2012-11-23(Fri)
小説・さやか見参!(175)
数時間前に再会した林の入り口に、さやか、心太郎、音駒の三人は立っていた。
ここからまた別々の道に進まねばならないのだ。
さやかと心太郎は忍びとして、
音駒は医者として。
『全然自分勝手じゃないっシュよ』
『そうでしょうか。私は許嫁の事ではなく、私自身を救いたくて医学を志したんです』
『でもでも、音駒さんは人を救う事で自分も救おうとしてるっシュ。それは自分勝手なんかじゃないとおいらは思うっシュよ?』
心太郎のまっすぐな視線を受けて、音駒は困ったような、照れたような微笑を浮かべた。
さやかがいたたまれず口を挟む。
『私もそう思います。それに…こんな風に言っていいのか分からないけど…その女性はもう戻ってこないんだから…その方が望んでいたのなら、音駒さんは一生懸命生きなくちゃいけないと思います!』
さやかの言葉が、熱く、強い。
それを聞いて、音駒は、ふっ、と笑った。
『そうですよね。だったらさやかさん、さやかさんも一生懸命生きて下さいね。お兄さんも帰ってはこない。だったら、お兄さんが望んでいたのなら、さやかさんも生きるべきでしょう?』
『えっ?』
そうだった。
音駒は最初からさやかにそれを伝えたかったのだ。
『お兄さんは、さやかさんの死を望むような人ではなかったですよね?』
さやかは音駒から目をそらして、小さく頷いた。
自分の事を棚に上げて音駒に熱く語ってしまった事が恥ずかしくなったのだろう。
だが音駒は無邪気に笑って、
『良かった!』
と声をあげた。
暗い林に音駒の明るい声が場違いに響く。
『私は悲しみを抱えた人達の心から死の影を追い払いたいんですよ。そして特に、さやかさんには生きていてほしいんです。だから、お互い一生懸命生きて、またお会いしましょう。必ず』
さやかは顔をあげて音駒の笑顔を見て、ふふふと笑った。
まったく、この青年は強いのか弱いのか分からない。
いや、自分の事にはてんで弱いのに、他人の為となるととことん強いのだ。
『はい。また会いましょう。約束ですよ』
さやかも明るく答える。
見つめ合い、微笑み合う二人を見て心太郎はちぇっ、と舌打ちし、
『まったく…仕方ないっシュねぇ』
といたずらっぽく笑うと、どこからともなく一羽の鳩を出して音駒の肩に乗せた。
『わわわっ!?心太郎殿!これは!?』
『おいらが任務の時に使ってる鳩っシュよ。音駒さんに何かあったら、この鳩がおいらに教えてくれるっシュ』
『えっ!?本当に!?』
『心太郎!あんたいつの間に!?』
音駒だけじゃなくさやかまで驚いている。
『こんな事もあろうかと、鳥組に育ててもらってたんシュよ』
『ちょっとあんたぁ、珍しく気が利くじゃないの~』
さやかこそ珍しく本気で喜んでいる。
『これでおいら達はいつも一緒、って事っシュね』
若き医者と幼き忍者達は不思議な絆のようなものを確信して、それぞれ戻るべき場所へ歩きだした。
ここからまた別々の道に進まねばならないのだ。
さやかと心太郎は忍びとして、
音駒は医者として。
『全然自分勝手じゃないっシュよ』
『そうでしょうか。私は許嫁の事ではなく、私自身を救いたくて医学を志したんです』
『でもでも、音駒さんは人を救う事で自分も救おうとしてるっシュ。それは自分勝手なんかじゃないとおいらは思うっシュよ?』
心太郎のまっすぐな視線を受けて、音駒は困ったような、照れたような微笑を浮かべた。
さやかがいたたまれず口を挟む。
『私もそう思います。それに…こんな風に言っていいのか分からないけど…その女性はもう戻ってこないんだから…その方が望んでいたのなら、音駒さんは一生懸命生きなくちゃいけないと思います!』
さやかの言葉が、熱く、強い。
それを聞いて、音駒は、ふっ、と笑った。
『そうですよね。だったらさやかさん、さやかさんも一生懸命生きて下さいね。お兄さんも帰ってはこない。だったら、お兄さんが望んでいたのなら、さやかさんも生きるべきでしょう?』
『えっ?』
そうだった。
音駒は最初からさやかにそれを伝えたかったのだ。
『お兄さんは、さやかさんの死を望むような人ではなかったですよね?』
さやかは音駒から目をそらして、小さく頷いた。
自分の事を棚に上げて音駒に熱く語ってしまった事が恥ずかしくなったのだろう。
だが音駒は無邪気に笑って、
『良かった!』
と声をあげた。
暗い林に音駒の明るい声が場違いに響く。
『私は悲しみを抱えた人達の心から死の影を追い払いたいんですよ。そして特に、さやかさんには生きていてほしいんです。だから、お互い一生懸命生きて、またお会いしましょう。必ず』
さやかは顔をあげて音駒の笑顔を見て、ふふふと笑った。
まったく、この青年は強いのか弱いのか分からない。
いや、自分の事にはてんで弱いのに、他人の為となるととことん強いのだ。
『はい。また会いましょう。約束ですよ』
さやかも明るく答える。
見つめ合い、微笑み合う二人を見て心太郎はちぇっ、と舌打ちし、
『まったく…仕方ないっシュねぇ』
といたずらっぽく笑うと、どこからともなく一羽の鳩を出して音駒の肩に乗せた。
『わわわっ!?心太郎殿!これは!?』
『おいらが任務の時に使ってる鳩っシュよ。音駒さんに何かあったら、この鳩がおいらに教えてくれるっシュ』
『えっ!?本当に!?』
『心太郎!あんたいつの間に!?』
音駒だけじゃなくさやかまで驚いている。
『こんな事もあろうかと、鳥組に育ててもらってたんシュよ』
『ちょっとあんたぁ、珍しく気が利くじゃないの~』
さやかこそ珍しく本気で喜んでいる。
『これでおいら達はいつも一緒、って事っシュね』
若き医者と幼き忍者達は不思議な絆のようなものを確信して、それぞれ戻るべき場所へ歩きだした。
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