2013-12-07(Sat)
小説・さやか見参!(204)
山吹の屋敷の離れにある庵で、山吹武双と心太郎は向かい合って座している。
総髪はほとんど白くなってしまっていたが、それが武双の威厳を際立たせていた。
眼光の鋭さは歳を経ても変わらず、その前に立つ者は皆、やましい事がなくとも射すくめられるような思いをしていた。
しかし、
心太郎は落ち着いた表情を見せていた。
誰もが畏怖する山吹流頭領に対し、幼い心太郎は堂々と向かい合っていたのである。
童ゆえに武双の威風を感じない、というわけでもないはずだが。
『どうだ、例の「黒き忍び」は』
武双が尋ねる。
意外に穏やかな口調だった。
『はい、うっすらとだけど分かったっシュ』
心太郎の返事も穏やかである。
「黒き忍び」とは、高陵山で心太郎を助けた謎の忍者の事だ。
その時心太郎は意識を失いかけていたのでその姿をはっきり見る事が出来なかった。
だが、
一角衆の血飛沫鬼と血塗呂に襲われた心太郎を助けたのも、どうやら同じ忍者だったようなのである。
武双はうなずいて
『そうか。まだ少し時間がかかるやもしれぬが、いずれ遠くはあるまい』
と言うと、傍らの箱を手にし、中から巻物を取り出した。
箱の蓋には『金 令 記』と書かれてある。
武双はそれを紐解くと、心太郎の前にするすると広げた。
巻物には謎の文字や記号らしきものが書き付けてある。
最初の文字と最後の文字を見比べると、明らかに墨の具合いが違う。
長い時間をかけながら、少しずつ書き進めたような感じだ。
『なるほど…ここで終わってるわけっシュね』
心太郎が紙面を覗き込んでつぶやいた。
最後に書かれた文字以降、余白は延々と続いている。
いかにも中断されたという体だ。
『さよう。ここからは、向こうにある可能性が高い』
武双の言葉に、ただならぬ重みが含まれている。
ここで話されている事は、さやかですら知らない、
武双、練武、不問の三兄弟と、そして心太郎しか知らぬ極秘事項であった。
心太郎はしばらく黙って武双の表情を見ていたが、
『だからおいらは、今、ここにいるっシュね。さやか殿を守る為に』
と言って、邪気の無い笑顔を見せた。
『頭領、お任せ下さい。さやか殿を守るのがおいらの役目っシュ!』
心太郎の言葉は爽快なほどに潔かった。
総髪はほとんど白くなってしまっていたが、それが武双の威厳を際立たせていた。
眼光の鋭さは歳を経ても変わらず、その前に立つ者は皆、やましい事がなくとも射すくめられるような思いをしていた。
しかし、
心太郎は落ち着いた表情を見せていた。
誰もが畏怖する山吹流頭領に対し、幼い心太郎は堂々と向かい合っていたのである。
童ゆえに武双の威風を感じない、というわけでもないはずだが。
『どうだ、例の「黒き忍び」は』
武双が尋ねる。
意外に穏やかな口調だった。
『はい、うっすらとだけど分かったっシュ』
心太郎の返事も穏やかである。
「黒き忍び」とは、高陵山で心太郎を助けた謎の忍者の事だ。
その時心太郎は意識を失いかけていたのでその姿をはっきり見る事が出来なかった。
だが、
一角衆の血飛沫鬼と血塗呂に襲われた心太郎を助けたのも、どうやら同じ忍者だったようなのである。
武双はうなずいて
『そうか。まだ少し時間がかかるやもしれぬが、いずれ遠くはあるまい』
と言うと、傍らの箱を手にし、中から巻物を取り出した。
箱の蓋には『金 令 記』と書かれてある。
武双はそれを紐解くと、心太郎の前にするすると広げた。
巻物には謎の文字や記号らしきものが書き付けてある。
最初の文字と最後の文字を見比べると、明らかに墨の具合いが違う。
長い時間をかけながら、少しずつ書き進めたような感じだ。
『なるほど…ここで終わってるわけっシュね』
心太郎が紙面を覗き込んでつぶやいた。
最後に書かれた文字以降、余白は延々と続いている。
いかにも中断されたという体だ。
『さよう。ここからは、向こうにある可能性が高い』
武双の言葉に、ただならぬ重みが含まれている。
ここで話されている事は、さやかですら知らない、
武双、練武、不問の三兄弟と、そして心太郎しか知らぬ極秘事項であった。
心太郎はしばらく黙って武双の表情を見ていたが、
『だからおいらは、今、ここにいるっシュね。さやか殿を守る為に』
と言って、邪気の無い笑顔を見せた。
『頭領、お任せ下さい。さやか殿を守るのがおいらの役目っシュ!』
心太郎の言葉は爽快なほどに潔かった。
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