2014-04-22(Tue)
小説・さやか見参!(227)
『どうやら図星みてぇだな』
血飛沫鬼がにやりと笑った。
『あの術を使ったおまえとやり合ってみたかったんだが』
一角衆が心太郎を取り囲む。
『無理なのかねぇ』
輪が少しずつ小さくなる。
傷ついた心太郎が追い詰められていく。
その時、
『心太郎!!』
上空から声が響いた。
下忍どもが一斉に天を仰ぐ。
手裏剣を飛ばし、刀を振りかざして降ってくる桜色の忍び装束。
心太郎を取り囲む輪が散った。
『来たか』
血飛沫鬼が呟く。
血塗呂が楽しそうに笑う。
心太郎の前には刀を振りかざした少女が立っていた。
『山吹流忍術正統後継者、山吹さやか!ただいま見参!!』
心太郎が笑顔を見せる。
『さやか殿!!』
『心太郎、大丈夫!?遅くなってごめんね!!』
肩越しに詫びる。
『全然平気っシュ!』
心太郎が血のりと刃こぼれでぼろぼろの刀を構えなおす。
さやかがいると力が湧いてくる。
やはり自分はさやかを守る為に存在しているのだと心太郎は思った。
『心太郎!こんな奴ら蹴散らしてやるわよ!』
心太郎の傷だらけの身体にぎゅっと力が満ちた。
『はいっシュ!!』
『…え?』
音駒はとまどっている。
まさかそんな言葉を聞くとは想像もしていなかった。
おみつの声は、その言葉をもう一度繰り返す。
『ねぇ、どうして生きてるの?』
『どうして、って…?』
『音駒さん、私の病気が治らないと分かった時に言ったじゃない。おみつが死んだら生きていけないって』
確かに言った。だが、
『音駒さん、一緒になろうって決めた時に言ったじゃない。生きるも死ぬもおみつと一緒だって』
確かに言った。だが、
『それなのに、どうして、どうして』
おみつの優しい声に徐々に恨みがこもっていく。
『どうして私が死んだ後も平気で生きてるの!!』
おみつが叫んだ。
音駒はするどい刃で心臓を貫かれたような衝撃を受けた。
『そ、それは、死んだお前の分まで生きるのが、わ、私の役目だと、』
これまで揺るぎなかった音駒の信念が一気に揺らいだ。
そして信念はただの弁解に姿を変えた。
だつらは言った。
『世の中には死にたくなくても死んでいく者がいるのだぞ。残された者が命を捨ててどうする?』
と。
『お前の許婚はお前の死を願うような女だったのか?そうではなかろう。ならば許婚の分までしっかり生きよ』
と。
それが、
おみつは動揺する音駒を嘲り笑った。
『死んだ私の分まで生きるですって?私は!あなたにそんな事を望んじゃいなかった!!』
この言葉で、許婚を失ってから現在までの音駒の人生は完全に否定された。
『私は、苦しんで!苦しんで!あなたの事だけを考えて!あの世でなら音駒さんと一緒になれると信じて死んだのに!あなたは!私が死んでも平気だったんだ!私が!たった独りで暗く寂しい場所であなたを待っていても平気で生きていたんだ!』
この声は、死にたくないと取り乱した時のおみつの声だった。
おみつはずっと、平気で生きている私を恨んでいたのか。
『おみつ、私は、私は…』
間違っていたのか。
おみつは最後に脱力した声で
『死者の為に生きるなんて、言い訳でしかないじゃないの』
と呟いて、それきり喋らなくなった。
老人も声を発しなかった。
老人がまだそこにいるのか、それとももういないのか分からなかったが、すでに音駒にはどうでもいい事になっていた。
これまで、おみつの事を考えて生きてきた。
おみつの為に生きるのだと思って。
だがそれは、
音駒はうつろな表情でふらふらと家路についた。
自ら毒を飲んで死んだ音駒が長屋の隣人に発見されたのは翌日の昼過ぎの事だった。
