2014-04-13(Sun)
小説・さやか見参!(223)
だつら庵を後にした音駒は一旦自宅の長屋に戻る事にした。
仕事を再開する準備をして、それから改めて山吹の里に向かう事にしたのである。
さやかや心太郎や燕や雷牙に礼を言って、だつら庵に来てもらう日程を話し合って、そしてまた仕事に励もうと決めたのだ。
だつらのような薬師になる事がさやか達への一番の恩返しになる気がしたし、そうする事で許婚のおみつにも顔向け出来ると音駒は思った。
おみつは自分の幸せを一番に願って愛してくれた。
自分と一緒に生きたいと言ってくれた。
もしあの時おみつの後を追っていたら、おみつは「そんな事は望んでいなかった」と浄土で自分を責めたに違いない。
おみつの為に、いや、おみつを愛した自分の為に精一杯生きよう。
そう考えながら音駒は歩いた。
その遥か遠くから心太郎がついて歩く。
秘かに音駒を警護する為だ。
気付かれるような距離ではないが顔を隠して変装している。
心太郎はさやかの事を考えていた。
音駒はさやかにとっての光だ。
兄を殺され闇に閉ざされていたさやかの心に今は音駒という光が差している。
『死した者を思えばこそ、残された者は必死に生きねばならない』
そう諭してくれたのが音駒なのだ。
彼と出会ってから、さやかに重々しくこびりついていた死への憧憬が薄らいでいる事を心太郎は感じ取っていた。
一角衆が音駒を狙ったのも、その影響力を察知したからに違いない。
さやかの為に、いや、さやかを守りたい自分自身の為に音駒を守る。
心太郎はそう決意して空を仰いだ。
日が傾こうとしている。
前方を歩く音駒は寺町に入っていった。
寺院が立ち並ぶこの区画を抜けると音駒の住む町が見えてくる。
音駒が少し足を早めた。
その時、
心太郎は背後に気配を感じた。
紛う事なき忍びの気配である。
意識を集中するまでもなく、あちこちから敵意や殺気が漂っている。
五や十ではない、おそらく三十から四十はいるのだろう。
間違いなく一角衆だ。
音駒一人にこれだけの数を要するはずもなく、警護の心太郎を視野に入れた部隊である事は疑いようもない。
心太郎の背中の小さな葛籠から伝令の鳩が飛び出した。
音駒の窮地をさやかに知らせる為だ。
鳩が無事に飛び去ったのを見届けて、心太郎が葛籠を放り捨てる。
風が吹いた。
土埃が舞った。
その中から忍び装束の心太郎が姿を現した。
その心太郎を一角衆が取り囲む。
にやにやと正面に立つのは血飛沫鬼、その傍らで座り込んでいるのは腕に鉄の鈎爪を着けた血塗呂だ。
血塗呂以外の全員が一斉に刀を抜いた。
心太郎も抜刀する。
鍔に彫られた山吹紋がぎらりと光る。
『ここから先は通さないっシュ!』
心太郎が構えるのと一角衆が動き出すのはほぼ同時であった。
音駒はすでに寺町を抜けようとしている。
日が暮れる前に住まいに戻りたかったので殊の外早足になっていたらしい。
もうすぐだ。
久しぶりの見慣れた眺めに音駒が安堵したその時、
『もし』
と声をかけてくる者があった。
驚いて振り向くとそこには、
辻占の姿をした老人が立っていた。
仕事を再開する準備をして、それから改めて山吹の里に向かう事にしたのである。
さやかや心太郎や燕や雷牙に礼を言って、だつら庵に来てもらう日程を話し合って、そしてまた仕事に励もうと決めたのだ。
だつらのような薬師になる事がさやか達への一番の恩返しになる気がしたし、そうする事で許婚のおみつにも顔向け出来ると音駒は思った。
おみつは自分の幸せを一番に願って愛してくれた。
自分と一緒に生きたいと言ってくれた。
もしあの時おみつの後を追っていたら、おみつは「そんな事は望んでいなかった」と浄土で自分を責めたに違いない。
おみつの為に、いや、おみつを愛した自分の為に精一杯生きよう。
そう考えながら音駒は歩いた。
その遥か遠くから心太郎がついて歩く。
秘かに音駒を警護する為だ。
気付かれるような距離ではないが顔を隠して変装している。
心太郎はさやかの事を考えていた。
音駒はさやかにとっての光だ。
兄を殺され闇に閉ざされていたさやかの心に今は音駒という光が差している。
『死した者を思えばこそ、残された者は必死に生きねばならない』
そう諭してくれたのが音駒なのだ。
彼と出会ってから、さやかに重々しくこびりついていた死への憧憬が薄らいでいる事を心太郎は感じ取っていた。
一角衆が音駒を狙ったのも、その影響力を察知したからに違いない。
さやかの為に、いや、さやかを守りたい自分自身の為に音駒を守る。
心太郎はそう決意して空を仰いだ。
日が傾こうとしている。
前方を歩く音駒は寺町に入っていった。
寺院が立ち並ぶこの区画を抜けると音駒の住む町が見えてくる。
音駒が少し足を早めた。
その時、
心太郎は背後に気配を感じた。
紛う事なき忍びの気配である。
意識を集中するまでもなく、あちこちから敵意や殺気が漂っている。
五や十ではない、おそらく三十から四十はいるのだろう。
間違いなく一角衆だ。
音駒一人にこれだけの数を要するはずもなく、警護の心太郎を視野に入れた部隊である事は疑いようもない。
心太郎の背中の小さな葛籠から伝令の鳩が飛び出した。
音駒の窮地をさやかに知らせる為だ。
鳩が無事に飛び去ったのを見届けて、心太郎が葛籠を放り捨てる。
風が吹いた。
土埃が舞った。
その中から忍び装束の心太郎が姿を現した。
その心太郎を一角衆が取り囲む。
にやにやと正面に立つのは血飛沫鬼、その傍らで座り込んでいるのは腕に鉄の鈎爪を着けた血塗呂だ。
血塗呂以外の全員が一斉に刀を抜いた。
心太郎も抜刀する。
鍔に彫られた山吹紋がぎらりと光る。
『ここから先は通さないっシュ!』
心太郎が構えるのと一角衆が動き出すのはほぼ同時であった。
音駒はすでに寺町を抜けようとしている。
日が暮れる前に住まいに戻りたかったので殊の外早足になっていたらしい。
もうすぐだ。
久しぶりの見慣れた眺めに音駒が安堵したその時、
『もし』
と声をかけてくる者があった。
驚いて振り向くとそこには、
辻占の姿をした老人が立っていた。
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