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2013-07-15(Mon)

小説・さやか見参!(191)

『先生、いつもありがとうございます。先生のおかげで少しずつ調子が良くなってるみたいです。本当に感謝しております』

大仰に礼を言われ、音駒は恐縮しながら家から出た。

今日もまたいつものように、音駒は病人の住まいを巡回している。

音駒の治療は、

いや、

音駒の薬はかなり効く。

特に心を病んだ者には良い効果を示している。

気を塞ぎ、喋らなくなり、外に出なくなり、常に死を口にする、

そんな患者達を音駒は必死に治そうとした。

それはかつての自分を投影したからに違いなかった。

許嫁を亡くし、二度と立ち直れないと思った自分、

完全に生きる意味を見失っていた自分、

そんな自分に再び命を吹き込んでくれたのは師匠だった。

死にたくないと泣きながら、それでも生きる事が出来なかった許嫁に対し、お前は簡単に『死にたい』などと口に出来るのか?

そう諭されて目が覚めた。

だから現在がある。

そう、
許嫁は自分と共に生きたかったのだ。

共に死にたかったわけではない。

だとしたら自分は生きるべきなのだ。

彼女の分まで。

彼女を救えなかった罪を抱いて。

音駒はその罪を贖うつもりはなかった。

病人を救う事は自分自身を救う事だ。

ただ、

ただ生きるのだ。

彼女の命の分まで。

それにしても、

音駒は春の気配が見えてきた畔を歩きながら呟いた。

『師匠の薬は本当に効くなぁ』

音駒の師匠はあらゆる薬事に通じていた。

熟練の医師すら知らぬような珍しい草花にも通じていたし、外国から聞いた事もない獣の燻製なども入手していた。

師匠が作る薬の種類は数えきれないくらいであり、音駒が現状学んだものなどその中のごくごく一部に過ぎない。

それが世間では音駒の評価として広まっている。

本当はまだまだ師匠無しでは半人前以下だというのに。

いつか…

いつか師匠の技術と知識を全て受け継ぐ事が出来たなら、

一人前の医者になったなら、もっとたくさんの人達を救う事が出来るだろうか。

音駒は木陰に行李を降ろして一息ついた。

つい先日まで寒くて仕方なかったのに、いつの間にか少し暖かくなっている。

首筋にじわりと汗がにじんでいるようだ。

音駒は微かな笑顔を浮かべ首を拭った。

春を感じると何だか嬉しくなる。

生きていて良かった、ような気持ちになる。

空を仰ぐ。

寒気の残る澄んだ青さが目に入った。

その下には、色づき始めた草花が点々としている。

なんだか、

音駒は空と花を見て少し照れながら思った。

なんだか、山吹さやかみたいだ、と。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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