやらカイテツの速さを凌駕している。
封はおののいた。
一角衆は下忍といえども高い戦闘能力を持っている。
中忍上忍となれば推して知るべし。
断と封はその中でも桁違いの腕前を誇っていた。
カイテツを含む粛清隊はそれよりもはるかに強い。
なのに、
この邪衆院という男は、その粛清隊に対してすら余裕を見せている。
実力の底が全く見えない。
鉄槌が風を切る鋭い音が響く。
その中に時々、
ぱぱぱぱん
という乾いた音が混じる。
封は思考を止め、戦いが生む音に集中した。
びゅびゅんびゅん、ぱぱぱぱん
びゅん、がっ、びゅん、たっ、ぱぱぱぱん
それが幾度も繰り返され、封はようやく分かった。
ぱぱぱぱんという乾いた音は邪衆院の連撃の音だ。
カイテツの攻撃をかわしては四発、捌いては四発と、左右の拳を叩き込んでいる。
そしてその攻撃はどうやら、封が鎖帷子を破壊して脆くなった一点に正確に集中されているようだった。
この様子だと、戦闘が始まってから今の瞬間までに数十発、あるいは百数十発は拳を繰り出している事になる。
『ぐぬッ』
カイテツが小さく呻いて、その丸太のような左腕がだらりと下がった。
邪衆院の攻撃を一点に受け続けたのだ。仕方あるまい。
おそらく筋繊維が使い物にならなくなっているのだろう。
『じゃ、邪衆院ッ!きさまァ!!』
さすがのカイテツもよろめいて距離を取った。
だが、またも邪衆院はそれを無視して封に声をかけた。
『助かったよ。あんたが帷子と鎧を壊しといてくれて』
そう言われて封は笑った。
本当に愉快な気持ちになったからだ。
そんな状況でないのは分かっているのだが。
邪衆院ならばおそらく帷子や鎧など気にもせずカイテツを圧倒出来るはずだ。
なのに何故あの部位、封が鎧を破壊したあの一点への攻撃にこだわったのか。
それは、封に気を使ったからである。
封が敵わなかった相手を自分が簡単に倒してしまっては封の自尊心を傷つける事になる。
だからあえて封が穿った一穴を突破口とする事で
『封あってこその勝利』
を演出してみせたのだ。
全く、余計な事に気を回す男だ。
『残念だったなァ!』
カイテツが戦意を取り戻して怒声をあげた。
邪衆院がちらりと見る。
口元が若干微笑んでいるようだ。
勝利を確信しているのか。
それに気づいているのかいないのか、カイテツは再び声を荒げた。
『左手は動かなくなっちまったが俺の利き腕は右だァ!右腕一本ありゃあこいつはぶんぶん振れるぜェ!』
それを聞いて邪衆院はふふっと笑った。
『やめておいた方がいい』
『なにィ!?』
『鉄槌のカイテツ。その呼び名はあくまでも鉄槌に意識を向けさせておいて仕込みの短刀で攻撃するという策略の為のものだ。だけどもうその手は俺に知られてる。必殺の技ってのは敵に知られた時点で無効化されちゃうもんだろ』
邪衆院が一歩近付く。
『なんだとォ!?』
『それにさ、そーゆーやり方って、殺し合いなんだから卑怯だとも思わないし全然ありだと思うんだけどね』
そう言って邪衆院は封を横目で見た。
表情こそ落ち着いてきたが傷だらけで血にまみれている事は変わりない。
邪衆院の声に、ちょっとだけ、本当にわずかにだが力が入ったように思えた。
『なんかちょっと、腹が立ってんだよね』
更に一歩進む。
カイテツは気圧されたが、自分を鼓舞するように三度叫んだ。
『うるせェ!!きさまごとき、この鉄槌で充分なんだよォ!』
カイテツの右腕に力が入った。
『だからやめておけって。そんな愚鈍な武器は俺には通じないよ。それに』
右腕一本で鉄槌が振り上げられる。
カイテツの筋肉が怒張する。
『なんで俺がずっとこれを持ってたと思う?』
邪衆院が逆手に持った短剣をかざした。
その瞬間、鉄槌を振り上げたカイテツの右腕が、まるで破裂するように血飛沫をあげた。
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