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2012-11-05(Mon)

小説・さやか見参!(170)

『驚きました。さやかさんにまた会えるなんて』

『えっ?私ちゃんと約束しましたよね?またここで会いましょうって。もしかして約束忘れてました!?』

さやかが音駒に詰め寄る。

音駒が慌てて

『忘れてないですよ!』

と否定すると、さやかは更に


『じゃあ私の事信じてなかったんだ』

とむくれてみせる。

『そうじゃなくて、まさか今日会えるなんて思ってなかったから驚いただけですよ!』

『どうだか』

口調は他人行儀だが不思議と親密な空気を感じる。

心太郎は少し離れた場所から二人を眺め、拗ねた顔をして呟いた。

『仲がよろしくて結構な事っシュね』

心太郎はさやかから音駒の話を聞く度に若干の胡散臭さを感じていた。

ぶっちゃけて言うと、敵の間者ではないかと疑っていたのだ。

くのいちが色仕掛けで男を落とす術ならば、逆に男が女を嵌める術もある。

まぁそれは外見による所も大きいわけだが、ならば音駒とは色男であろうと想像はしていた。

『絶対に正体を暴いてやるっシュ』

心太郎はそう心に誓っていたのだが…

先程、遠くから音駒を見付けた時、

まだ顔も見た事がなかったというのに一瞬でそれが音駒だと分かった。

何故ならば、さやかから聞いていた通り、善良で、穏やかで、臆病で、そして強い、その雰囲気を纏っていたからである。

他人を騙すような邪気を全く感じさせない男だと心太郎は思った。

その善良な優男は遠目にも分かるぐらい、さやかの追求に狼狽えている。

『本当ですよ!私は毎日、いつかさやかさんに会えると信じてこの道を歩いてたんですから』

そう言うと音駒は少し申し訳なさそうな表情になって、

『最初の頃は、明日会えるかも、明日こそは会えるかもって毎日考えてましたけど、日が経つにつれ、さやかさんのお仕事はお忙しいんだなって分かってきて…それでわざと期待せずに歩くようにしてたんです。いつ会えるか分からないのに期待ばかり膨らませてると心が折れちゃいそうだったので。…ごめんなさい』

音駒は頭を下げた。

だが、

それを聞いてさやかは、詫びるべきは自分だと思った。

いつ会えるとも分からぬままに再会の約束をし、そして予定外に長丁場な任務で音駒を待たせていたのだ。

むしろ、約束をまだ信じてくれていた事の方が奇跡だろう。

『音駒さん、私こそごめんなさい。すみませんでした』

さやかは心から詫びた。

そのしおらしい姿はくのいちではなく普通の女の子にしか見えない、と、心太郎は思った。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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