2012-11-19(Mon)
小説・さやか見参!(174)
『自分勝手な、理由?』
さやかが尋ねる。
『はい。彼女を失った私は生きる希望を失いました。もうね、恥ずかしい話ですが…彼女無しの人生なんて考えられなくなってたんです。仕事をして稼ぐ事さえ彼女の幸せの為にって思い込んでましたから』
『…分かります』
さやかには音駒の気持ちが本当に理解出来た。
さやかも、兄・たけるのいない人生なんて想像もつかなかったし耐えられなかったのだ。
『だからね、私はその時…死にたいと思ったんです。さやかさんと同じように』
蝋燭の炎に照らされた音駒は自嘲気味に目を伏せた。
『おかしいですよね。一度は死を願った私が今は医者として人を救おうとしてるなんて』
『おかしくないっシュよ!音駒さんは自分がたくさん苦しんだから親身になって人を助けられるんじゃないっシュか』
『ありがとう、心太郎殿。でもね、その時は本気で死ぬ事しか考えられなかった。私は彼女という大地の上に生きていたんです。その大地を失って私は…どこでどう生きれば良いのか分からなくなってしまった』
そこで言葉を切って、音駒はさやかを見た。
『さやかさんもそんな感じではありませんでしたか?違ったらすみません。でも、同じものを感じたので…』
さやかは 返事をしなかったが、それは明らかな無言の同意だった。
『それから私は何度も死のうとしては失敗して…ふふっ、やはり意気地がなかったんでしょうねぇ。でもある日、意を決して、とうとう本気で死のうとした。その時に助けて下さったのが、今の私の師匠なんです』
『お医者さんに助けられて、それで弟子入りを?』
『すぐにではないですよ。最初はまだ、死にたい死にたいと駄々をこね、楽に死ねる薬があるなら調合してくれと頼んだりもしました。でも師匠は私の事情を聞いてこうおっしゃったんです』
音駒が息をすっと吸い込んだ。
『世の中には病や怪我で、死にたくなくとも死ぬる者がおるのだぞ。おのれが手前勝手に命を捨てるなど、そうした者達に申し訳ないとは思わぬか?…と』
音駒は、泣きじゃくる自分を一喝した師匠の形相を思い出す。
『死にたくないと泣きながら死んだ許嫁に申し開きが出来るのか、と。それともおまえの許嫁は、おまえまで道連れに死にたいと願うような浅ましい女だったのか、と』
違う!と音駒は怒鳴ったのだそうだ。
あれはそんな女ではなかった!
私の死を願うような女ではなかった!
そう言ったそうだ。
そこで、
自分の使命に思い至ったのだという。
彼女の為に生きる事。
生きたいと願った彼女の代わりに生きる事。
『そこで初めて私は弟子入りを志願したんです。ただし、身体の病ではなく気の病を治す為に。私と同じように、悲しみや苦しみで心を壊してしまう人、心が病んでしまう人はたくさんいる。だから私は、私が師匠に救われたように、そんな人達を救ってあげたいんです』
音駒は一気に吐き出すように喋ると、ふぅと一息ついてさやかと心太郎に微笑んだ。
『ね?自分勝手な理由でしょう?』
さやかが尋ねる。
『はい。彼女を失った私は生きる希望を失いました。もうね、恥ずかしい話ですが…彼女無しの人生なんて考えられなくなってたんです。仕事をして稼ぐ事さえ彼女の幸せの為にって思い込んでましたから』
『…分かります』
さやかには音駒の気持ちが本当に理解出来た。
さやかも、兄・たけるのいない人生なんて想像もつかなかったし耐えられなかったのだ。
『だからね、私はその時…死にたいと思ったんです。さやかさんと同じように』
蝋燭の炎に照らされた音駒は自嘲気味に目を伏せた。
『おかしいですよね。一度は死を願った私が今は医者として人を救おうとしてるなんて』
『おかしくないっシュよ!音駒さんは自分がたくさん苦しんだから親身になって人を助けられるんじゃないっシュか』
『ありがとう、心太郎殿。でもね、その時は本気で死ぬ事しか考えられなかった。私は彼女という大地の上に生きていたんです。その大地を失って私は…どこでどう生きれば良いのか分からなくなってしまった』
そこで言葉を切って、音駒はさやかを見た。
『さやかさんもそんな感じではありませんでしたか?違ったらすみません。でも、同じものを感じたので…』
さやかは 返事をしなかったが、それは明らかな無言の同意だった。
『それから私は何度も死のうとしては失敗して…ふふっ、やはり意気地がなかったんでしょうねぇ。でもある日、意を決して、とうとう本気で死のうとした。その時に助けて下さったのが、今の私の師匠なんです』
『お医者さんに助けられて、それで弟子入りを?』
『すぐにではないですよ。最初はまだ、死にたい死にたいと駄々をこね、楽に死ねる薬があるなら調合してくれと頼んだりもしました。でも師匠は私の事情を聞いてこうおっしゃったんです』
音駒が息をすっと吸い込んだ。
『世の中には病や怪我で、死にたくなくとも死ぬる者がおるのだぞ。おのれが手前勝手に命を捨てるなど、そうした者達に申し訳ないとは思わぬか?…と』
音駒は、泣きじゃくる自分を一喝した師匠の形相を思い出す。
『死にたくないと泣きながら死んだ許嫁に申し開きが出来るのか、と。それともおまえの許嫁は、おまえまで道連れに死にたいと願うような浅ましい女だったのか、と』
違う!と音駒は怒鳴ったのだそうだ。
あれはそんな女ではなかった!
私の死を願うような女ではなかった!
そう言ったそうだ。
そこで、
自分の使命に思い至ったのだという。
彼女の為に生きる事。
生きたいと願った彼女の代わりに生きる事。
『そこで初めて私は弟子入りを志願したんです。ただし、身体の病ではなく気の病を治す為に。私と同じように、悲しみや苦しみで心を壊してしまう人、心が病んでしまう人はたくさんいる。だから私は、私が師匠に救われたように、そんな人達を救ってあげたいんです』
音駒は一気に吐き出すように喋ると、ふぅと一息ついてさやかと心太郎に微笑んだ。
『ね?自分勝手な理由でしょう?』
スポンサーサイト