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2012-11-12(Mon)

小説・さやか見参!(172)

音駒が患者の屋敷で治療をしている間、さやかと心太郎は近くをぶらぶらと歩いてみた。

刺すように冷たい風が背を押すように吹いている。

顔を上げると空には一面 冬の雲が広がっていた。

景色が灰色に見えるのはそのせいかもしれない。

冬の景色には色が無い。

さやかは常々そう思っていたが、今は少し違う。

雪の白も、雲の灰色も色なのだ。

花の赤や空の青と同じ『色』なのだ。

それに気付いてから、何だか分からないけど何故か心が晴れた。

さやかは心太郎にそんな事を話した。

『ふぅん』

心太郎は驚いたような、納得したような、嬉しいような、それでいてそっけないような曖昧な返事をした。

『なによその生返事。せっかく話したのに』

さやかが拗ねる。

『いや、それはいい事だなぁって思うっシュよ。おいらも何だか嬉しいっシュ』

心太郎が微妙な受け答えをするので二人の会話はそこで終わってしまった。

やがて陽が傾いて木々の影が遠くに伸びた頃、屋敷の木戸から行李を背負った音駒が姿を現した。

屋敷に向かって手を合わせ、患者の治癒を祈っている。

『音駒さん、お疲れ様』

『さやかさん、心太郎殿、すみません、待たせてしまって』

『いいえ、またしばらくお別れなんだからこのぐらいは』

さやかが微かに曇った笑顔で答える。

音駒とはここで別れ、山吹の里に戻らなければならない。

次にまた会える保障はどこにもない。

だがさやかは無理に明るく振る舞った。

『患者さんはどんな様子でしたか?』

『そうですね。気塞ぎは波がありますから。今日は落ち着いてましたが、まだ先は長そうですね』

音駒の表情も曇る。

だがそれはさやかとの別れを惜しんでではなく患者を心配してのものだ。

さやかは寂しい気がしたが、それでこそ音駒だと嬉しくも思った。

『ねぇ音駒さん』

『はい?』

『前に約束しましたよね?音駒さんがお医者さんになろうと思った理由、次に会った時に教えて下さい、って』

『そうでしたね』

音駒は微笑んだ。

だが心太郎はその笑顔を見て、音駒の瞳の奥に寂しげなものが秘められている事を悟った。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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