2014-04-18(Fri)
小説・さやか見参!(225)
音駒は動揺して立ちすくんでいる。
この老人には、かむろの少女が見えているのか。
『珍しいのう、そのような歳でもあるまいに』
確かに十五、六で髪を切り揃えているのは珍しい。
とうに結っている年齢だ。
だが、
おみつは最期の数ヶ月、まるで少女のような頭をしていた!
音駒の脳裏には死んだ許婚の姿だけが投影されていた。
この老人が死者を降ろせるというのは真実だったのか。
衝撃を受けながらも、音駒はどこかでそれを否定しようとしていた。
否定しながらも、
(もう一度おみつと話す事が出来るかもしれない)
という期待も抱えていた。
『そ、そのかむろの少女は、なにゆえに私を呼んだのでしょう』
『おや、信じぬのではなかったかな』
『あ、いえ…やはり気になりまして…』
音駒はしどろもどろに答えた。
『ならば降ろしてやろう。自身の口から訊くがいい』
『えっ、』
音駒が驚くのと同時に老人は黙り込んだ。
おそらく瞑想に入ったのだろう。
それから長い時が流れた。
音駒は、再びこの老人が口を開くのを待った。
待ちながら、おみつの事を考えていた。
おみつは病床で長い髪を切った。
病気が治らぬのなら寝たきりに長い髪は邪魔であると思ったのか、はたまた元気だった頃の姿に戻りたかったのかは分からない。
音駒はおかっぱに揃えたおみつの髪を見る度に、童だった頃の記憶を思い出して、もうあの頃のように元気に笑い合える日は来ないのだと思いつめて何度も泣いた。
おみつはその姿のままで死の世界をさまよっていたのだろうか。
辺りはすでに闇に閉ざされている。
老人の姿もほとんど見えない。
だが、
老人がいた辺りでかすかに
ひゅう
と音がした。
大きく息を吸うような音だ。
そしてその直後、
高く澄んだ声が、
かつて音駒が大好きだった声が、
『音駒さん』
と自分を呼んだ。
心太郎と一角衆の戦いは続いている。
何も見えぬ暗闇の中で金属と金属がぶつかり合う音だけが響く。
斬り結んだ際の一瞬の火花以外は存在せぬ戦いだった。
だが、忍者達には暗いも明るいも関係ない。
敵のわずかな動きさえ見逃さぬ能力を身に付けているのだ。
心太郎が下忍を斬った。
白装束がどさりと倒れる。
すでにそこかしこに下忍の屍が転がっている。
心太郎は全てを一撃で倒していた。
多勢を相手にしているので敵一人に二手も三手も使う余裕はない。
刀だって使い物にならなくなってくる。
心臓に一突き、そうやって少しずつ敵の数を減らしていった。
だが最初の数が違いすぎる。
まだまだ多勢に無勢は変わらぬし、なにより血飛沫鬼と血塗呂にはまだ手傷を負わせてすらいないのだ。
この老人には、かむろの少女が見えているのか。
『珍しいのう、そのような歳でもあるまいに』
確かに十五、六で髪を切り揃えているのは珍しい。
とうに結っている年齢だ。
だが、
おみつは最期の数ヶ月、まるで少女のような頭をしていた!
音駒の脳裏には死んだ許婚の姿だけが投影されていた。
この老人が死者を降ろせるというのは真実だったのか。
衝撃を受けながらも、音駒はどこかでそれを否定しようとしていた。
否定しながらも、
(もう一度おみつと話す事が出来るかもしれない)
という期待も抱えていた。
『そ、そのかむろの少女は、なにゆえに私を呼んだのでしょう』
『おや、信じぬのではなかったかな』
『あ、いえ…やはり気になりまして…』
音駒はしどろもどろに答えた。
『ならば降ろしてやろう。自身の口から訊くがいい』
『えっ、』
音駒が驚くのと同時に老人は黙り込んだ。
おそらく瞑想に入ったのだろう。
それから長い時が流れた。
音駒は、再びこの老人が口を開くのを待った。
待ちながら、おみつの事を考えていた。
おみつは病床で長い髪を切った。
病気が治らぬのなら寝たきりに長い髪は邪魔であると思ったのか、はたまた元気だった頃の姿に戻りたかったのかは分からない。
音駒はおかっぱに揃えたおみつの髪を見る度に、童だった頃の記憶を思い出して、もうあの頃のように元気に笑い合える日は来ないのだと思いつめて何度も泣いた。
おみつはその姿のままで死の世界をさまよっていたのだろうか。
辺りはすでに闇に閉ざされている。
老人の姿もほとんど見えない。
だが、
老人がいた辺りでかすかに
ひゅう
と音がした。
大きく息を吸うような音だ。
そしてその直後、
高く澄んだ声が、
かつて音駒が大好きだった声が、
『音駒さん』
と自分を呼んだ。
心太郎と一角衆の戦いは続いている。
何も見えぬ暗闇の中で金属と金属がぶつかり合う音だけが響く。
斬り結んだ際の一瞬の火花以外は存在せぬ戦いだった。
だが、忍者達には暗いも明るいも関係ない。
敵のわずかな動きさえ見逃さぬ能力を身に付けているのだ。
心太郎が下忍を斬った。
白装束がどさりと倒れる。
すでにそこかしこに下忍の屍が転がっている。
心太郎は全てを一撃で倒していた。
多勢を相手にしているので敵一人に二手も三手も使う余裕はない。
刀だって使い物にならなくなってくる。
心臓に一突き、そうやって少しずつ敵の数を減らしていった。
だが最初の数が違いすぎる。
まだまだ多勢に無勢は変わらぬし、なにより血飛沫鬼と血塗呂にはまだ手傷を負わせてすらいないのだ。
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