2014-03-02(Sun)
小説・さやか見参!(218)
さやかの足元に倒れた紅蓮丸を見て邪衆院が感心したような声を上げた。
『やるねぇ。噂通りだ』
さやかは刀を納めながらじろりと睨む。
『どんな噂よ。どうせイバラキがろくでもない事を言ってんでしょ』
邪衆院はにやりと笑う。
『さぁ?どうかな』
含みを持たせた笑みなのだが、そこから邪気は感じ取れない。
さやかは邪衆院の笑顔を見て
『やっぱり変な奴』
と吐き捨てた。
『この魔剣、どうする?』
邪衆院が声をかける。
さやかは戦いに巻き込まれボロボロになってしまった樹の幹に紅蓮丸を縛りつけながら
『荘島のお殿様に届けるわ。そこで見つかったんなら荘島のお宝でしょ』
と答えた。
それを聞いた邪衆院は隣にしゃがみ、さやかの顔を覗き込んできた。
『なによ』
『惜しくない?』
『は?』
『誰でも意のままに操る事が出来る魔剣だよ。持ってたら怖いものなしじゃん』
紅蓮丸を完璧に縛って、さやかは邪衆院の目を見た。
邪衆院もさやかを見ている。
一瞬だけ時が止まったような沈黙があって、
さやかは
『はっ、馬鹿馬鹿しい』
と立ち上がった。
『え、馬鹿馬鹿しいかなぁ』
邪衆院はしゃがんだまま野良着姿の少女を目で追う。
『私はそんな物に頼らなくたって怖いものなんかないわよ』
地面に落ちた魔剣は太陽を反射してぎらぎらと光っている。
さやかは空を見た。
春を感じさせる青空だ。
中天を過ぎた太陽も爽やかにまぶしい。
『でもおかしらを、幻龍イバラキを止める事は出来るかもよ?』
さやかは眉間に微かな皺を寄せて邪衆院に向き直る。
『そんな物の力を借りても勝った事にはならないでしょ。誰かの力を借りて誰かを支配するなんて下衆よ。私達が求める平和はそんなんじゃない。イバラキは自分の力だけで叩きのめしてやりたいし。…イバラキはこの魔剣欲しがってんじゃないの』
そう訊かれて邪衆院はぷっと吹き出した。
『やっぱり君とおかしらは似てるんだなぁ』
『はぁ!?』
『おかしらも同じ事言ってたからさ。天下を支配するのも山吹を倒すのも己の力のみで果たす、って』
『ちょっと似てるけど全然違うじゃないの』
『微妙な差異だけどね。ま、おかしらも要らないって言ってたし、その魔剣はお殿様に献上って事で』
邪衆院は相変わらず笑顔だ。
さやかはその顔を憎憎しげに見てから魔剣を拾おうとした。
その時、
さやかの視界が急に暗くなった。
いや、実際に目に入る景色が暗くなったのだ。
まるで夜かと見まごうばかりに。
さやかと邪衆院は同時に空を見て言葉を失った。
さっきまでの青空が嘘のように、
目に映る一面が、厚く黒い雲に覆われていたのである。
『やるねぇ。噂通りだ』
さやかは刀を納めながらじろりと睨む。
『どんな噂よ。どうせイバラキがろくでもない事を言ってんでしょ』
邪衆院はにやりと笑う。
『さぁ?どうかな』
含みを持たせた笑みなのだが、そこから邪気は感じ取れない。
さやかは邪衆院の笑顔を見て
『やっぱり変な奴』
と吐き捨てた。
『この魔剣、どうする?』
邪衆院が声をかける。
さやかは戦いに巻き込まれボロボロになってしまった樹の幹に紅蓮丸を縛りつけながら
『荘島のお殿様に届けるわ。そこで見つかったんなら荘島のお宝でしょ』
と答えた。
それを聞いた邪衆院は隣にしゃがみ、さやかの顔を覗き込んできた。
『なによ』
『惜しくない?』
『は?』
『誰でも意のままに操る事が出来る魔剣だよ。持ってたら怖いものなしじゃん』
紅蓮丸を完璧に縛って、さやかは邪衆院の目を見た。
邪衆院もさやかを見ている。
一瞬だけ時が止まったような沈黙があって、
さやかは
『はっ、馬鹿馬鹿しい』
と立ち上がった。
『え、馬鹿馬鹿しいかなぁ』
邪衆院はしゃがんだまま野良着姿の少女を目で追う。
『私はそんな物に頼らなくたって怖いものなんかないわよ』
地面に落ちた魔剣は太陽を反射してぎらぎらと光っている。
さやかは空を見た。
春を感じさせる青空だ。
中天を過ぎた太陽も爽やかにまぶしい。
『でもおかしらを、幻龍イバラキを止める事は出来るかもよ?』
さやかは眉間に微かな皺を寄せて邪衆院に向き直る。
『そんな物の力を借りても勝った事にはならないでしょ。誰かの力を借りて誰かを支配するなんて下衆よ。私達が求める平和はそんなんじゃない。イバラキは自分の力だけで叩きのめしてやりたいし。…イバラキはこの魔剣欲しがってんじゃないの』
そう訊かれて邪衆院はぷっと吹き出した。
『やっぱり君とおかしらは似てるんだなぁ』
『はぁ!?』
『おかしらも同じ事言ってたからさ。天下を支配するのも山吹を倒すのも己の力のみで果たす、って』
『ちょっと似てるけど全然違うじゃないの』
『微妙な差異だけどね。ま、おかしらも要らないって言ってたし、その魔剣はお殿様に献上って事で』
邪衆院は相変わらず笑顔だ。
さやかはその顔を憎憎しげに見てから魔剣を拾おうとした。
その時、
さやかの視界が急に暗くなった。
いや、実際に目に入る景色が暗くなったのだ。
まるで夜かと見まごうばかりに。
さやかと邪衆院は同時に空を見て言葉を失った。
さっきまでの青空が嘘のように、
目に映る一面が、厚く黒い雲に覆われていたのである。
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