2009-12-19(Sat)
アクションへの道(24)
ヒーロー役に入れていただき、大きな舞台に立つチャンスもいただき、ますますキャラクターショーにのめり込んでいたこの年の夏、親友が死にました。
アクションで、とかではなく単なる事故でしたが。
彼は中学時代の親友で、オリジナルヒーローの自主映画を一緒に撮った仲でした。
ヤスエという愛称で呼ばれていた彼はこの時専門学校に通っていましたが、僕がショーの世界に引きずり込んで、何度か現場に入ったばかりでした。
翌日の現場が夏の夜祭りで集合が遅かったので僕は夜更かしをして明け方寝たばかり。
午前中、知人のN君から電話がかかってきたのですが、それに出た事も記憶にないぐらい寝ぼけていました。
昼前に起きて現場の準備をしていると、母が僕に言いました。
母『N君はあんなに早く何の用やったと?』
僕はまったく記憶がありません。
僕『N?Nがどうかしたと?』
母『N君から電話があったやんね。覚えとらんと?』
そう言われて考えてみると…
ようやく記憶が蘇ってきました。
僕『…もしもし…』
N『あ、俺Nやけど、寝とった?』
僕『…うん…』
N『じゃあさ、今から話す事は現実味がないかもしれんけど夢じゃないけん、しっかり聞いてね。』
僕『…うん…』
N『ヤスエが死んだよ。』
僕『…』
N『どうも事故らしい。詳しくは分からないけど。何か分かったらまた連絡するけん。』
僕『…うん…』
そして僕は再び眠りについて、そのやり取りを忘れてしまっていたのでした。
慌てて家にあった新聞を見ましたが事故の記事はありません。
走ってコンビニに行き、いくつかの新聞を見ると、1つだけ事故の記事を載せているものがありました。
地元の山道…峠と呼べるほどのものでもない所ですが、そこで友達を助手席に乗せてドライブ中にカーブを曲がり切れずガードレールを突き破り6mの崖を落ちたそうです。
助手席の友人は怪我で済んだのですが、ヤスエは即死だったらしいと聞きました。
実は彼の親が新しい車を買ったばかりで、彼は調子に乗って連日その山道を飛ばしていたのでした。
かくいう僕も事故の前日、ヤスエの運転で同じ道を走っています。
その時彼はあるカーブで
『このカーブを曲がり切れんかったら俺は崖から落ちて死ぬやろうね。』
と言っていましたが、図らずもそれは翌日に現実になってしまったのです。
集合時間が近付いていたので、僕は混乱したまま事務所に向かいました。
事務所に着くと、集まったメンバー達が道場で楽しげに話していました。
この時の光景は何故か頭にこびりついています。
僕はしばらくその話に耳をかたむけてから、一段落ついた所でキャスティング担当の社員に言いました。
僕『スミマセン、ヤスエの奴、これから現場に入れなくなりました。』
社『どうした?』
僕『いや、あいつ死んだんですよ』
社『おいおい、そんな事は冗談でも言うなよ』
そう言った社員に新聞の切り抜きを見せると顔色がサァッと変わったのを覚えています。
僕はそのまま現場に行ってショーをしたのですが、放心して魂が抜けてたような気もするし、親友が死んだというのに普段通りだったような気もするし、結局この日の事は自分でもよく分かっていません。
彼の事故を悲しむつもりはないんです。自業自得ですから。
助手席に乗ってた友人が気の毒だし、事故が前日だったなら僕も被害にあってたかもしれません。
何より残されたお母さんが一番可哀想です。
漫画家のゆうきまさみ先生の初期の作品がコミックス化された時、ゆうき先生の友人でもあるとり・みき先生があとがきを書いておられました。
まだ2人が売れる前、若さゆえに馬鹿らしくも楽しかった毎日を過ごした事がつづってあって、今では取り返せないその思い出を、
『もう一度だけ言わせてもらう。あの時は本当に楽しかったぜ』
と締めてある文章でした。
僕は青春の楽しさや大人になる切なさ、そして仲間との友情に溢れたこのあとがきが大好きでよく話題にしていたのですが、その度にヤスエが
『じゃあアンタが成功して本を出したら俺があとがきを書いてやるよ。中学時代は本当に楽しかったぜ、ってな。』
と言ってくれていました。
もしこの先、僕が成功して万が一、本を出すような事があっても、あとがきに
『あの時は本当に楽しかったぜ』
と書いてくれる親友がいなくなった事だけが少し悲しいのでした。
今回はアクションどころかショーの話ですらないじゃないか…
次回はバッチリ本題に戻しますよ!
次回告知!
