2013-12-13(Fri)
小説・さやか見参!(208)
言葉を吐き終わった瞬間、封の細く白い喉は、いつの間にか正面に回りこんだイバラキの右手によって強く掴まれていた。
『何故そう言い切れる?』
息を詰まらせながらも封はにやりと笑ってイバラキを見据える。
『だって、殺さないじゃないの、あんたは、今も、こうやって』
イバラキは表情を変えずに封から手を離した。
封は息を継ぎ、乱れた呼吸を整え、
『あんたは敵が憎いんじゃない。自分を騙そうとする奴が嫌いなんだ。おまけに女に弱いときてる』
最後の一言に邪衆院が吹き出した。
『邪衆院』
すかさずイバラキが咎める。
邪衆院は肩をすくめて小声で詫びた。
『だからさ、「自分は敵です、あんたを殺しに来ました」って正直に言ってくる女をあんたは殺せないのよ。今までだってそう。血讐様が送り込んできたくのいち連中をあんたは一人も殺さなかった。それは女達がみんな正体と目的を隠そうとしなかったから』
封は一気に喋ってから
『違うかしら?』
と念を押した。
イバラキは答えない。
それを見て封が更に続ける。
『血讐様もね、あんたのそんな性格を見抜いてるから何度もくのいちを送り込んできてるのよ。分かってるでしょ?』
イバラキはふんと鼻で笑って視線を外した。
『奴は相も変わらずねちっこい攻撃を仕掛けてくる。まぁ我々を、いや、ミズチ様を相当恨んでおったろうからな。その流派を受け継いだ拙者の事も憎いのであろう』
封が少し驚いた顔をした。
『やっぱり…血讐様と荊木流には何か因縁があるのね?』
ミズチは荊木流の前頭領にして幻龍イバラキの育ての親である。
凄腕の忍びであったが、血讐の罠に嵌り命を落とした。
『聞いておらんのか』
『血讐様は何も教えてはくれないわ』
それを聞いてイバラキは愉快そうに笑った。
『そうであろうな。若き頃の不手際とはいえ、手下の前で恥をかきたくないのであろう』
『恥?』
『言ってやらぬが情けかもしれんが、まぁ良いか。奴の片目を奪ったのは他ならぬミズチ様よ』
『そうだったの』
『調子に乗って十二組の里に乗り込み返り討ちにあったらしい。詳しくは本人に訊いてみよ。なかなか楽しい話だぞ』
イバラキはもう一度くくっと笑い、そして不意に真顔に戻った。
『その血讐が欲しておるのは、荊木の奥義だな?』
『何故そう言い切れる?』
息を詰まらせながらも封はにやりと笑ってイバラキを見据える。
『だって、殺さないじゃないの、あんたは、今も、こうやって』
イバラキは表情を変えずに封から手を離した。
封は息を継ぎ、乱れた呼吸を整え、
『あんたは敵が憎いんじゃない。自分を騙そうとする奴が嫌いなんだ。おまけに女に弱いときてる』
最後の一言に邪衆院が吹き出した。
『邪衆院』
すかさずイバラキが咎める。
邪衆院は肩をすくめて小声で詫びた。
『だからさ、「自分は敵です、あんたを殺しに来ました」って正直に言ってくる女をあんたは殺せないのよ。今までだってそう。血讐様が送り込んできたくのいち連中をあんたは一人も殺さなかった。それは女達がみんな正体と目的を隠そうとしなかったから』
封は一気に喋ってから
『違うかしら?』
と念を押した。
イバラキは答えない。
それを見て封が更に続ける。
『血讐様もね、あんたのそんな性格を見抜いてるから何度もくのいちを送り込んできてるのよ。分かってるでしょ?』
イバラキはふんと鼻で笑って視線を外した。
『奴は相も変わらずねちっこい攻撃を仕掛けてくる。まぁ我々を、いや、ミズチ様を相当恨んでおったろうからな。その流派を受け継いだ拙者の事も憎いのであろう』
封が少し驚いた顔をした。
『やっぱり…血讐様と荊木流には何か因縁があるのね?』
ミズチは荊木流の前頭領にして幻龍イバラキの育ての親である。
凄腕の忍びであったが、血讐の罠に嵌り命を落とした。
『聞いておらんのか』
『血讐様は何も教えてはくれないわ』
それを聞いてイバラキは愉快そうに笑った。
『そうであろうな。若き頃の不手際とはいえ、手下の前で恥をかきたくないのであろう』
『恥?』
『言ってやらぬが情けかもしれんが、まぁ良いか。奴の片目を奪ったのは他ならぬミズチ様よ』
『そうだったの』
『調子に乗って十二組の里に乗り込み返り討ちにあったらしい。詳しくは本人に訊いてみよ。なかなか楽しい話だぞ』
イバラキはもう一度くくっと笑い、そして不意に真顔に戻った。
『その血讐が欲しておるのは、荊木の奥義だな?』
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