2013-12-11(Wed)
小説・さやか見参!(207)
一角衆の刺客・封は以前と変わらず美しかった。
変わった所と言えば、そこに退廃的な雰囲気が加わり、狂気を含みつつもどこか脆そうな雰囲気を漂わせていた事である。
茶屋のほろ酔い客は、場違いな美女に見とれ、ひやかしに声をかけてくる。
だが封はそれを完全に無視してイバラキを睨みつけている。
やがては茶屋の客も絡むのをやめ、店内で騒ぎ始めた。
『どうする?私はここでもいいけど』
封が吐き捨てるように言う。
『ずいぶん投げやりではないか』
イバラキは無造作に近寄る。
鋼鉄の義手を外した今のイバラキは戦闘には不利と言える。
おまけに刀も持ってはいない。
『おかしら、どうします?』
不意にイバラキの足元から男の声がした。
かと思うと、声がした辺りの地面が盛り上がり、わずかな間に跪いた人の形となった。
『俺が代わりにやりましょうか?』
それはイバラキの片腕・邪衆院 天空であった。
邪衆院はイバラキが行く所、常に影に潜んで同行していたのである。
『いや、かまわぬ』
イバラキは邪衆院を制した。
『ですよね』
邪衆院がおどけてみせる。
『それより』
イバラキが何かを言いかけてちらりと邪衆院を見ると、邪衆院も我が意を得たりとばかりに
『さっきの爺さんでしょ?…ですよね』
と意味ありげな言葉を返した。
辻占はいつの間に移動したものか、すでにその姿を消していた。
『まぁそれは良いとするか』
イバラキが封に向き直る。
『封、少し付き合え。まだ肌寒かろうが月見としゃれ込もうではないか』
すでに完全に日が落ち、空には月が煌々と輝いていた。
それからイバラキと封は並んで人気のない町外れをゆっくりと歩いた。
少し離れて邪衆院がついて来る。
イバラキは自分の左側に並んで歩く美しい女に
『今の拙者には左腕が無いからな。おまけに刀も無い。そちらから攻撃されれば反撃が一瞬遅れる。拙者を殺したくばいつでも良いぞ』
と声をかけた。
『ふん、油断させようったってそうはいかないわ。常に懐に何かを忍ばせてるのが忍者ってヤツでしょ。それにあんたの力は嫌ってぐらい知ってるから。腕が無かろうが刀が無かろうが簡単に攻撃は仕掛けないわよ』
封がふてくされたように答える。
『そうか。ならばこの距離で並んで歩くなど命取り以外の何物でもあるまい』
視線を交わす事無く二つの影が進む。
しばらく沈黙があったが、封がそれを破った。
『あんたはやらないでしょ、不意打ちなんて』
イバラキは頭巾の中で一瞬意外そうな顔をした。
『ほう、何故そう思う?卑怯な不意打ちこそ忍びの常套であろうに』
封は立ち止まり、イバラキの目を見て、何故か自信ありげに
『あんたは私を月見に誘った。私はそれに付き合ってついてきた。そんな女を不意打ちで殺すような真似、幻龍イバラキはしない。絶対に』
と確信を突きつけた。
変わった所と言えば、そこに退廃的な雰囲気が加わり、狂気を含みつつもどこか脆そうな雰囲気を漂わせていた事である。
茶屋のほろ酔い客は、場違いな美女に見とれ、ひやかしに声をかけてくる。
だが封はそれを完全に無視してイバラキを睨みつけている。
やがては茶屋の客も絡むのをやめ、店内で騒ぎ始めた。
『どうする?私はここでもいいけど』
封が吐き捨てるように言う。
『ずいぶん投げやりではないか』
イバラキは無造作に近寄る。
鋼鉄の義手を外した今のイバラキは戦闘には不利と言える。
おまけに刀も持ってはいない。
『おかしら、どうします?』
不意にイバラキの足元から男の声がした。
かと思うと、声がした辺りの地面が盛り上がり、わずかな間に跪いた人の形となった。
『俺が代わりにやりましょうか?』
それはイバラキの片腕・邪衆院 天空であった。
邪衆院はイバラキが行く所、常に影に潜んで同行していたのである。
『いや、かまわぬ』
イバラキは邪衆院を制した。
『ですよね』
邪衆院がおどけてみせる。
『それより』
イバラキが何かを言いかけてちらりと邪衆院を見ると、邪衆院も我が意を得たりとばかりに
『さっきの爺さんでしょ?…ですよね』
と意味ありげな言葉を返した。
辻占はいつの間に移動したものか、すでにその姿を消していた。
『まぁそれは良いとするか』
イバラキが封に向き直る。
『封、少し付き合え。まだ肌寒かろうが月見としゃれ込もうではないか』
すでに完全に日が落ち、空には月が煌々と輝いていた。
それからイバラキと封は並んで人気のない町外れをゆっくりと歩いた。
少し離れて邪衆院がついて来る。
イバラキは自分の左側に並んで歩く美しい女に
『今の拙者には左腕が無いからな。おまけに刀も無い。そちらから攻撃されれば反撃が一瞬遅れる。拙者を殺したくばいつでも良いぞ』
と声をかけた。
『ふん、油断させようったってそうはいかないわ。常に懐に何かを忍ばせてるのが忍者ってヤツでしょ。それにあんたの力は嫌ってぐらい知ってるから。腕が無かろうが刀が無かろうが簡単に攻撃は仕掛けないわよ』
封がふてくされたように答える。
『そうか。ならばこの距離で並んで歩くなど命取り以外の何物でもあるまい』
視線を交わす事無く二つの影が進む。
しばらく沈黙があったが、封がそれを破った。
『あんたはやらないでしょ、不意打ちなんて』
イバラキは頭巾の中で一瞬意外そうな顔をした。
『ほう、何故そう思う?卑怯な不意打ちこそ忍びの常套であろうに』
封は立ち止まり、イバラキの目を見て、何故か自信ありげに
『あんたは私を月見に誘った。私はそれに付き合ってついてきた。そんな女を不意打ちで殺すような真似、幻龍イバラキはしない。絶対に』
と確信を突きつけた。
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