2013-04-13(Sat)
小説・さやか見参!(187)
イバラキは、しばしさやかを見てから踵を返し、紅蓮丸が落とした魔剣の所まで歩いた。
『その、ゆりとやらの事は知らんが』
巨大な剣を拾う。
『確かに今回の拙者のやり方では目的を遂げる事は難しいようだ。こやつを見てはっきりした。人心を操るなど愚行に過ぎんとな』
『じゃあ』
もうやめるのね、と言いかけたさやかをイバラキが制する。
『勘違いするな、拙者は諦めん。また別の方法を考えるまで。拙者は、拙者の理想とする天下を築く』
『イバラキ!あんたみたいな奴が天下を治めるなんて絶対に許さない!』
『止めるか?ならば止めてみよ。だがおぬしに拙者を止める権利があるか?』
『なんですって?』
『山吹さやか、おぬしの理想は平和な世を、人々が笑顔で暮らせる天下を作る事であろう。しかしおぬし、それを実現する為に何をしている?おぬしは我々を悪の元凶と決めつけ、いたずらに追い回しているだけではないか。拙者を止めれば平和になるのか?拙者が死ねば人々が笑顔で暮らせるのか?この世界から嘘や裏切りが消えるのか?ならば拙者は死んでもかまわぬ。今ここで殺せ。だが約束しろ。拙者の消えた世界からは一切の諍いを無くすと』
イバラキが抜刀する。
さやかが身構える。
イバラキはさやかに歩み寄りながら刀を逆手に持ち替えた。
『さぁ宣言しろ。拙者が死ねば世界は平和になると』
イバラキがさやかの手を取り、無理矢理に自分の刀を持たせる。
『イバラキ!?』
さやかに握られた刀はイバラキの首筋に当てられた。
『さぁ刀を引け。この首を斬れ。己の首一つで世が平和になるなら安いものだ』
さやかの腕を掴んだイバラキが刃を引こうとした。
さやかは必死に止める。
『遠慮する事はない。己の理想を実現しろ。邪魔なものは排除すればいい』
『やめて…!』
『なぜやめる?拙者を殺しても平和など来ぬからか?それでも斬ればいい。平和は来ずともたけるの敵は討てる』
『いやっ!』
『斬れ!!』
『いやよ!!』
イバラキの腕を振りほどいてさやかが跳び退いた。
『今ここであんたを斬ったら、天下の平和を口実に私怨を晴らしただけになっちゃうじゃないの』
『良いではないか。天下の平和も兄の敵討ちもおぬしの目的には違いなかろう』
『こんなんであんたを殺すのは何かずるい気がする。そんなのやだ』
『甘いな。絶好の機会であったというのに。拙者はこれからも己の理想を実現する為に策を講じるぞ』
『私だって、私の、私とお兄ちゃんの理想を実現する方法を考えて、その上であんたを止めてみせるわ。平和を築いて、そしてお兄ちゃんの敵を討つ!』
そう言ってさやかはイバラキから離れた。
『楽しみにしておるぞ』
イバラキがそう言った瞬間、さやかが地面を蹴って姿を消した。
『いやぁ、今のは若干、分が悪かったですな』
邪衆院がイバラキの隣に来て腕を組んだ。
『今回の策では上手くいかないと我々も気付いていましたからね。それを責められてはぐうの音も出ない』
そう言われてイバラキが自嘲する。
『あの娘も無力なら拙者も無力、という事だ。今の所はな』
『では次の手を試しに行きますか』
邪衆院の言葉にイバラキが頷き、二人は間もなく城を後にした。
城内の手下もいつの間にか姿を消していた。
先程までの騒ぎが嘘のように静けさが戻る。
そこには巨大な魔剣と、気を失った紅蓮丸だけが残されていた。
派手な爆発と共に登場した紅蓮丸だったが、特に何の活躍も見せず、さやかの目に止まる事は一度もなかった。
『その、ゆりとやらの事は知らんが』
巨大な剣を拾う。
『確かに今回の拙者のやり方では目的を遂げる事は難しいようだ。こやつを見てはっきりした。人心を操るなど愚行に過ぎんとな』
『じゃあ』
もうやめるのね、と言いかけたさやかをイバラキが制する。
『勘違いするな、拙者は諦めん。また別の方法を考えるまで。拙者は、拙者の理想とする天下を築く』
『イバラキ!あんたみたいな奴が天下を治めるなんて絶対に許さない!』
『止めるか?ならば止めてみよ。だがおぬしに拙者を止める権利があるか?』
『なんですって?』
『山吹さやか、おぬしの理想は平和な世を、人々が笑顔で暮らせる天下を作る事であろう。しかしおぬし、それを実現する為に何をしている?おぬしは我々を悪の元凶と決めつけ、いたずらに追い回しているだけではないか。拙者を止めれば平和になるのか?拙者が死ねば人々が笑顔で暮らせるのか?この世界から嘘や裏切りが消えるのか?ならば拙者は死んでもかまわぬ。今ここで殺せ。だが約束しろ。拙者の消えた世界からは一切の諍いを無くすと』
イバラキが抜刀する。
さやかが身構える。
イバラキはさやかに歩み寄りながら刀を逆手に持ち替えた。
『さぁ宣言しろ。拙者が死ねば世界は平和になると』
イバラキがさやかの手を取り、無理矢理に自分の刀を持たせる。
『イバラキ!?』
さやかに握られた刀はイバラキの首筋に当てられた。
『さぁ刀を引け。この首を斬れ。己の首一つで世が平和になるなら安いものだ』
さやかの腕を掴んだイバラキが刃を引こうとした。
さやかは必死に止める。
『遠慮する事はない。己の理想を実現しろ。邪魔なものは排除すればいい』
『やめて…!』
『なぜやめる?拙者を殺しても平和など来ぬからか?それでも斬ればいい。平和は来ずともたけるの敵は討てる』
『いやっ!』
『斬れ!!』
『いやよ!!』
イバラキの腕を振りほどいてさやかが跳び退いた。
『今ここであんたを斬ったら、天下の平和を口実に私怨を晴らしただけになっちゃうじゃないの』
『良いではないか。天下の平和も兄の敵討ちもおぬしの目的には違いなかろう』
『こんなんであんたを殺すのは何かずるい気がする。そんなのやだ』
『甘いな。絶好の機会であったというのに。拙者はこれからも己の理想を実現する為に策を講じるぞ』
『私だって、私の、私とお兄ちゃんの理想を実現する方法を考えて、その上であんたを止めてみせるわ。平和を築いて、そしてお兄ちゃんの敵を討つ!』
そう言ってさやかはイバラキから離れた。
『楽しみにしておるぞ』
イバラキがそう言った瞬間、さやかが地面を蹴って姿を消した。
『いやぁ、今のは若干、分が悪かったですな』
邪衆院がイバラキの隣に来て腕を組んだ。
『今回の策では上手くいかないと我々も気付いていましたからね。それを責められてはぐうの音も出ない』
そう言われてイバラキが自嘲する。
『あの娘も無力なら拙者も無力、という事だ。今の所はな』
『では次の手を試しに行きますか』
邪衆院の言葉にイバラキが頷き、二人は間もなく城を後にした。
城内の手下もいつの間にか姿を消していた。
先程までの騒ぎが嘘のように静けさが戻る。
そこには巨大な魔剣と、気を失った紅蓮丸だけが残されていた。
派手な爆発と共に登場した紅蓮丸だったが、特に何の活躍も見せず、さやかの目に止まる事は一度もなかった。
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