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2012-09-20(Thu)

小説・さやか見参!(168)

鳥飼の城に潜入してから二日が経っていた。

あれからさやかと心太郎は金丸に戻り、不問の到着を待って事の顛末を話した。

『兄は何者かに操られておるのか』

藩主は苦痛に堪えるような表情で声を絞り出す。

『一体何者が、何の目的で…』

そう呟くと不問を見て身を乗り出した。

『不問、その怪しき典医を捕らえて…』

感情的に言いかけたが、冷静さを取り戻し再び腰を落ち着かせた。

『いや、それでは事が大きくなるか』

怪しき典医を捕らえ、事の顛末を白状させれば鳥飼藩主の奇行は止むかもしれない。

しかし、いかな怪しくとも御典医が姿を消したとなれば鳥飼は城内のみならず騒動になる。

いたずらに安寧を乱す事は避けなければならない。

己の感情よりも合理性を優先出来る冷静さと頭脳があるからこそ金丸侯は名君なのだとさやかは思った。

山吹には『起、即、決』という言葉がある。

動く時は決める時、つまり、必ず決められるという確証を得るまで迂闊に動いてはならぬという事だ。

ならば今はまだ動くべきではない。

敵の情報が少なすぎる。

あの謎の典医とその背後にあるものを調べなければ。

さやかが思いを巡らしていると、不意に不問が振り返った。

『さやか、心太郎、おまえ達は里にお戻り。こちらは私の方で調べておくから』

『えぇっ?でも』

さやかは不満気な表情を露にした。

ここで帰っては中途半端な気がしたからだ。

心太郎もやはり同じような顔でさやかを見ている。

『おまえ達を引き留めたのは私だが、いつまでも山吹に帰さぬわけにはいかないからな。兄上には伝えているが、仔細はおまえが直接話した方がいいだろうからね』

笑顔でそう言う不問にさやかは渋々『分かりました』と答えた。

『進展があれば逐一おまえ達に報告するし、いざと言う時には必ず助勢をお願いするから。それでいいか?』

その言葉を聞いて、さやかと心太郎は一旦山吹の里に帰る事にした。

別れ際に不問は

『少しぐらい寄り道して帰っても大丈夫だからね』

と、意味深な事を言って二人を見送った。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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