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2014-03-30(Sun)

小説・さやか見参!(222)

音駒は静かに息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。

茶の香りが鼻に抜ける。

そして改めて、この庵に充満している心地良い薬臭さに安堵する。

『周りの方々に迷惑をかけておいて勝手だと思いますが、先生、私は生きていて良かったと胸を撫で下ろしています』

それを聞いてだつらは頷く。

『あの日、死にたいと、殺してくれとせがむ私に先生がおっしゃって下さった言葉を私は忘れません。「世の中には病や怪我で、死にたくなくとも死ぬ者がおるのだ」と。「死にたくないと泣きながら死んだ許嫁に申し開きが出来るのか」と』

『うむ』

『そう言われて私は生きる力が湧いたのです。おみつの』

おみつというのは死んだ許婚の名である。

『おみつの分まで生きねばと思えたからこそ私は今ここにいる。そして医学の徒として人を救う手助けをさせてもらえている。これは全て』

音駒は茶碗を置き、だつらの前に両手を着いた。

『私に生きる力を授けて下さった先生のおかげなのです』

だつらは実直な愛弟子を前にして優しくふっと笑った。

『何を言ってるんだお前は。いつも口をすっぱくして言っておるだろう。人を救うなんてのは驕った考えだと。自分を救えるのは自分自身。医学はそれを後押しするに過ぎないとね』

『しかし』

『お前を救ったのはお前自身だ。そしてお前の中にいるおみつさんだ。私に感謝するぐらいなら、お前の心の中にいるおみつさんに礼を言いなさい』

そう言ってだつらは立ち上がった。

『さて、そろそろ仕事に戻るとするか。頼まれてる薬草を煎じておかなければな。音駒、お前も今日は帰りなさい』

『え、でも』

『他の者達が手伝ってくれているからもうしばらくはゆっくり身体を休めておきなさい。みんな心配しているんだよ』

そう言われては返す言葉もない。

『分かりました…皆様にくれぐれもよろしくお伝え下さい』

『承知した。お前もあの少年とご家族によろしく伝えておいてくれよ。早く御礼をさせてもらわねば落ち着かないと』

『伝えておきます』

音駒は立ち上がると何度も頭を下げて庵を出た。

心太郎が遠くから見た音駒は先程までとは比べられぬほど晴れ晴れとした表情をしていた。

『おみつの為に生きる』

その思いが活力となっているのは間違いないようだった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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