2014-05-09(Fri)
小説・さやか見参!(232)
作戦が成就した後の血讐の酒宴は長い。
断の前で血讐とダチュラが酒を酌み交わし始めてからすでにけっこうな時間が経っている。
その間、血讐は今回の企みのからくりを語り続けていた。
一角衆が大きな目的を果たそうとする時、その裏では必ずでは必ず血讐が糸を引いている。
これは初代頭領・赤岩の時からそうなのだそうだ。
圧倒的な力で押そうとする赤岩を、謀略に長けた血讐が参謀として補佐していたのだろう。
もちろん断も血讐の指示で動いている。
若き頃の幻龍イバラキ、くちなわを罠に嵌めた時も、ただ血讐の指示に従っていた。
だが、ほとんどの場合、血讐の下で働く者は「結果がどうなるか」を知らされてはいない。
血讐は作戦の子細・詳細を事前に明かしたりはしない。
誰がどう動くのかを命じ、その時期を指示するだけである。
手下は、何の為に動いているかも知らず、何が行なわれようとしているのかも分からないまま任務に臨む。
そして、その作戦が上手く運び成果を挙げた場合のみ、終了後に全貌を聞く事が出来るのである。
今まさに、血讐は数年がかりの企てについてダチュラと、そして座敷の隅でふてくされている断に話して聞かせているのだ。
『さやかはな、死んだ兄の為にも生きていかねばと、そう思ったはずじゃ』
隻眼の老人は愉快さを噛み締めるように呟いた。
『音駒のまっすぐな生き様を見て、自分にも新しい生き方が出来るかもと、そんな希望を持ったはず』
杯を空ける。
すかさず女達が新しい酒を注ぐ。
『あの娘、山吹さやかはな、何かに依存せねば生きてゆけぬのよ。幼き頃より兄を慕い、兄に依存しておったゆえな』
ダチュラが杯で唇を湿らせる。
『それで今度は音駒を依存の対象にしたってわけか』
『いかにも』
血讐が満足げに頷く。
『自分にも音駒のような生き方が出来るかもしれぬ、そうやって生きてみたい、さやかはそんな希望を抱いたに違いない』
『で、希望が膨らんだ所で音駒を殺すと』
そう言われて血讐は片方の眉を上げた。
『殺したのではない。自ら死んだのだ。自ら死ぬよう仕組んだのだ。他者に殺されたのではさやかの心を砕く事は出来ぬ。死んだ許婚の為に生きると誓い、実際に必死で生きていた音駒が、その己の生き方を否定して死ぬ。なればこそ山吹さやかの心に生まれた希望も潰えるのじゃ。兄の為に生きるなど誤りであったのか、やはり兄の為には自分も死ぬしかないのか、とな』
そう言うと血讐は杯を置き、二度手を打った。
その音を合図に襖が開き、柔和な顔の老人が姿を見せた。
『血讐様、お久しゅうございます』
『入るが良い。ともに飲もうぞ』
老人は、血讐とダチュラと円座を組むような形で腰をおろした。
ダチュラは横目でちらりと老人を見ると、
『あぁ、これはこれは、巷で話題の』
と言ってにやりと笑った。
血讐は老人の杯に酒を注ぎながら
『そうよ、この者の働きこそが最後の一手だったのだ』
『いやいや、わしは何もしておりませぬ。全ては巷の噂のおかげ。その噂も全て血讐様が流布させて下さったものなれば』
老人は頭を下げた。
この老人は様々な声色を使い分けるという術を体得した一角衆の忍びである。
そして世間では、謎の辻占として知られている老人であった。
断の前で血讐とダチュラが酒を酌み交わし始めてからすでにけっこうな時間が経っている。
その間、血讐は今回の企みのからくりを語り続けていた。
一角衆が大きな目的を果たそうとする時、その裏では必ずでは必ず血讐が糸を引いている。
これは初代頭領・赤岩の時からそうなのだそうだ。
圧倒的な力で押そうとする赤岩を、謀略に長けた血讐が参謀として補佐していたのだろう。
もちろん断も血讐の指示で動いている。
若き頃の幻龍イバラキ、くちなわを罠に嵌めた時も、ただ血讐の指示に従っていた。
だが、ほとんどの場合、血讐の下で働く者は「結果がどうなるか」を知らされてはいない。
血讐は作戦の子細・詳細を事前に明かしたりはしない。
誰がどう動くのかを命じ、その時期を指示するだけである。
手下は、何の為に動いているかも知らず、何が行なわれようとしているのかも分からないまま任務に臨む。
そして、その作戦が上手く運び成果を挙げた場合のみ、終了後に全貌を聞く事が出来るのである。
今まさに、血讐は数年がかりの企てについてダチュラと、そして座敷の隅でふてくされている断に話して聞かせているのだ。
『さやかはな、死んだ兄の為にも生きていかねばと、そう思ったはずじゃ』
隻眼の老人は愉快さを噛み締めるように呟いた。
『音駒のまっすぐな生き様を見て、自分にも新しい生き方が出来るかもと、そんな希望を持ったはず』
杯を空ける。
すかさず女達が新しい酒を注ぐ。
『あの娘、山吹さやかはな、何かに依存せねば生きてゆけぬのよ。幼き頃より兄を慕い、兄に依存しておったゆえな』
ダチュラが杯で唇を湿らせる。
『それで今度は音駒を依存の対象にしたってわけか』
『いかにも』
血讐が満足げに頷く。
『自分にも音駒のような生き方が出来るかもしれぬ、そうやって生きてみたい、さやかはそんな希望を抱いたに違いない』
『で、希望が膨らんだ所で音駒を殺すと』
そう言われて血讐は片方の眉を上げた。
『殺したのではない。自ら死んだのだ。自ら死ぬよう仕組んだのだ。他者に殺されたのではさやかの心を砕く事は出来ぬ。死んだ許婚の為に生きると誓い、実際に必死で生きていた音駒が、その己の生き方を否定して死ぬ。なればこそ山吹さやかの心に生まれた希望も潰えるのじゃ。兄の為に生きるなど誤りであったのか、やはり兄の為には自分も死ぬしかないのか、とな』
そう言うと血讐は杯を置き、二度手を打った。
その音を合図に襖が開き、柔和な顔の老人が姿を見せた。
『血讐様、お久しゅうございます』
『入るが良い。ともに飲もうぞ』
老人は、血讐とダチュラと円座を組むような形で腰をおろした。
ダチュラは横目でちらりと老人を見ると、
『あぁ、これはこれは、巷で話題の』
と言ってにやりと笑った。
血讐は老人の杯に酒を注ぎながら
『そうよ、この者の働きこそが最後の一手だったのだ』
『いやいや、わしは何もしておりませぬ。全ては巷の噂のおかげ。その噂も全て血讐様が流布させて下さったものなれば』
老人は頭を下げた。
この老人は様々な声色を使い分けるという術を体得した一角衆の忍びである。
そして世間では、謎の辻占として知られている老人であった。
スポンサーサイト