2014-05-18(Sun)
小説・さやか見参!(234)
音駒が自死する少し前である。
『にいちゃんしっかりしてよ』
そう言いながら、幼い灯火丸(ともしびまる)は、木の幹に縛りつけられた紅蓮丸の縄を切った。
さやかによって縛り上げられた紅蓮丸だったが、先を急ぐさやかに忘れられ、半日ほど放置されていたのだ。
『寝てる場合じゃないよ。僕が通らなかったらどうするつもりだったの』
灯火丸は、紅蓮丸を長兄とする炎三兄弟の末弟である。
この二人、年齢は十五も離れているが、どうやら灯火丸の方がしっかりした性格のようである。
寝ぼけていた紅蓮丸は覚醒するにつれて、自分が弟の前で醜態を晒している事を自覚していった。
『と、灯火丸!?なぜここに!?』
声がうわずっている。
『炎丸にいちゃんが捕まったって噂を聞いたんで、これからどうするか作戦会議しようと思ったんだけど、紅蓮丸にいちゃんと連絡が取れなかったから。だから探しに来たんだよ』
縄から開放された腕を回して紅蓮丸が立ち上がる。
『よくここが分かりましたね』
『にいちゃん、伝説の剣を見つけたんでしょ、何かでっかいやつ』
そう言えば、ちょっと前までその剣をふるって山吹さやかと戦っていたのだ。
『もちろん見つけましたとも』
縛られていた醜態を取り繕うように自慢げに答える。
『で、その剣はどこにあるの?』
『あぐっ』
紅蓮丸は言葉につまった。
戦いに敗れ、さやかに奪われてしまった、とは弟には言えない。
灯火丸は兄の顔色を見てさらりと流した。
『それはまぁいいや。でっかくて重い剣を持って移動してたんなら何か痕跡があるんじゃないかと思って調べたんだ。そしたら』
紅蓮丸は驚いた。
『ワタクシの移動の痕跡を見つけたというのですか?そんな馬鹿な。我ら炎一族、荷重に左右されるような訓練はしていないはず』
失態続きで説得力がないが、紅蓮丸の身体能力と術は一流なのである。
『もちろんいつものにいちゃんなら居場所を探し当てる事は出来なかったよ。でもその伝説の剣は持ってる人を操る魔剣だって聞いたからさ。魔剣に操られてるにいちゃんなら、もしかしたら本領発揮出来てないかもと思って』
『確かにあの剣を持つと、人を斬る事以外考えられなくなってましたね…』
操られていた時の事をうっすら思い出す。
『でもまぁ結果的に良かったじゃない。ここで会う事が出来て。明るくなったら人が通るかもしれないしね』
灯火丸が明るく言った。
おそらく兄は誰かに戦いで破れ、せっかく手に入れた魔剣を奪われたのだろう。
弟の自分がそれに気付けば、自尊心が異常に強い兄は傷ついて落ち込んでしまうだろう。
落ち込んだ紅蓮丸はかなり面倒くさいのだ。
ここは魔剣の事を気にしていないふりをしなければ。
灯火丸は出来た弟であった。
『とにかく!炎丸にいちゃんをどうやって助けるか作戦会議しようよ!紅蓮丸にいちゃん、行こう!!』
灯火丸の小さな身体が駆けていった。
紅蓮丸はその後ろ姿を見て、
『どうやらワタクシが魔剣を失った事に気付いていないようですね。ふふふ、やはりまだ子供、か』
と呟いた。
書いている作者すら痛々しく感じるほどの駄目な兄であった。
『にいちゃんしっかりしてよ』
そう言いながら、幼い灯火丸(ともしびまる)は、木の幹に縛りつけられた紅蓮丸の縄を切った。
さやかによって縛り上げられた紅蓮丸だったが、先を急ぐさやかに忘れられ、半日ほど放置されていたのだ。
『寝てる場合じゃないよ。僕が通らなかったらどうするつもりだったの』
灯火丸は、紅蓮丸を長兄とする炎三兄弟の末弟である。
この二人、年齢は十五も離れているが、どうやら灯火丸の方がしっかりした性格のようである。
寝ぼけていた紅蓮丸は覚醒するにつれて、自分が弟の前で醜態を晒している事を自覚していった。
『と、灯火丸!?なぜここに!?』
声がうわずっている。
『炎丸にいちゃんが捕まったって噂を聞いたんで、これからどうするか作戦会議しようと思ったんだけど、紅蓮丸にいちゃんと連絡が取れなかったから。だから探しに来たんだよ』
縄から開放された腕を回して紅蓮丸が立ち上がる。
『よくここが分かりましたね』
『にいちゃん、伝説の剣を見つけたんでしょ、何かでっかいやつ』
そう言えば、ちょっと前までその剣をふるって山吹さやかと戦っていたのだ。
『もちろん見つけましたとも』
縛られていた醜態を取り繕うように自慢げに答える。
『で、その剣はどこにあるの?』
『あぐっ』
紅蓮丸は言葉につまった。
戦いに敗れ、さやかに奪われてしまった、とは弟には言えない。
灯火丸は兄の顔色を見てさらりと流した。
『それはまぁいいや。でっかくて重い剣を持って移動してたんなら何か痕跡があるんじゃないかと思って調べたんだ。そしたら』
紅蓮丸は驚いた。
『ワタクシの移動の痕跡を見つけたというのですか?そんな馬鹿な。我ら炎一族、荷重に左右されるような訓練はしていないはず』
失態続きで説得力がないが、紅蓮丸の身体能力と術は一流なのである。
『もちろんいつものにいちゃんなら居場所を探し当てる事は出来なかったよ。でもその伝説の剣は持ってる人を操る魔剣だって聞いたからさ。魔剣に操られてるにいちゃんなら、もしかしたら本領発揮出来てないかもと思って』
『確かにあの剣を持つと、人を斬る事以外考えられなくなってましたね…』
操られていた時の事をうっすら思い出す。
『でもまぁ結果的に良かったじゃない。ここで会う事が出来て。明るくなったら人が通るかもしれないしね』
灯火丸が明るく言った。
おそらく兄は誰かに戦いで破れ、せっかく手に入れた魔剣を奪われたのだろう。
弟の自分がそれに気付けば、自尊心が異常に強い兄は傷ついて落ち込んでしまうだろう。
落ち込んだ紅蓮丸はかなり面倒くさいのだ。
ここは魔剣の事を気にしていないふりをしなければ。
灯火丸は出来た弟であった。
『とにかく!炎丸にいちゃんをどうやって助けるか作戦会議しようよ!紅蓮丸にいちゃん、行こう!!』
灯火丸の小さな身体が駆けていった。
紅蓮丸はその後ろ姿を見て、
『どうやらワタクシが魔剣を失った事に気付いていないようですね。ふふふ、やはりまだ子供、か』
と呟いた。
書いている作者すら痛々しく感じるほどの駄目な兄であった。
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