2012-12-18(Tue)
小説・さやか見参!(178)
木々の間を風が吹き抜けた。
頬に当たる風が湿気を撫で付けていく。
心なしか寒さが和らいできたようだ、と山吹流頭領、山吹武双は思った。
ここはかつての荊木砦から少し離れた山中。
くちなわが斬った女神像の前である。
真冬の間いくぶんか乾燥していた空気が再び水分を取り戻してきたように感じ、武双は冬の終わりを予感した。
『頭領』
ゆっくりと歩いてきた男は武双にそう声をかけた。
武双の弟、山吹練武である。
見た目の印象は違うが、全身から漂う空気は流石に兄弟、よく似ている。
『練武、どうであった』
『は。やはり不問の推測通りに』
『そうか…』
武双が左に顔を向けると、そこには山吹の三男、不問が立っていた。
『これで我等が知るだけでも、十二の藩があの者の手中に落ちたという事になりますな』
イバラキに斬られ、胴体から下を残した女神像を眺めながら不問が呟くと、長兄の武双が、
『鳥飼だけで済むまいとは思っていたが…』
と応えた。
鳥飼では藩主が何者かに操られていたのだが、調査の結果
、他の十一の藩でも同じ事が起きている事が発覚したのだ。
『しかし解せぬのは、その十二の藩が広範囲に点在しておる事。いずれかを拠点に侵攻を進めるならいざ知らず、このように各藩が離れていては治める事も難しかろう』
練武は地図を見ながら疑問を投げかけた。
地図上では何者かに侵攻されているという十二の藩に朱印が入れられているが、確かに全国に散らばりすぎていてまとまりがない。
『治めるつもりなどないのですよ、この首謀者は』
不問が事も無げに答える。
『なに?どういう事だ?』
『おそらく首謀者は試しているのですよ。藩主を操り、虚言を禁ずとの触れを出し、それで人々がどうなるのかを』
武双がそれを受ける。
『なるほど。統計を取るつもりならば拠点が全国に散らばっているのもうなずけるか』
『しかし何の為に』
『人が他人を欺かずに生きる事は可能なのか、それを確かめたいのでしょうな。首謀者はこれまでに幾度となく欺かれ嵌められ、心が歪んでしまった者でしょう』
そう言われた武双と練武の脳裏には、同じ男の顔が浮かんだ。
それを察するように不問がうなずく。
『相手が奴ならば、さやかを向かわせるのが最良かと思われますが…』
練武が続ける。
『いかに不世出のくのいちとはいえ、まださやかの心は幼い』
『分かっている』
武双はそう言うとくるりと振り返り、足下に膝まずいた忍びを見た。
『だからこそこの者を同行させておるのだ。さやかを頼むぞ、心太郎』
そう言われた心太郎は、顔を上げる事もなく、
『は、心得ております』
と力強く答え、地面を蹴り姿を消した。
頬に当たる風が湿気を撫で付けていく。
心なしか寒さが和らいできたようだ、と山吹流頭領、山吹武双は思った。
ここはかつての荊木砦から少し離れた山中。
くちなわが斬った女神像の前である。
真冬の間いくぶんか乾燥していた空気が再び水分を取り戻してきたように感じ、武双は冬の終わりを予感した。
『頭領』
ゆっくりと歩いてきた男は武双にそう声をかけた。
武双の弟、山吹練武である。
見た目の印象は違うが、全身から漂う空気は流石に兄弟、よく似ている。
『練武、どうであった』
『は。やはり不問の推測通りに』
『そうか…』
武双が左に顔を向けると、そこには山吹の三男、不問が立っていた。
『これで我等が知るだけでも、十二の藩があの者の手中に落ちたという事になりますな』
イバラキに斬られ、胴体から下を残した女神像を眺めながら不問が呟くと、長兄の武双が、
『鳥飼だけで済むまいとは思っていたが…』
と応えた。
鳥飼では藩主が何者かに操られていたのだが、調査の結果
、他の十一の藩でも同じ事が起きている事が発覚したのだ。
『しかし解せぬのは、その十二の藩が広範囲に点在しておる事。いずれかを拠点に侵攻を進めるならいざ知らず、このように各藩が離れていては治める事も難しかろう』
練武は地図を見ながら疑問を投げかけた。
地図上では何者かに侵攻されているという十二の藩に朱印が入れられているが、確かに全国に散らばりすぎていてまとまりがない。
『治めるつもりなどないのですよ、この首謀者は』
不問が事も無げに答える。
『なに?どういう事だ?』
『おそらく首謀者は試しているのですよ。藩主を操り、虚言を禁ずとの触れを出し、それで人々がどうなるのかを』
武双がそれを受ける。
『なるほど。統計を取るつもりならば拠点が全国に散らばっているのもうなずけるか』
『しかし何の為に』
『人が他人を欺かずに生きる事は可能なのか、それを確かめたいのでしょうな。首謀者はこれまでに幾度となく欺かれ嵌められ、心が歪んでしまった者でしょう』
そう言われた武双と練武の脳裏には、同じ男の顔が浮かんだ。
それを察するように不問がうなずく。
『相手が奴ならば、さやかを向かわせるのが最良かと思われますが…』
練武が続ける。
『いかに不世出のくのいちとはいえ、まださやかの心は幼い』
『分かっている』
武双はそう言うとくるりと振り返り、足下に膝まずいた忍びを見た。
『だからこそこの者を同行させておるのだ。さやかを頼むぞ、心太郎』
そう言われた心太郎は、顔を上げる事もなく、
『は、心得ております』
と力強く答え、地面を蹴り姿を消した。
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