2014-04-28(Mon)
小説・さやか見参!(230)
『まったくよ、相変わらず気の長ぇじじいだぜ』
一角衆の砦にある血讐の屋敷、その座敷の片隅で断は聞こえよがしに呟いた。
だが、聞こえているはずの血讐は、まるで聞こえていないかのように酒を飲んでいる。
女達をはべらせた血讐と向かい合って酒を酌み交わしているのは白衣の男だ。
断は以前この男と会っている。
その時の第一印象は
『楽しみながら殺しが出来る男』
だった。
一角衆にいる者なら『平気で殺しが出来る』のは当たり前だ。
だが、平気で出来るのと楽しみながら出来るのとは大きく違う、と断は思う。
手段として殺すのか、殺す事が目的なのか…
『これでこの役ともおさらば出来るな』
男は白衣を脱ぎ捨てて断の方に放った。
ふわりと落ちた白衣から漂う薬臭さに断は舌打ちした。
血讐が男の杯に酒を注ぐ。
『そうだな、ご苦労だった、ダチュラよ』
ダチュラと呼ばれた男は、ふん、と鼻で笑って一気に杯を空ける。
『七年、いや、八年か。まぁ長いような短いような。もっとも血讐様の策にしては短い方だろうけどよ』
血讐がもう一度酒を注ぐ。
『皮肉か?』
『いいや、なかなか楽しめたからな。文句はねぇよ』
今度は血讐がふんと笑って酒を飲んだ。
女達が競うように徳利を差し出した。
そんな光景をぼんやりと眺めながら断が聞いた話によると…
このダチュラという男、本来は一角衆の統率を担う『粛清隊』の一員で、通り名を『剣のダチュラ』というらしい。
元々は毒を使う事に長けた忍びなのだそうだ。
毒を使うという事は薬に関しても造詣が深くなければならない。
ある種の医者のような役割も担っているようだ。
このダチュラ、八年前に血讐の命を受けて町へ入り、小さな薬屋を始めた。
毒ではなく薬を売る、普通の薬屋である。
ふらりと現れた余所者ゆえ最初は客も少なかったが、薬の効き目と主人の人柄が評判となり、ふた月ほどで繁盛するようになった。
それからは弟子を取り、店を広げ、簡単な治療なら施すようになり、わずか三年で医者として町の人々の尊敬を集めるに至った。
その頃である。
ダチュラは一人の青年を弟子にした。
許婚を病気で失い、傷心のあまり自らの命を絶とうとした男である。
ダチュラは諭した。
『死にたくなくても命を落とす人がいる。それがお前の大切な人ならば、その人はお前の死を願ってはいないだろう。だからお前は死んだ者の分まで精一杯生きねばならないのだ』
と。
青年はその言葉を受け入れた。
血讐の狙い通りだった。
一角衆の砦にある血讐の屋敷、その座敷の片隅で断は聞こえよがしに呟いた。
だが、聞こえているはずの血讐は、まるで聞こえていないかのように酒を飲んでいる。
女達をはべらせた血讐と向かい合って酒を酌み交わしているのは白衣の男だ。
断は以前この男と会っている。
その時の第一印象は
『楽しみながら殺しが出来る男』
だった。
一角衆にいる者なら『平気で殺しが出来る』のは当たり前だ。
だが、平気で出来るのと楽しみながら出来るのとは大きく違う、と断は思う。
手段として殺すのか、殺す事が目的なのか…
『これでこの役ともおさらば出来るな』
男は白衣を脱ぎ捨てて断の方に放った。
ふわりと落ちた白衣から漂う薬臭さに断は舌打ちした。
血讐が男の杯に酒を注ぐ。
『そうだな、ご苦労だった、ダチュラよ』
ダチュラと呼ばれた男は、ふん、と鼻で笑って一気に杯を空ける。
『七年、いや、八年か。まぁ長いような短いような。もっとも血讐様の策にしては短い方だろうけどよ』
血讐がもう一度酒を注ぐ。
『皮肉か?』
『いいや、なかなか楽しめたからな。文句はねぇよ』
今度は血讐がふんと笑って酒を飲んだ。
女達が競うように徳利を差し出した。
そんな光景をぼんやりと眺めながら断が聞いた話によると…
このダチュラという男、本来は一角衆の統率を担う『粛清隊』の一員で、通り名を『剣のダチュラ』というらしい。
元々は毒を使う事に長けた忍びなのだそうだ。
毒を使うという事は薬に関しても造詣が深くなければならない。
ある種の医者のような役割も担っているようだ。
このダチュラ、八年前に血讐の命を受けて町へ入り、小さな薬屋を始めた。
毒ではなく薬を売る、普通の薬屋である。
ふらりと現れた余所者ゆえ最初は客も少なかったが、薬の効き目と主人の人柄が評判となり、ふた月ほどで繁盛するようになった。
それからは弟子を取り、店を広げ、簡単な治療なら施すようになり、わずか三年で医者として町の人々の尊敬を集めるに至った。
その頃である。
ダチュラは一人の青年を弟子にした。
許婚を病気で失い、傷心のあまり自らの命を絶とうとした男である。
ダチュラは諭した。
『死にたくなくても命を落とす人がいる。それがお前の大切な人ならば、その人はお前の死を願ってはいないだろう。だからお前は死んだ者の分まで精一杯生きねばならないのだ』
と。
青年はその言葉を受け入れた。
血讐の狙い通りだった。
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