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2012-10-21(Sun)

小説・さやか見参!(169)

『どうなるっシュかね』

心太郎がぼそりと呟いた。

『ゆりさん?』

歩きながらさやかが尋ねる。

心太郎は返事とも溜め息ともつかない声を出して頷いた。

『ゆりさんの為にも、早く謎を解かなくちゃね』

そう答えてはみたものの、正直もどかしい思いがある。

現在鳥飼については叔父・不問とその配下達が調査している。

公には出来ないが、金丸藩の後ろ楯もある。

自分達二人が動くよりよっぽど早く核心に辿り着くだろう。

だが、やはり直接関わっていたかった。

わずかな進展でも、いち早くゆりに伝えてやりたかったのだ。

『ゆりさん、つらそうだった…』

実は金丸を出てから、さやかはゆりに会いに行ったのだ。

むろん、父親を探しに来た少年という体は崩さず、

『父親が見つかって一緒に帰る事になったから礼を言いに』

という建前を告げた。

ゆりは己の心痛を表に出さず、

『本当に良かったですね!お父様が見つかって!』

と、優しい笑顔で自分の事のように喜んでくれた。

この女性を騙す事に良心が咎めたのか、さやかは別れ際にこう言った。

『鳥飼の…例のお触れの事なんだけんど…』

ゆりが小さく、だが、はっきりと反応する。

『町で聞いた噂だと、どうやら鳥飼の殿様、ここしばらくお身体を悪くされてるらしくて、おかしな触れを出したのもどうやらそのせいだって…』

『まぁ…お殿様のお具合いが?』

『でもどうやら回復に向かってるって話だったから安心していいんじゃねぇかな。きっと具合いが良くなれば触れについても考え直すに違いねぇよ。いくら嘘つきが良くねぇっつっても、死罪はやりすぎだもんな』

まくしたてるさやか…もとい少年に、ゆりは目を丸くしている。

『だからさ、そうなったらきっと富男さんだってゆりさんとの事考え直してくれるよ。それまでの辛抱だから元気出してくんな』

さやかは半分本心で、そして半分は嘘をつきながら、それでもゆりの事を思って一生懸命に話した。

こんなに優しい人が傷付いて泣くのは嫌だ。

ましてやそこに忍びの者の陰謀が絡んでいるなら尚更だ。

鳥飼の謎は、金丸侯が、不問が、そして自分達が必ず解決してみせる。

だからそれまで頑張ってほしい。

さやかはその気持ちを伝えようとしていたのだ。

その熱意が通じたのだろうか、
ゆりはさやかの前で初めて、

『はい、頑張ります』

と屈託なく笑ったのだ。


『ゆりさんの笑顔、素敵だったな…』

心太郎は隣で呟くさやかに

『さやか殿の笑顔だって素敵っシュよ』

と声をかけたが、

『あの笑顔を守る為に私達は戦わなくちゃね』

と完全に無視されてしまった。

『ちぇっ。いいっシュよいいっシュよ、さやか殿の素敵な笑顔はおいらじゃなく、あの人にだけ向けられてればいいっシュよ』

心太郎が遠くを指差した。

『えっ?』

さやかが目を向けると、心太郎の指の先には、

林の脇で大きな行李を担いで歩く、音駒の姿があった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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