2013-06-18(Tue)
小説・さやか見参!(189)
『私ってさ…』
『え?』
月を眺めて考えにふけっていた心太郎にさやかが突然声をかけた。
『私って駄目な忍者なのかな』
『どうしたっシュか、おいら今までいちどもそんな風に思った事ないっシュよ』
さやかは膝を抱えてうつむいたままだ。
『イバラキはね、この世から嘘をなくしたいんだって。人が人を騙す世界が嫌なんだって』
『へぇ』
『ま、それは私もそうなんだけどさ。みんなが笑顔で暮らせる世界を作るのがお兄ちゃんと私の夢だから。でもね、私は本当にその夢に向かってるのかなって、自信なくなっちゃって…』
『さやか殿らしくないっシュね。何があったんシュか』
心太郎がさやかに近付いて訊いた。
『正しいか間違ってるかは置いといて、イバラキはその理想に向かって自分なりに進んでるんだわ。それなのに私はイバラキを倒す事ばっかり考えてた。お兄ちゃんのかたきを討つ事ばっかり…』
イバラキはそれを、正義ではなく私怨だと切り捨てたのだ。
『偉そうな事ばっかり言ってたけど、私は結局何もしてなかったのかもしれない。イバラキの方がよっぽど覚悟を持って…』
『さやか殿』
心太郎が遮る。
『さやか殿、今さら何言ってるっシュか。たける殿のかたき討ちはさやか殿の個人的な問題であって、天下を平和にする事とは関係ないっシュ』
『やっぱりそうか…』
さやかが沈んだ声で呟く。
『でもね、さやか殿』
心太郎があえて、明るく大きな声を出した。
さやかが顔をあげる。
『たける殿やゆりさんのかたき討ちはさやか殿の個人的な感情だけど、そこがさやか殿のいい所なんじゃないっシュか?』
『いい所…?』
さやかが心太郎の瞳を見つめた。
『おいらはそう思うっシュよ。だって身近な人が死んだり殺されたりしたら、悲しんだり怒ったりして当然じゃないっシュか。そりゃ感情的になるのは良くないとか復讐は良くないとかって言う人もいると思うっシュけど』
『忍者は心を動かしちゃ駄目だもん…』
『もちろんそれはそうっシュ。でもね、身近な人が死んで、大好きな人が殺されて、それでも心を動かさずにいられる人が作った世界ってどうなんシュかね?おいらはちょっと魅力を感じないっシュけど』
さやかは想像してみた。
決して心を動かさない者が作った世界を。
そこでは人々が、心を持たぬ人形のように淡々と日常を送っている。
そして、その世界を眺めているのは表情の無い、まるで能面のような顔の為政者だ。
これは、違う気がする。
『そう、ね』
さやかは心太郎の言葉に同意を示した。
『さやか殿の感情は、とっても人間らしいと思うっシュよ。そしてさやか殿は絶対に道を外さないっシュ。たける殿との約束がある限り。だから』
心太郎は膝をついてさやかの手を握った。
『だからさやか殿は、平和な天下を築く為に一生懸命戦えばいいっシュよ。自分の信じる道を一生懸命進めばいいっシュ。たける殿はきっと、さやか殿のそんな真っ直ぐさに未来を託したっシュよ』
しばらく黙った後、さやかが吹き出した。
『なんだかよく分からない理屈ね』
さやかに笑顔が戻った。
心太郎もにっこり笑う。
『まぁ確かによく分からないっシュね。感情的な所もさやか殿の魅力だって事っシュよ』
『それ、忍者には全然誉め言葉じゃないわよ!』
言葉は怒っているが口調はとても楽しそうだ。
どうやら吹っ切れて元気を取り戻したようである。
『でもそうね。
世界をほんの少し変える為に死ぬまで一生懸命戦え
ってお兄ちゃんは言ってた。私は、目の前の悪と戦っていかなくちゃいけないんだわ。イバラキだろうが誰だろうが。復讐だろうが何だろうが』
さやかがすっきりした顔で立ち上がった。
心太郎がそれを見上げる。
山吹さやかは背負った月の光を浴びて、女神のように美しく輝いていた。
『心太郎、ありがと』
女神から感謝の言葉を賜った心太郎は嬉しそうに
『はいっシュ♪』
と答えた。
『え?』
