2013-09-22(Sun)
小説・さやか見参!(194)
心太郎は焦っていた。
音駒に預けていた鳩が戻ってきたからだ。
これが戻ってきたという事は音駒が何らかの危機的状況にあるという事だ。
そしてもう一つ。
鳩が傷を負っている。
命に関わるような傷ではないのだがどうやら刀傷のようだ。
この鳥はただの鳥ではない。
一流の忍びが使役する為に育てあげた忍鳥なのだ。
そこらの田舎侍の技量では傷を負わせる事など出来やしない、
いや、下忍程度でも軽くあしらう事が出来るはずなのである。
その鳩が傷ついているという事は、
音駒を危機に陥れている者はただ者ではない、という事だ。
心太郎は鳥組の屋敷に急ぎ、若頭の燕に事情を話した。
この鳩を育て、心太郎に譲ってくれたのはこの燕なのである。
『わかったわ、ちょっと待ってて』
燕は年の頃二十四、五のくのいちである。
あまり会う機会はないのだが、会えば心太郎を弟のように可愛がってくれる。
燕は膝の辺りまで伸びた黒髪を揺らして別の二羽の鳩を連れてきた。
そして手当ての済んだ心太郎の鳩の前に並べると、ようやく心太郎に微笑みかけた。
『心ちゃん、焦るだろうけどもう少し我慢してね。この子が案内出来ればいいんだけど、傷もあるし飛び疲れているから。代わりにこの子達を行かせるわ。ほら見て、詳しい場所を教えてるのよ』
そう言われて見ると、確かに傷を負った鳩が一生懸命に何かを話し、他の二羽がそれを聞いている。
『鳩同士が話してるなんて、何だか不思議な光景っシュね』
『うふふ、私達鳥組には当たり前の光景なんだけどね。あ、終わったみたいよ』
傷ついた鳩が心太郎に近付き、申し訳なさそうに頭を下げた。
『お、おまえは別に悪くないっシュからね!』
焦って抱きかかえ慰める。
『さぁ心ちゃん、この子がその音駒さんの所に案内してくれるわ。もう一羽はさやかちゃんの方に向かわせるから。先に行って音駒さんを助けてあげなさい』
『ありがとうっシュ!こいつの傷の手当て、よろしくお願いするっシュ!』
心太郎が抱いていた鳩を燕に差し出した。
燕はそれを優しく受け取るとにこりと微笑んでうなずいた。
『じゃあ行ってきますっシュ!』
一瞬翼が羽ばたく音がした。
一瞬心太郎の髪がたなびいた。
その時にはもう、一羽と一人の姿は屋敷から消えていた。
音駒に預けていた鳩が戻ってきたからだ。
これが戻ってきたという事は音駒が何らかの危機的状況にあるという事だ。
そしてもう一つ。
鳩が傷を負っている。
命に関わるような傷ではないのだがどうやら刀傷のようだ。
この鳥はただの鳥ではない。
一流の忍びが使役する為に育てあげた忍鳥なのだ。
そこらの田舎侍の技量では傷を負わせる事など出来やしない、
いや、下忍程度でも軽くあしらう事が出来るはずなのである。
その鳩が傷ついているという事は、
音駒を危機に陥れている者はただ者ではない、という事だ。
心太郎は鳥組の屋敷に急ぎ、若頭の燕に事情を話した。
この鳩を育て、心太郎に譲ってくれたのはこの燕なのである。
『わかったわ、ちょっと待ってて』
燕は年の頃二十四、五のくのいちである。
あまり会う機会はないのだが、会えば心太郎を弟のように可愛がってくれる。
燕は膝の辺りまで伸びた黒髪を揺らして別の二羽の鳩を連れてきた。
そして手当ての済んだ心太郎の鳩の前に並べると、ようやく心太郎に微笑みかけた。
『心ちゃん、焦るだろうけどもう少し我慢してね。この子が案内出来ればいいんだけど、傷もあるし飛び疲れているから。代わりにこの子達を行かせるわ。ほら見て、詳しい場所を教えてるのよ』
そう言われて見ると、確かに傷を負った鳩が一生懸命に何かを話し、他の二羽がそれを聞いている。
『鳩同士が話してるなんて、何だか不思議な光景っシュね』
『うふふ、私達鳥組には当たり前の光景なんだけどね。あ、終わったみたいよ』
傷ついた鳩が心太郎に近付き、申し訳なさそうに頭を下げた。
『お、おまえは別に悪くないっシュからね!』
焦って抱きかかえ慰める。
『さぁ心ちゃん、この子がその音駒さんの所に案内してくれるわ。もう一羽はさやかちゃんの方に向かわせるから。先に行って音駒さんを助けてあげなさい』
『ありがとうっシュ!こいつの傷の手当て、よろしくお願いするっシュ!』
心太郎が抱いていた鳩を燕に差し出した。
燕はそれを優しく受け取るとにこりと微笑んでうなずいた。
『じゃあ行ってきますっシュ!』
一瞬翼が羽ばたく音がした。
一瞬心太郎の髪がたなびいた。
その時にはもう、一羽と一人の姿は屋敷から消えていた。
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