血飛沫鬼がにやりと笑った。
『あの術を使ったおまえとやり合ってみたかったんだが』
一角衆が心太郎を取り囲む。
『無理なのかねぇ』
輪が少しずつ小さくなる。
傷ついた心太郎が追い詰められていく。
その時、
『心太郎!!』
上空から声が響いた。
下忍どもが一斉に天を仰ぐ。
手裏剣を飛ばし、刀を振りかざして降ってくる桜色の忍び装束。
心太郎を取り囲む輪が散った。
『来たか』
血飛沫鬼が呟く。
血塗呂が楽しそうに笑う。
心太郎の前には刀を振りかざした少女が立っていた。
『山吹流忍術正統後継者、山吹さやか!ただいま見参!!』
心太郎が笑顔を見せる。
『さやか殿!!』
『心太郎、大丈夫!?遅くなってごめんね!!』
肩越しに詫びる。
『全然平気っシュ!』
心太郎が血のりと刃こぼれでぼろぼろの刀を構えなおす。
さやかがいると力が湧いてくる。
やはり自分はさやかを守る為に存在しているのだと心太郎は思った。
『心太郎!こんな奴ら蹴散らしてやるわよ!』
心太郎の傷だらけの身体にぎゅっと力が満ちた。
『はいっシュ!!』
『…え?』
音駒はとまどっている。
まさかそんな言葉を聞くとは想像もしていなかった。
おみつの声は、その言葉をもう一度繰り返す。
『ねぇ、どうして生きてるの?』
『どうして、って…?』
『音駒さん、私の病気が治らないと分かった時に言ったじゃない。おみつが死んだら生きていけないって』
確かに言った。だが、
『音駒さん、一緒になろうって決めた時に言ったじゃない。生きるも死ぬもおみつと一緒だって』
確かに言った。だが、
『それなのに、どうして、どうして』
おみつの優しい声に徐々に恨みがこもっていく。
『どうして私が死んだ後も平気で生きてるの!!』
おみつが叫んだ。
音駒はするどい刃で心臓を貫かれたような衝撃を受けた。
『そ、それは、死んだお前の分まで生きるのが、わ、私の役目だと、』
これまで揺るぎなかった音駒の信念が一気に揺らいだ。
そして信念はただの弁解に姿を変えた。
だつらは言った。
『世の中には死にたくなくても死んでいく者がいるのだぞ。残された者が命を捨ててどうする?』
と。
『お前の許婚はお前の死を願うような女だったのか?そうではなかろう。ならば許婚の分までしっかり生きよ』
と。
それが、
おみつは動揺する音駒を嘲り笑った。
『死んだ私の分まで生きるですって?私は!あなたにそんな事を望んじゃいなかった!!』
この言葉で、許婚を失ってから現在までの音駒の人生は完全に否定された。
『私は、苦しんで!苦しんで!あなたの事だけを考えて!あの世でなら音駒さんと一緒になれると信じて死んだのに!あなたは!私が死んでも平気だったんだ!私が!たった独りで暗く寂しい場所であなたを待っていても平気で生きていたんだ!』
この声は、死にたくないと取り乱した時のおみつの声だった。
おみつはずっと、平気で生きている私を恨んでいたのか。
『おみつ、私は、私は…』
間違っていたのか。
おみつは最後に脱力した声で
『死者の為に生きるなんて、言い訳でしかないじゃないの』
と呟いて、それきり喋らなくなった。
老人も声を発しなかった。
老人がまだそこにいるのか、それとももういないのか分からなかったが、すでに音駒にはどうでもいい事になっていた。
これまで、おみつの事を考えて生きてきた。
おみつの為に生きるのだと思って。
だがそれは、
音駒はうつろな表情でふらふらと家路についた。
自ら毒を飲んで死んだ音駒が長屋の隣人に発見されたのは翌日の昼過ぎの事だった。
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