月を眺めて考えにふけっていた心太郎にさやかが突然声をかけた。
『私って駄目な忍者なのかな』
『どうしたっシュか、おいら今までいちどもそんな風に思った事ないっシュよ』
さやかは膝を抱えてうつむいたままだ。
『イバラキはね、この世から嘘をなくしたいんだって。人が人を騙す世界が嫌なんだって』
『へぇ』
『ま、それは私もそうなんだけどさ。みんなが笑顔で暮らせる世界を作るのがお兄ちゃんと私の夢だから。でもね、私は本当にその夢に向かってるのかなって、自信なくなっちゃって…』
『さやか殿らしくないっシュね。何があったんシュか』
心太郎がさやかに近付いて訊いた。
『正しいか間違ってるかは置いといて、イバラキはその理想に向かって自分なりに進んでるんだわ。それなのに私はイバラキを倒す事ばっかり考えてた。お兄ちゃんのかたきを討つ事ばっかり…』
イバラキはそれを、正義ではなく私怨だと切り捨てたのだ。
『偉そうな事ばっかり言ってたけど、私は結局何もしてなかったのかもしれない。イバラキの方がよっぽど覚悟を持って…』
『さやか殿』
心太郎が遮る。
『さやか殿、今さら何言ってるっシュか。たける殿のかたき討ちはさやか殿の個人的な問題であって、天下を平和にする事とは関係ないっシュ』
『やっぱりそうか…』
さやかが沈んだ声で呟く。
『でもね、さやか殿』
心太郎があえて、明るく大きな声を出した。
さやかが顔をあげる。
『たける殿やゆりさんのかたき討ちはさやか殿の個人的な感情だけど、そこがさやか殿のいい所なんじゃないっシュか?』
『いい所…?』
さやかが心太郎の瞳を見つめた。
『おいらはそう思うっシュよ。だって身近な人が死んだり殺されたりしたら、悲しんだり怒ったりして当然じゃないっシュか。そりゃ感情的になるのは良くないとか復讐は良くないとかって言う人もいると思うっシュけど』
『忍者は心を動かしちゃ駄目だもん…』
『もちろんそれはそうっシュ。でもね、身近な人が死んで、大好きな人が殺されて、それでも心を動かさずにいられる人が作った世界ってどうなんシュかね?おいらはちょっと魅力を感じないっシュけど』
さやかは想像してみた。
決して心を動かさない者が作った世界を。
そこでは人々が、心を持たぬ人形のように淡々と日常を送っている。
そして、その世界を眺めているのは表情の無い、まるで能面のような顔の為政者だ。
これは、違う気がする。
『そう、ね』
さやかは心太郎の言葉に同意を示した。
『さやか殿の感情は、とっても人間らしいと思うっシュよ。そしてさやか殿は絶対に道を外さないっシュ。たける殿との約束がある限り。だから』
心太郎は膝をついてさやかの手を握った。
『だからさやか殿は、平和な天下を築く為に一生懸命戦えばいいっシュよ。自分の信じる道を一生懸命進めばいいっシュ。たける殿はきっと、さやか殿のそんな真っ直ぐさに未来を託したっシュよ』
しばらく黙った後、さやかが吹き出した。
『なんだかよく分からない理屈ね』
さやかに笑顔が戻った。
心太郎もにっこり笑う。
『まぁ確かによく分からないっシュね。感情的な所もさやか殿の魅力だって事っシュよ』
『それ、忍者には全然誉め言葉じゃないわよ!』
言葉は怒っているが口調はとても楽しそうだ。
どうやら吹っ切れて元気を取り戻したようである。
『でもそうね。
世界をほんの少し変える為に死ぬまで一生懸命戦え
ってお兄ちゃんは言ってた。私は、目の前の悪と戦っていかなくちゃいけないんだわ。イバラキだろうが誰だろうが。復讐だろうが何だろうが』
さやかがすっきりした顔で立ち上がった。
心太郎がそれを見上げる。
山吹さやかは背負った月の光を浴びて、女神のように美しく輝いていた。
『心太郎、ありがと』
女神から感謝の言葉を賜った心太郎は嬉しそうに
『はいっシュ♪』
と答えた。
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