2013-12-08(Sun)
小説・さやか見参!(205)
老人はふぅと息を吐くと
『こりゃ無理じゃ』
と呟いた。
この老人、巷で噂になっている辻占である。
行き交う人々の声から神の言葉を探るのが辻占であり、この老人も夕暮れになると街道沿いの辻に姿を現し、じっと街の声に耳をかたむけている。
しかしこの老人にはもう一つの能力があった。
それが神降ろしだ。
いや、死者降ろしと言うべきか。
死した者を自らの身体に憑依させ、まるで死者本人のように喋りだすのだ。
この噂が広まって何人かが実際にその能力を目の当たりにしているという。
ほとんどが『そんな事が出来るはずがない』とたかをくくり、化けの皮をはがしてやるとばかりに老人の元へ向かったそうだが…
その全てが、例外なく腰を抜かす結果になった、との事だ。
他人が知るはずのない、死者本人としか思えない内容を語るので、もはや疑う余地なし、という噂が大々的に広がり、多くの人々が不思議を体験しようと老人の所へ押し寄せた。
だがこの老人、神出鬼没というべきか、いつ、どこに現れるか皆目見当がつかぬ。
辻占は人の声を聴く占いゆえ必ず人出がある場所にいるのだが、どうやって察知するのか、野次馬の集まる場所をするりと避けているようだった。
会えたからといって必ず死者降ろしが見られるわけでもないのだが、いつしか人々は老人に出会える事を幸運として捉えるようになっていた。
幻龍イバラキが最初にこの老人を見たのは数週間前である。
宿場周辺の情報を探る為、鉄仮面と義手を外し、大怪我を負った湯治客といういでたちで宿を探している最中に辻占を見つけたのだ。
(これが噂の…)とは思ったが、妙にひっかかる所があり、黙って前を通り過ぎた。
二度目はその五日後、三度目は更に三日後、次が十日後でそして今日だ。
誰もが会えぬと嘆いている噂の老人に、自分はこの短期間で五回も出会っている。
占いの性質ゆえ時間は夕方と決まっているが、出会った場所は毎回違っていた。
これは偶然だろうか?
たまたまの幸運だろうか?
イバラキは焼けただれた顔を隠した頭巾の中で小さく笑うと老人に近付き声をかけた。
『我に関わる死者の声を聞かせてみよ』
と。
それに対する答えが先程の『こりゃ無理じゃ』だったのである。
『こりゃ無理じゃ』
と呟いた。
この老人、巷で噂になっている辻占である。
行き交う人々の声から神の言葉を探るのが辻占であり、この老人も夕暮れになると街道沿いの辻に姿を現し、じっと街の声に耳をかたむけている。
しかしこの老人にはもう一つの能力があった。
それが神降ろしだ。
いや、死者降ろしと言うべきか。
死した者を自らの身体に憑依させ、まるで死者本人のように喋りだすのだ。
この噂が広まって何人かが実際にその能力を目の当たりにしているという。
ほとんどが『そんな事が出来るはずがない』とたかをくくり、化けの皮をはがしてやるとばかりに老人の元へ向かったそうだが…
その全てが、例外なく腰を抜かす結果になった、との事だ。
他人が知るはずのない、死者本人としか思えない内容を語るので、もはや疑う余地なし、という噂が大々的に広がり、多くの人々が不思議を体験しようと老人の所へ押し寄せた。
だがこの老人、神出鬼没というべきか、いつ、どこに現れるか皆目見当がつかぬ。
辻占は人の声を聴く占いゆえ必ず人出がある場所にいるのだが、どうやって察知するのか、野次馬の集まる場所をするりと避けているようだった。
会えたからといって必ず死者降ろしが見られるわけでもないのだが、いつしか人々は老人に出会える事を幸運として捉えるようになっていた。
幻龍イバラキが最初にこの老人を見たのは数週間前である。
宿場周辺の情報を探る為、鉄仮面と義手を外し、大怪我を負った湯治客といういでたちで宿を探している最中に辻占を見つけたのだ。
(これが噂の…)とは思ったが、妙にひっかかる所があり、黙って前を通り過ぎた。
二度目はその五日後、三度目は更に三日後、次が十日後でそして今日だ。
誰もが会えぬと嘆いている噂の老人に、自分はこの短期間で五回も出会っている。
占いの性質ゆえ時間は夕方と決まっているが、出会った場所は毎回違っていた。
これは偶然だろうか?
たまたまの幸運だろうか?
イバラキは焼けただれた顔を隠した頭巾の中で小さく笑うと老人に近付き声をかけた。
『我に関わる死者の声を聞かせてみよ』
と。
それに対する答えが先程の『こりゃ無理じゃ』だったのである。
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