2013-05-02(Thu)
小説・さやか見参!(188)
『あ、さやか殿!』
心太郎が腰をあげた。
荘島からさやかが戻って来たのだ。
イバラキと対決する為に荘島に赴いたさやかだったが、無事に帰ってきたところを見ると戦いに勝利したのだろうか?
心太郎はさやかを見て言葉を止める。
勝ったにしては表情が重すぎる。
敗北を喫したような顔だと言ってもいい。
『さやか殿…』
どう対応したものか躊躇しながら声をかける。
さやかは答えず、うつむいたまま重い足取りでゆっくりと心太郎の傍まで来て、そして草むらにどさりと座り込んだ。
『さやか殿…』
もう一度声をかけるが、さやかは膝を抱えた腕に顔をうずめて答えなかった。
ゆりの死を知ったさやかは怒りをあらわにイバラキの所に向かったのだが、今はその怒りが感じられない。
感じられるのは悲しみや無力感ばかりである。
『さやか殿、イバラキは?』
心太郎がさやかの顔を覗きこんで尋ねる。
『やっぱりイバラキの仕業だったっシュか?』
さやかは顔を上げずにうなずく。
『勝った…っシュか?』
訊きづらい雰囲気ではあったが、心太郎は敢えてそう言った。
さやかは答えない。動かない。
心太郎は答えを急かそうとせず、少し離れて腰をおろした。
自分も膝を抱えて、そして空を眺めた。
月が眩しい。
世の中に、あんなに眩しい光を放つものが存在するなんて。
心太郎はその不思議に感動する。
もちろん太陽の方がずっと眩しい。
しかし、自ら光を放つ太陽よりも太陽の光を受けているだけの月の方が眩しく神々しく感じるのは何故だろう。
そんな事を考えていると、心太郎の頭にはぼんやりとした思考が浮かんできた。
人間社会でも同じ事があるのかもしれない。
自ら輝く者がいて、その光を受けて輝く者がいて、その影に生きている者がいるのかもしれない。
心太郎はそこに、さやか、イバラキ、たけるを当てはめようとしてみた。
安直に考えれば、たけるが太陽、さやかはその光を受けている月、そしてイバラキは月の裏側だと思える。
だがやはりそれは安直で、たけるは妹こそを太陽だと思っていたようだし、月面の光と影も不動ではない。
誰が太陽で誰が月か、
誰が光で誰が影かなどと簡単に言えはしないのだ。
心太郎が腰をあげた。
荘島からさやかが戻って来たのだ。
イバラキと対決する為に荘島に赴いたさやかだったが、無事に帰ってきたところを見ると戦いに勝利したのだろうか?
心太郎はさやかを見て言葉を止める。
勝ったにしては表情が重すぎる。
敗北を喫したような顔だと言ってもいい。
『さやか殿…』
どう対応したものか躊躇しながら声をかける。
さやかは答えず、うつむいたまま重い足取りでゆっくりと心太郎の傍まで来て、そして草むらにどさりと座り込んだ。
『さやか殿…』
もう一度声をかけるが、さやかは膝を抱えた腕に顔をうずめて答えなかった。
ゆりの死を知ったさやかは怒りをあらわにイバラキの所に向かったのだが、今はその怒りが感じられない。
感じられるのは悲しみや無力感ばかりである。
『さやか殿、イバラキは?』
心太郎がさやかの顔を覗きこんで尋ねる。
『やっぱりイバラキの仕業だったっシュか?』
さやかは顔を上げずにうなずく。
『勝った…っシュか?』
訊きづらい雰囲気ではあったが、心太郎は敢えてそう言った。
さやかは答えない。動かない。
心太郎は答えを急かそうとせず、少し離れて腰をおろした。
自分も膝を抱えて、そして空を眺めた。
月が眩しい。
世の中に、あんなに眩しい光を放つものが存在するなんて。
心太郎はその不思議に感動する。
もちろん太陽の方がずっと眩しい。
しかし、自ら光を放つ太陽よりも太陽の光を受けているだけの月の方が眩しく神々しく感じるのは何故だろう。
そんな事を考えていると、心太郎の頭にはぼんやりとした思考が浮かんできた。
人間社会でも同じ事があるのかもしれない。
自ら輝く者がいて、その光を受けて輝く者がいて、その影に生きている者がいるのかもしれない。
心太郎はそこに、さやか、イバラキ、たけるを当てはめようとしてみた。
安直に考えれば、たけるが太陽、さやかはその光を受けている月、そしてイバラキは月の裏側だと思える。
だがやはりそれは安直で、たけるは妹こそを太陽だと思っていたようだし、月面の光と影も不動ではない。
誰が太陽で誰が月か、
誰が光で誰が影かなどと簡単に言えはしないのだ。
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