2013-10-30(Wed)
小説・さやか見参!(198)
『心太郎!!音駒さん!!』
夜明けの光を背に山吹さやかが走ってきた時、視界からちょうど三つの影が消えた。
一つは白く、一つは赤く、そしてもう一つは黒く、
いや、黒いというよりも、ただ暗かった。
どうやら暗い影が白と赤の二つの影を相手にしているようだったが、それらはさやかの姿を認めると飛び退くように離れ、そして消えてしまったのだ。
彼らは何者なのか?
いや、今はそんな事どうでもいい。
三つの影が戦っていた辺りに木片が散らばっている。
これは、音駒が薬を入れていた行李の残骸だ。
そしてその残骸の中に音駒が倒れていた。
さやかはそれを見た瞬間、何故か無感動に思った。
倒れる、という言葉には、まだ生命の脈動を感じる、と。
今の音駒はまるでモノのように『落ちている』あるいは『転がっている』と。
つまり、音駒の命が消えかかっているのが見てとれたのだ。
『音駒さぁん!!』
さやかはもう一度叫んだ。
朝日は空を黄金色に染め、それを受けた木々の先端も同じ色に輝いていた。
こんなに輝かしい風景の中で、自分の世界は闇を迎えようというのか。
『音駒さん!音駒さん!!』
駆け寄って抱き起こす。
まだ生きている。
だが呼吸が弱い。
『絶対に死なせない』
さやかは小さな背中に音駒を担いだ。
『心太郎!心太郎!!』
今度は心太郎の名を叫ぶ。
音駒を背負ったままさやかは愛弟子を探して回った。
自分の背でぐったりしている大切な人を一刻も早く助けたかったが、それと心太郎を見捨てる事は別だ。
あの小さな三流忍者は、さやかの事を慮ってたった独りでここまで来て、たった独りで音駒を助けようとしたのだ。
『心…』
もう一度叫ぼうとした瞬間、少し離れた所でどさりと何かが落ちる音がした。
『さ…やか…殿』
さやかが振り返ると、数本集まった松の木の下に、忍び装束の心太郎が倒れていた。
『心太郎!どうしたの!』
音駒を背負ったまま駆け寄る。
『大丈夫なの!?大丈夫!?』
助け起こそうとしたがさやかの両手は背に回ってふさがっている。
『へへっ…すぐに音駒さん助けたかったけど…やっぱりおいら…三流っシュ…』
『そんな事いいから!』
『傷は大した事ないっシュ…だから…早く…音駒さんを…』
『でも!』
さやかは涙声になっている。
『ちょっと体力を消耗しちゃったみたいで…休んだら戻るっシュから…心配いらないっシュから…』
確かに傷は少ない。
だが、さやかはこれまで、こんなにげっそりとやつれた心太郎を見た事がなかった。
それでも心太郎は、無理に精一杯笑顔を作っている。
『たまには…おいらを信じて…音駒さんを…』
言葉の途中で気を失うように眠りに落ちた。
さやかは唇を噛んでうつむき、振り絞るような声で
『心太郎、ごめんね、すぐに戻ってくるからね』
と呟くと、音駒を救うべく里へ向かって走り出した。
夜明けの光を背に山吹さやかが走ってきた時、視界からちょうど三つの影が消えた。
一つは白く、一つは赤く、そしてもう一つは黒く、
いや、黒いというよりも、ただ暗かった。
どうやら暗い影が白と赤の二つの影を相手にしているようだったが、それらはさやかの姿を認めると飛び退くように離れ、そして消えてしまったのだ。
彼らは何者なのか?
いや、今はそんな事どうでもいい。
三つの影が戦っていた辺りに木片が散らばっている。
これは、音駒が薬を入れていた行李の残骸だ。
そしてその残骸の中に音駒が倒れていた。
さやかはそれを見た瞬間、何故か無感動に思った。
倒れる、という言葉には、まだ生命の脈動を感じる、と。
今の音駒はまるでモノのように『落ちている』あるいは『転がっている』と。
つまり、音駒の命が消えかかっているのが見てとれたのだ。
『音駒さぁん!!』
さやかはもう一度叫んだ。
朝日は空を黄金色に染め、それを受けた木々の先端も同じ色に輝いていた。
こんなに輝かしい風景の中で、自分の世界は闇を迎えようというのか。
『音駒さん!音駒さん!!』
駆け寄って抱き起こす。
まだ生きている。
だが呼吸が弱い。
『絶対に死なせない』
さやかは小さな背中に音駒を担いだ。
『心太郎!心太郎!!』
今度は心太郎の名を叫ぶ。
音駒を背負ったままさやかは愛弟子を探して回った。
自分の背でぐったりしている大切な人を一刻も早く助けたかったが、それと心太郎を見捨てる事は別だ。
あの小さな三流忍者は、さやかの事を慮ってたった独りでここまで来て、たった独りで音駒を助けようとしたのだ。
『心…』
もう一度叫ぼうとした瞬間、少し離れた所でどさりと何かが落ちる音がした。
『さ…やか…殿』
さやかが振り返ると、数本集まった松の木の下に、忍び装束の心太郎が倒れていた。
『心太郎!どうしたの!』
音駒を背負ったまま駆け寄る。
『大丈夫なの!?大丈夫!?』
助け起こそうとしたがさやかの両手は背に回ってふさがっている。
『へへっ…すぐに音駒さん助けたかったけど…やっぱりおいら…三流っシュ…』
『そんな事いいから!』
『傷は大した事ないっシュ…だから…早く…音駒さんを…』
『でも!』
さやかは涙声になっている。
『ちょっと体力を消耗しちゃったみたいで…休んだら戻るっシュから…心配いらないっシュから…』
確かに傷は少ない。
だが、さやかはこれまで、こんなにげっそりとやつれた心太郎を見た事がなかった。
それでも心太郎は、無理に精一杯笑顔を作っている。
『たまには…おいらを信じて…音駒さんを…』
言葉の途中で気を失うように眠りに落ちた。
さやかは唇を噛んでうつむき、振り絞るような声で
『心太郎、ごめんね、すぐに戻ってくるからね』
と呟くと、音駒を救うべく里へ向かって走り出した。
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