2014-05-26(Mon)
小説・さやか見参!(235)
忍びの世界は綺麗事ではない。
心太郎は廟の前に座し、そんな事を考えていた。
山吹の里で最も高い場所に作られた、山吹流忍術の始祖が祀られている廟である。
辺りは静まり返っている。
丑三つも近い深夜である。
時折雲の隙間から月光が差し込み心太郎を照らす。
幼い心太郎は目を閉じている。
脳裏には、毒を飲んで自ら命を絶った音駒の姿が浮かんでいた。
生きていた頃の優しい笑顔の笑顔も浮かんでいた。
音駒を殺したのは自分だ、
心太郎はそう思っている。
守る事が出来なかったからではない。
いや、結果的にはそうなのだが…
確かに一角衆の企みを、血讐の謀を看破するのは難しい。
心太郎が及ぶ所ではない。
だが、山吹が動けば救えたはずである。
流派として動けば一角衆に数で押される事はなかったはずだし、頭領の武双、その弟である練武と不問であれば血讐の姦計を阻止する事が出来たはずなのだ。
だが、武双はそれを命じなかった。
こと幻龍組に関して、そして音駒の事に関してはさやかに一任し、その護衛は心太郎ただ一人と決められていたのである。
その理由は心太郎自身がよく分かっている。
さやかは知らぬ事なのだが、武双・練武・不問、そして心太郎の四人だけは分かっているのだ。
だから、
心太郎は、音駒を殺したのは自分だと思うのだ。
自分のこの宿命がなければもしかしたら…
いや、
人生に『もし』などありえない。
運命とは必然の積み重ねでしかないのだから。
音駒を失って、さやかは再び心を閉ざしてしまった。
せっかく光を取り戻したさやかの心は以前より更に深い暗黒に堕ちてしまった。
おそらく、いずれさやかは一角衆に戦いを挑むのだろう。
音駒の仇を取り、そして自分も死ぬ為。
イバラキに対してそうだったように、また復讐だけを拠り所にして生きようとするのだろう。
その全てが一角衆の狙いであるのに。
心太郎は音駒が本当に好きだった。
だから泣きたいぐらい悲しんでいる。
叫びたいぐらい怒っている。
だが、
心は不思議と落ち着いていた。
風のない草原のように。
波のない海のように。
『感情に動かされるべからず、感情を制せよ』
そんな極意が心太郎の心には、いや、彼の身体には刻み込まれているのだ。
心・技・体
それを極めし者は最高峰の忍びであるという。
心太郎は目を開いた。
同時に姿を見せた月がその目に光を与えた。
そして心太郎は立ち上がる。
心技体を極めた忍びが、自分の身体の中に居る事を確信して。
心太郎は廟の前に座し、そんな事を考えていた。
山吹の里で最も高い場所に作られた、山吹流忍術の始祖が祀られている廟である。
辺りは静まり返っている。
丑三つも近い深夜である。
時折雲の隙間から月光が差し込み心太郎を照らす。
幼い心太郎は目を閉じている。
脳裏には、毒を飲んで自ら命を絶った音駒の姿が浮かんでいた。
生きていた頃の優しい笑顔の笑顔も浮かんでいた。
音駒を殺したのは自分だ、
心太郎はそう思っている。
守る事が出来なかったからではない。
いや、結果的にはそうなのだが…
確かに一角衆の企みを、血讐の謀を看破するのは難しい。
心太郎が及ぶ所ではない。
だが、山吹が動けば救えたはずである。
流派として動けば一角衆に数で押される事はなかったはずだし、頭領の武双、その弟である練武と不問であれば血讐の姦計を阻止する事が出来たはずなのだ。
だが、武双はそれを命じなかった。
こと幻龍組に関して、そして音駒の事に関してはさやかに一任し、その護衛は心太郎ただ一人と決められていたのである。
その理由は心太郎自身がよく分かっている。
さやかは知らぬ事なのだが、武双・練武・不問、そして心太郎の四人だけは分かっているのだ。
だから、
心太郎は、音駒を殺したのは自分だと思うのだ。
自分のこの宿命がなければもしかしたら…
いや、
人生に『もし』などありえない。
運命とは必然の積み重ねでしかないのだから。
音駒を失って、さやかは再び心を閉ざしてしまった。
せっかく光を取り戻したさやかの心は以前より更に深い暗黒に堕ちてしまった。
おそらく、いずれさやかは一角衆に戦いを挑むのだろう。
音駒の仇を取り、そして自分も死ぬ為。
イバラキに対してそうだったように、また復讐だけを拠り所にして生きようとするのだろう。
その全てが一角衆の狙いであるのに。
心太郎は音駒が本当に好きだった。
だから泣きたいぐらい悲しんでいる。
叫びたいぐらい怒っている。
だが、
心は不思議と落ち着いていた。
風のない草原のように。
波のない海のように。
『感情に動かされるべからず、感情を制せよ』
そんな極意が心太郎の心には、いや、彼の身体には刻み込まれているのだ。
心・技・体
それを極めし者は最高峰の忍びであるという。
心太郎は目を開いた。
同時に姿を見せた月がその目に光を与えた。
そして心太郎は立ち上がる。
心技体を極めた忍びが、自分の身体の中に居る事を確信して。
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