2013-12-16(Mon)
小説・さやか見参!(210)
『どうした、もう良いのか?』
着地した体勢のまま動きを止めた封にイバラキが尋ねた。
封は答えず、
『毒は、効かないのね』
と訊き返した。
『ある程度はな』
荊木流には毒への対策として、あらゆる毒を少量ずつ服用し続け耐性を付ける方法と、解毒薬を服用し続ける方法が伝えられていた。
イバラキがどちらを行なっているのかは分からないが、師・ミズチが毒殺されて以降、かなり用心しているのは間違いなかった。
封は地面に腰を下ろすと、足元の鏢を拾い上げ、ぽいと放り捨てた。
『駄目ね、敵わないわ。もう好きにしてちょうだい』
投げやりである。
その言葉が終わらぬ内に封の喉元に刃がぴたりと押し付けられた。
いつの間にか背後から邪衆院が近付いていたのである。
しかもその刃は先ほど自分が放り捨てた鏢のようだ。
封ほどの凄腕をもってしても邪衆院の動きは見切れない。
そして眼前には幻龍イバラキ。
この二人を相手にどう戦えばいいと言うのだ。
『仕方ないじゃないの。完全に勝ち目がないんだから』
『でも復讐したいんじゃないの?御家再興の夢を閉ざしたおかしらに』
封はぐっと言葉を飲み込んで、そして吐き出した。
『復讐したいわよ!憎い!憎いんだもの!』
封は異国から渡って来た武術家であるが、さる高貴な一族の血を受け継ぐ唯一の生き残りでもある。
彼女はいずれ一族を復興させるという野望、いや、夢を持っていた。
それを成す為には生き延びなければならぬと、強くなければならぬと修行を続けてきたのである。
だが、イバラキの術によって彼女は子を産めぬ身体にされてしまった。
『私達一角衆はあんたから大切なものを奪い続けてきた。だからあんたが私の一番大切なものを奪ったとしてもそれは仕方ない。自業自得だわ。でも、それでも許せないのよ!』
邪衆院はさらに冷たい刃を押し付ける。
引かねば切れぬゆえ傷はついていないが柔らかい皮膚に鏢が食い込んでいる。
封は覚悟を決めた。
だが、背後の邪衆院は鏢を動かす事はなく、明るい口調で
『一族の再興はあきらめた方がいいと思うよ。あんたの故郷では大きな戦さが始まったらしいからね。後継ぎを育ててもむざむざ死なせるだけだ』
と言った。
その言葉で封に衝撃が走る。
『戦争!?いつ!?』
『火蓋が切られたのはつい先日。まぁそれまでも兆しはあったんだけど。』
隣国は朝廷内での権力争いが原因で秩序が乱れ、それが各地での反乱を生んでいた。
そしてついに勢力を増した反乱軍と朝廷との戦争に至ったのだ。
戦争というものは物事の価値を一瞬でひっくり返してしまう。
それまで庶民だった者が権力を持ち、貴族が路頭に迷うような事は当たり前にある。
そんな状況で一族の再興など考えても仕方がない。
封は再び肩を落とした。
着地した体勢のまま動きを止めた封にイバラキが尋ねた。
封は答えず、
『毒は、効かないのね』
と訊き返した。
『ある程度はな』
荊木流には毒への対策として、あらゆる毒を少量ずつ服用し続け耐性を付ける方法と、解毒薬を服用し続ける方法が伝えられていた。
イバラキがどちらを行なっているのかは分からないが、師・ミズチが毒殺されて以降、かなり用心しているのは間違いなかった。
封は地面に腰を下ろすと、足元の鏢を拾い上げ、ぽいと放り捨てた。
『駄目ね、敵わないわ。もう好きにしてちょうだい』
投げやりである。
その言葉が終わらぬ内に封の喉元に刃がぴたりと押し付けられた。
いつの間にか背後から邪衆院が近付いていたのである。
しかもその刃は先ほど自分が放り捨てた鏢のようだ。
封ほどの凄腕をもってしても邪衆院の動きは見切れない。
そして眼前には幻龍イバラキ。
この二人を相手にどう戦えばいいと言うのだ。
『仕方ないじゃないの。完全に勝ち目がないんだから』
『でも復讐したいんじゃないの?御家再興の夢を閉ざしたおかしらに』
封はぐっと言葉を飲み込んで、そして吐き出した。
『復讐したいわよ!憎い!憎いんだもの!』
封は異国から渡って来た武術家であるが、さる高貴な一族の血を受け継ぐ唯一の生き残りでもある。
彼女はいずれ一族を復興させるという野望、いや、夢を持っていた。
それを成す為には生き延びなければならぬと、強くなければならぬと修行を続けてきたのである。
だが、イバラキの術によって彼女は子を産めぬ身体にされてしまった。
『私達一角衆はあんたから大切なものを奪い続けてきた。だからあんたが私の一番大切なものを奪ったとしてもそれは仕方ない。自業自得だわ。でも、それでも許せないのよ!』
邪衆院はさらに冷たい刃を押し付ける。
引かねば切れぬゆえ傷はついていないが柔らかい皮膚に鏢が食い込んでいる。
封は覚悟を決めた。
だが、背後の邪衆院は鏢を動かす事はなく、明るい口調で
『一族の再興はあきらめた方がいいと思うよ。あんたの故郷では大きな戦さが始まったらしいからね。後継ぎを育ててもむざむざ死なせるだけだ』
と言った。
その言葉で封に衝撃が走る。
『戦争!?いつ!?』
『火蓋が切られたのはつい先日。まぁそれまでも兆しはあったんだけど。』
隣国は朝廷内での権力争いが原因で秩序が乱れ、それが各地での反乱を生んでいた。
そしてついに勢力を増した反乱軍と朝廷との戦争に至ったのだ。
戦争というものは物事の価値を一瞬でひっくり返してしまう。
それまで庶民だった者が権力を持ち、貴族が路頭に迷うような事は当たり前にある。
そんな状況で一族の再興など考えても仕方がない。
封は再び肩を落とした。
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