2013-12-09(Mon)
小説・さやか見参!(206)
『無理と?はて、それはどういう事かな』
イバラキは辻占の老人に問うた。
『貴殿の噂は聞き及んでおる。是非とも死者の声とやらを聞いてみたかったのだがな』
『申し訳ありませんな』
老人は表情を変えず詫びた。
『降ろせぬのか』
イバラキはなおも問う。
すると老人は白い髪をわずかに揺らして首を横に振った。
『そういうわけでは』
『ではなぜ無理なのだ』
『それは…』
皺にかこまれた細い目が開いてイバラキを見た。
『御仁の周りには死者が多すぎますれば』
そう言われ、頭巾から唯一覗くイバラキの目が笑った。
『ほう』
『しかも、皆が皆、あなた様に恨み言を言おうと降りてきております。我が身ひとつでは捌ききれませぬ』
『なるほど。そんなに多いか、私を恨む者は』
老人は再び瞼を閉じて柔和な表情に戻った。
『そのようでございますな』
イバラキはしばし黙った後、ふふと笑って
『そうか、残念だが仕方ない。手間をかけたな』
と言うと踵を返した。
その後ろから老人の声が呼び止める。
『ただ一つ言えるのは』
頭巾姿のイバラキが立ち止まり振り返った。
すでに老人の姿は宵闇に溶けかけている。
『女難の相が出ておるよ』
『女難とな』
『そう。女難じゃ』
『何故そう言える?』
そう尋ねられて老人はにんまりと微笑み、イバラキの背後を指差した。
指された方向を見ると、賑やかな茶屋の明かりに照らされて、長い黒髪の女が立っていた。
女は美しくも恨みがましい表情でイバラキを睨みつけている。
イバラキは
『死者以外にも拙者に恨みを言いたい者がいるようだ。久しぶりだな、封』
と、一角衆からの刺客に笑いかけた。
イバラキは辻占の老人に問うた。
『貴殿の噂は聞き及んでおる。是非とも死者の声とやらを聞いてみたかったのだがな』
『申し訳ありませんな』
老人は表情を変えず詫びた。
『降ろせぬのか』
イバラキはなおも問う。
すると老人は白い髪をわずかに揺らして首を横に振った。
『そういうわけでは』
『ではなぜ無理なのだ』
『それは…』
皺にかこまれた細い目が開いてイバラキを見た。
『御仁の周りには死者が多すぎますれば』
そう言われ、頭巾から唯一覗くイバラキの目が笑った。
『ほう』
『しかも、皆が皆、あなた様に恨み言を言おうと降りてきております。我が身ひとつでは捌ききれませぬ』
『なるほど。そんなに多いか、私を恨む者は』
老人は再び瞼を閉じて柔和な表情に戻った。
『そのようでございますな』
イバラキはしばし黙った後、ふふと笑って
『そうか、残念だが仕方ない。手間をかけたな』
と言うと踵を返した。
その後ろから老人の声が呼び止める。
『ただ一つ言えるのは』
頭巾姿のイバラキが立ち止まり振り返った。
すでに老人の姿は宵闇に溶けかけている。
『女難の相が出ておるよ』
『女難とな』
『そう。女難じゃ』
『何故そう言える?』
そう尋ねられて老人はにんまりと微笑み、イバラキの背後を指差した。
指された方向を見ると、賑やかな茶屋の明かりに照らされて、長い黒髪の女が立っていた。
女は美しくも恨みがましい表情でイバラキを睨みつけている。
イバラキは
『死者以外にも拙者に恨みを言いたい者がいるようだ。久しぶりだな、封』
と、一角衆からの刺客に笑いかけた。
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