『初めてのしゃべり!』
見るでヤンス~♪
~余談~
ヤスエが事故った山道ですが、昔から
『深夜に13カーブを通ると首なしライダーが追いかけて来る』
という話がありました。
口裂け女ブームの後には
『13カーブで首なしライダーが巨大な鎌を持って追いかけて来る』
に変わっていて笑いました。
事故からしばらくして県外の知り合いから
『あの山、13カーブで赤いロードスターが追いかけてくるらしいね!』
と言われました。
赤いロードスター、それはヤスエが事故った車です。
あぁ、アイツも都市伝説になったのか…
と感慨深くなりました。
しかしそれから後に
『首のないドライバーが赤いロードスターで追いかけて来るらしい』
『大きな鎌を持っているらしい』
という噂を聞いた時にはかなりウケてしまいました。
ヤスエ、鎌はやめとこうぜ(笑)
アクションで、とかではなく単なる事故でしたが。
彼は中学時代の親友で、オリジナルヒーローの自主映画を一緒に撮った仲でした。
ヤスエという愛称で呼ばれていた彼はこの時専門学校に通っていましたが、僕がショーの世界に引きずり込んで、何度か現場に入ったばかりでした。
翌日の現場が夏の夜祭りで集合が遅かったので僕は夜更かしをして明け方寝たばかり。
午前中、知人のN君から電話がかかってきたのですが、それに出た事も記憶にないぐらい寝ぼけていました。
昼前に起きて現場の準備をしていると、母が僕に言いました。
母『N君はあんなに早く何の用やったと?』
僕はまったく記憶がありません。
僕『N?Nがどうかしたと?』
母『N君から電話があったやんね。覚えとらんと?』
そう言われて考えてみると…
ようやく記憶が蘇ってきました。
僕『…もしもし…』
N『あ、俺Nやけど、寝とった?』
僕『…うん…』
N『じゃあさ、今から話す事は現実味がないかもしれんけど夢じゃないけん、しっかり聞いてね。』
僕『…うん…』
N『ヤスエが死んだよ。』
僕『…』
N『どうも事故らしい。詳しくは分からないけど。何か分かったらまた連絡するけん。』
僕『…うん…』
そして僕は再び眠りについて、そのやり取りを忘れてしまっていたのでした。
慌てて家にあった新聞を見ましたが事故の記事はありません。
走ってコンビニに行き、いくつかの新聞を見ると、1つだけ事故の記事を載せているものがありました。
地元の山道…峠と呼べるほどのものでもない所ですが、そこで友達を助手席に乗せてドライブ中にカーブを曲がり切れずガードレールを突き破り6mの崖を落ちたそうです。
助手席の友人は怪我で済んだのですが、ヤスエは即死だったらしいと聞きました。
実は彼の親が新しい車を買ったばかりで、彼は調子に乗って連日その山道を飛ばしていたのでした。
かくいう僕も事故の前日、ヤスエの運転で同じ道を走っています。
その時彼はあるカーブで
『このカーブを曲がり切れんかったら俺は崖から落ちて死ぬやろうね。』
と言っていましたが、図らずもそれは翌日に現実になってしまったのです。
集合時間が近付いていたので、僕は混乱したまま事務所に向かいました。
事務所に着くと、集まったメンバー達が道場で楽しげに話していました。
この時の光景は何故か頭にこびりついています。
僕はしばらくその話に耳をかたむけてから、一段落ついた所でキャスティング担当の社員に言いました。
僕『スミマセン、ヤスエの奴、これから現場に入れなくなりました。』
社『どうした?』
僕『いや、あいつ死んだんですよ』
社『おいおい、そんな事は冗談でも言うなよ』
そう言った社員に新聞の切り抜きを見せると顔色がサァッと変わったのを覚えています。
僕はそのまま現場に行ってショーをしたのですが、放心して魂が抜けてたような気もするし、親友が死んだというのに普段通りだったような気もするし、結局この日の事は自分でもよく分かっていません。
彼の事故を悲しむつもりはないんです。自業自得ですから。
助手席に乗ってた友人が気の毒だし、事故が前日だったなら僕も被害にあってたかもしれません。
何より残されたお母さんが一番可哀想です。
漫画家のゆうきまさみ先生の初期の作品がコミックス化された時、ゆうき先生の友人でもあるとり・みき先生があとがきを書いておられました。
まだ2人が売れる前、若さゆえに馬鹿らしくも楽しかった毎日を過ごした事がつづってあって、今では取り返せないその思い出を、
『もう一度だけ言わせてもらう。あの時は本当に楽しかったぜ』
と締めてある文章でした。
僕は青春の楽しさや大人になる切なさ、そして仲間との友情に溢れたこのあとがきが大好きでよく話題にしていたのですが、その度にヤスエが
『じゃあアンタが成功して本を出したら俺があとがきを書いてやるよ。中学時代は本当に楽しかったぜ、ってな。』
と言ってくれていました。
もしこの先、僕が成功して万が一、本を出すような事があっても、あとがきに
『あの時は本当に楽しかったぜ』
と書いてくれる親友がいなくなった事だけが少し悲しいのでした。
今回はアクションどころかショーの話ですらないじゃないか…
次回はバッチリ本題に戻しますよ!
次回告知!
『初めてのしゃべり!』
見るでヤンス~♪
~余談~
ヤスエが事故った山道ですが、昔から
『深夜に13カーブを通ると首なしライダーが追いかけて来る』
という話がありました。
口裂け女ブームの後には
『13カーブで首なしライダーが巨大な鎌を持って追いかけて来る』
に変わっていて笑いました。
事故からしばらくして県外の知り合いから
『あの山、13カーブで赤いロードスターが追いかけてくるらしいね!』
と言われました。
赤いロードスター、それはヤスエが事故った車です。
あぁ、アイツも都市伝説になったのか…
と感慨深くなりました。
しかしそれから後に
『首のないドライバーが赤いロードスターで追いかけて来るらしい』
『大きな鎌を持っているらしい』
という噂を聞いた時にはかなりウケてしまいました。
ヤスエ、鎌はやめとこうぜ(笑)
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