2013-12-04(Wed)
小説・さやか見参!(202)
山吹の里に風が吹いた。
だがそれはつい先日までの肌を刺すような冷たさでなく、どこかほっとするような暖かさを含んだ風だった。
音駒が虎組の屋敷に運び込まれて数週間が経ち、季節はいつしか春の気配を漂わせるようになっていた。
『音駒さん、食事』
音駒が寝かされている部屋にさやかが膳を運んできた。
『今日は具合いどう?』
音駒が慌てて上半身を起こす。
最近ようやく自力で起き上がれるようになったのだが、まだあちこちに痛みが走る。
その苦痛を表に出さないようにして
『さやかさん、ありがとうございます』
と礼を述べ、微笑んだ。
さやかは困ったような微笑んだような表情を浮かべ、傍らに座り枕元に食事を置く。
『無理しないで、まだ傷が痛んでるはずよ』
『お見通しですか、やっぱり忍者の目はごまかせないな』
『当たり前じゃないの。これでも私は山吹流の後継…』
言いかけてさやかは口をつぐんだ。
逆に音駒が口を開く。
『やっぱり私は一日も早くここを去らねば。里を治める流派の次期頭領が私のような余所者を屋敷に入れてしまっては問題があるでしょう』
さやかが頭を振って語気を荒げた。
『そんな事ない!音駒さんが怪我したのは私のせいなんだもん!元気になるまでちゃんと手当てさせてよ!!』
涙声でそう言われては音駒も黙るしかなかった。
問題がある事はさやかが一番分かっている。
しかし今はそんな事よりも音駒の身体の方が大切だった。
父に、
山吹流現頭領、山吹武双に何と言われても、音駒だけは守らなければ、と
さやかはそう思っていた。
しかし武双はさやかにまだ何も言ってきてはいなかった。
いずれ問い質される事を覚悟してはいるのだが、今の沈黙が逆に怖くもある。
そう言えば…
先程、自分ではなく心太郎が父に呼ばれていたが…
事情を聴かれているのかもしれない。
自分の勝手な行動のせいでお目付け役として叱責されているのかもしれない。
だとしたら本当に申し訳ない。
音駒を助けた事が間違っていたとは思わないが、心太郎に迷惑をかけるのは心が痛んだ。
『心太郎…』
さやかはそう呟いて、武双がいる山吹の屋敷の方に顔を向けた。
だがそれはつい先日までの肌を刺すような冷たさでなく、どこかほっとするような暖かさを含んだ風だった。
音駒が虎組の屋敷に運び込まれて数週間が経ち、季節はいつしか春の気配を漂わせるようになっていた。
『音駒さん、食事』
音駒が寝かされている部屋にさやかが膳を運んできた。
『今日は具合いどう?』
音駒が慌てて上半身を起こす。
最近ようやく自力で起き上がれるようになったのだが、まだあちこちに痛みが走る。
その苦痛を表に出さないようにして
『さやかさん、ありがとうございます』
と礼を述べ、微笑んだ。
さやかは困ったような微笑んだような表情を浮かべ、傍らに座り枕元に食事を置く。
『無理しないで、まだ傷が痛んでるはずよ』
『お見通しですか、やっぱり忍者の目はごまかせないな』
『当たり前じゃないの。これでも私は山吹流の後継…』
言いかけてさやかは口をつぐんだ。
逆に音駒が口を開く。
『やっぱり私は一日も早くここを去らねば。里を治める流派の次期頭領が私のような余所者を屋敷に入れてしまっては問題があるでしょう』
さやかが頭を振って語気を荒げた。
『そんな事ない!音駒さんが怪我したのは私のせいなんだもん!元気になるまでちゃんと手当てさせてよ!!』
涙声でそう言われては音駒も黙るしかなかった。
問題がある事はさやかが一番分かっている。
しかし今はそんな事よりも音駒の身体の方が大切だった。
父に、
山吹流現頭領、山吹武双に何と言われても、音駒だけは守らなければ、と
さやかはそう思っていた。
しかし武双はさやかにまだ何も言ってきてはいなかった。
いずれ問い質される事を覚悟してはいるのだが、今の沈黙が逆に怖くもある。
そう言えば…
先程、自分ではなく心太郎が父に呼ばれていたが…
事情を聴かれているのかもしれない。
自分の勝手な行動のせいでお目付け役として叱責されているのかもしれない。
だとしたら本当に申し訳ない。
音駒を助けた事が間違っていたとは思わないが、心太郎に迷惑をかけるのは心が痛んだ。
『心太郎…』
さやかはそう呟いて、武双がいる山吹の屋敷の方に顔を向けた。
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