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2014-04-27(Sun)

小説・さやか見参!(229)

さやかと心太郎が長屋に飛び込んだ時、すでに音駒は仰向けに倒れていた。

心太郎が飛びついて呼吸と鼓動と脈を診る。

が、その顔はみるみる青ざめて、さやかを見て首を横に振った。

音駒の手元には薬皿が転がっている。

おそらく帰り着いてすぐに即効性の毒を服用したのだろう。

さやかは声にならぬ悲鳴をあげながら音駒の遺体にすがりつこうとした。

心太郎がそれを止める。

(離してよ!音駒さんが!!)

忍び同士にしか聞こえぬ発声法だ。
ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。

(さやか殿!落ち着くっシュ!!)

心太郎は全力でさやかにしがみついていた。

(まだ分からないわよ!山吹に連れて帰って解毒すれば!)

(もう無理っシュよ!いくら山吹の医術でも、死んだ者を蘇生させる事は出来ないっシュ!!)

さやかは心太郎の胸倉を掴んで怒りの形相で睨みつけた。

(心太郎、それじゃ諦めろって言うの?何の罪もない、一生懸命に、病人を救う為に頑張って生きてた音駒さんが死んだのよ!?それをあんたは平気で諦められるって言うの!?)

そう言われて心太郎は、さやかの手を払いのけ胸倉を掴み返した。

(…平気?そんなわけないじゃないっシュか!!さやか殿、音駒さんの事を大切に思ってるのは自分だけだと思ってるっシュか?雷牙殿だって燕殿だって、頭領だってみんな音駒さんの事を大切に思ってるっシュ!もちろんおいらだって!!…でも…)

怒りの表情のまま心太郎がぽろぽろと涙を流す。

(おいらは音駒さんを守れなかったっシュ!自ら命を絶ったのは間違いないけど、どこかで必ずさっきの連中が絡んでるっシュ!)

確かにさっき白い羽織りの男は「そろそろだからな」と言って去った。

つまりは時間稼ぎだったのだ。

(でも…)

疑問を呈そうとするさやかの襟から心太郎が手を離す。

(そうっシュ。もし連中が音駒さんを殺害しようとしたんなら、その気配はおいらにも、後から来たさやか殿にだって感じ取れたはずっシュ。その気配がなかったから敵が他にいないと踏んでおいら達は戦ってた。何があったのか、今はおいらにも分からないっシュ。ただ、おいらは音駒さんを守れなかったっシュ…)

心太郎はがくりと膝を落とすと声をあげずに泣いた。

さやかは、涙はとめどなく流れるのに、まだどこか夢を見ているような気持ちだった。

さやかの命を救ってくれた音駒。

さやかが命を救った音駒。

一度は死を決意しながらも亡き許婚の為に生きる事を選んだ音駒。

兄の死で生きる意味を見失っていたさやかに、

『残された者は死んだ者の分まで生きねばならない』

と教えてくれた音駒。

その音駒が、

自ら死を選ぶなんて。

ならば私は、

兄を失って死を望んだ私は、

兄の為にも生きようと決めた私は、

これからどう進めばいいのか。

さやかの鼻腔を薬の匂いが通り過ぎた。

入り口の脇に置いてある行李には治療で使うたくさんの薬が入っているのだ。

この香りは、音駒が生きている証しだったはずなのに。

涙でぼやけるさやかの視界の隅に何か白い物が動いた。

それは隙間風で飛んだ和紙のようだった。

おそらくは音駒が飲んだ毒が包んであったのだろう。

その紙を見てさやかははっとした。

小さな字で何か書き付けてあったからだ。

急いで拾い上げてその文字を読む。

読んで、さやかは完全に力を失った。

それは音駒の遺書といって良かった。

そこには殴り書きのように

『失った者の為に生きるなど、傲慢であり過ちであった。我、その過ちを償う』

と書かれていたのだ。

死んだ兄の為に、大好きだった山吹たけるの為にこれからは生きる。

音駒と会ってそう思えるようになっていたさやかは、その思考の後ろ盾を完全に失ってしまったのだ。

さやかは再び、己の心に暗く重い死の影が張り付くのを感じていた。
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コメント

No title

酷い有様ですが…。


心太郎、踏ん張りどころです!

>玉姫さん

書いてて気持ちが重くなる展開です。
頑張って続けます。
心太郎にも頑張ってもらいます!!
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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