2013-11-10(Sun)
小説・さやか見参!(201)
『音駒さん!!気がついた!?』
それが自分にかけられた言葉だと気付くまでずいぶんと時間がかかった。
『音駒さん!分かる!?私よ!山吹さやかよ!!』
うっすらと瞼を開いてみたが、まだ視界がぼんやりとしている。
言葉を判断する程には頭も働いていない。
だが、
この声の主だけは安心させてやらねば、と音駒は思った。
自分は生きている、それだけは伝えなければ、と。
そして音駒は、半ば本能的に微笑んだ。
そしてまた眠りに落ちた。
『音駒さん!!』
さやかが安堵と不安の涙を流してすがりつこうとするのを心太郎が止める。
『さやか殿!薬が効いてるだけっシュから!もう音駒さんは大丈夫っシュから!!』
『でも!』
取り乱したさやかを落ち着かせようと、心太郎が強く手を握る。
さやかが一瞬はっとしたのを見て、ゆっくりと
『もう少しゆっくり眠ってもらう方がいいっシュよ。早く元気になってもらう為に』
それを聞いて、さやかは無言のまま小さく二、三度うなずいて涙を拭いた。
『そうよ、さやか殿』
優しく声をかけたのは鳥組の若頭・燕だ。
『心ちゃんの言う通り。ゆっくり休んで早く元気になってもらわなくっちゃ。そうじゃなきゃここに連れて来た甲斐がないわ』
『つばめ、さん』
『私達の里には本来十二組の忍び以外は入れないんだから。それを承知で運び込んで来るなんて、よっぽど大切な人なのね』
ここは虎組の屋敷である。
虎組の頭たる雷牙は、さやかの兄・たけるの幼馴染みで、もちろんさやかとも旧知の仲だ。
音駒を十二組の里に担ぎ込む事が問題になるとは分かっていたが、そんな事を言っている猶予はなかった。
音駒を背負ったさやかは雷牙の屋敷に飛び込むと、理由も説明せずに手当てを頼んだのである。
『まったく、困った奴だな。たけるが生きていたなら思いっきり叱ってもらうところだ』
腕組みしてあぐらをかいた雷牙が憮然として言った。
『雷牙、ごめんなさい…』
雷牙は珍しくしゅんとしている親友の妹を見ると
『ま、たけるが生きていたら、でもさやかのそんな所がいい、って言うんだろうけどな』
と笑った。
『ま、細かい事は後だ。その医者も心太郎も無事だったんだから。まずは無駄に命を失わずに済んだ事を良しとせねばな』
その言葉に燕もうなずいた。
一角衆の血飛沫鬼・血塗呂との戦いの後で気を失っていた心太郎を連れて帰ってきたのは燕の指示を受けた鳥組の忍び達であった。
心太郎が屋敷を出てすぐ、燕は数名の配下に後を追わせた。
『おいらも燕殿には迷惑かけたっシュ。助けてくれた人達にもお礼を言いたいっシュ』
さやかがそれを制する。
『お礼もお詫びも私が言う事だわ。本当なら私が心太郎を連れて帰らなきゃいけなかったのに』
さやかは音駒を背負って里に戻る途中、心太郎を追って来た鳥組の忍びに会い事情を話した。
『分かりました、心太郎殿は我々にお任せを、さやか殿は早く』
忍び達は躊躇もなくそう言ってくれたのだ。
『燕さん、助けてくれてありがとうございます。迷惑かけてごめんなさい。雷牙、助けてくれてありがとう。迷惑かけてごめんなさい』
さやかが正座して深々と頭を下げた。
心太郎も同じように頭を下げる。
雷牙と燕は顔を見合わせて微笑んだ。
二人にとってさやかと心太郎は可愛い妹と可愛い弟のようなものなのだ。
それが自分にかけられた言葉だと気付くまでずいぶんと時間がかかった。
『音駒さん!分かる!?私よ!山吹さやかよ!!』
うっすらと瞼を開いてみたが、まだ視界がぼんやりとしている。
言葉を判断する程には頭も働いていない。
だが、
この声の主だけは安心させてやらねば、と音駒は思った。
自分は生きている、それだけは伝えなければ、と。
そして音駒は、半ば本能的に微笑んだ。
そしてまた眠りに落ちた。
『音駒さん!!』
さやかが安堵と不安の涙を流してすがりつこうとするのを心太郎が止める。
『さやか殿!薬が効いてるだけっシュから!もう音駒さんは大丈夫っシュから!!』
『でも!』
取り乱したさやかを落ち着かせようと、心太郎が強く手を握る。
さやかが一瞬はっとしたのを見て、ゆっくりと
『もう少しゆっくり眠ってもらう方がいいっシュよ。早く元気になってもらう為に』
それを聞いて、さやかは無言のまま小さく二、三度うなずいて涙を拭いた。
『そうよ、さやか殿』
優しく声をかけたのは鳥組の若頭・燕だ。
『心ちゃんの言う通り。ゆっくり休んで早く元気になってもらわなくっちゃ。そうじゃなきゃここに連れて来た甲斐がないわ』
『つばめ、さん』
『私達の里には本来十二組の忍び以外は入れないんだから。それを承知で運び込んで来るなんて、よっぽど大切な人なのね』
ここは虎組の屋敷である。
虎組の頭たる雷牙は、さやかの兄・たけるの幼馴染みで、もちろんさやかとも旧知の仲だ。
音駒を十二組の里に担ぎ込む事が問題になるとは分かっていたが、そんな事を言っている猶予はなかった。
音駒を背負ったさやかは雷牙の屋敷に飛び込むと、理由も説明せずに手当てを頼んだのである。
『まったく、困った奴だな。たけるが生きていたなら思いっきり叱ってもらうところだ』
腕組みしてあぐらをかいた雷牙が憮然として言った。
『雷牙、ごめんなさい…』
雷牙は珍しくしゅんとしている親友の妹を見ると
『ま、たけるが生きていたら、でもさやかのそんな所がいい、って言うんだろうけどな』
と笑った。
『ま、細かい事は後だ。その医者も心太郎も無事だったんだから。まずは無駄に命を失わずに済んだ事を良しとせねばな』
その言葉に燕もうなずいた。
一角衆の血飛沫鬼・血塗呂との戦いの後で気を失っていた心太郎を連れて帰ってきたのは燕の指示を受けた鳥組の忍び達であった。
心太郎が屋敷を出てすぐ、燕は数名の配下に後を追わせた。
『おいらも燕殿には迷惑かけたっシュ。助けてくれた人達にもお礼を言いたいっシュ』
さやかがそれを制する。
『お礼もお詫びも私が言う事だわ。本当なら私が心太郎を連れて帰らなきゃいけなかったのに』
さやかは音駒を背負って里に戻る途中、心太郎を追って来た鳥組の忍びに会い事情を話した。
『分かりました、心太郎殿は我々にお任せを、さやか殿は早く』
忍び達は躊躇もなくそう言ってくれたのだ。
『燕さん、助けてくれてありがとうございます。迷惑かけてごめんなさい。雷牙、助けてくれてありがとう。迷惑かけてごめんなさい』
さやかが正座して深々と頭を下げた。
心太郎も同じように頭を下げる。
雷牙と燕は顔を見合わせて微笑んだ。
二人にとってさやかと心太郎は可愛い妹と可愛い弟のようなものなのだ。
スポンサーサイト