2012-07-13(Fri)
小説・さやか見参!(165)
(おかしいわ)
天井裏から鳥飼藩主の様子を見ていたさやかは心の中で呟いた。
すでに陽は高くなり、町からは人々の行き交う音が聞こえている。
さやかと心太郎が城内に潜んですでに数時間が過ぎた。
鳥飼侯は夜明けからしばらくして目を覚ましていた。
だが、さやかが呟いたように、その様子は普通ではなかった。
周りに誰もいなければ黙って横になり、家臣達が来れば黙って座している。
とにかく言葉を忘れたかのように、ただの一言も喋らぬのだ。
そして何よりも、
鳥飼侯の目には生気が全くなかった。
どろりとした濁った目をしていたのだ。
床下から様子を窺っていた心太郎は、藩主は重い病なのではないかと思った。
意識の混濁や記憶の障害、そういった何かではないのかと。
もし病だとしたらそれはいつからだろう?
この様子では例の御触れを出す事も出来まい。
御触れどころか通常の職務さえこなせそうにない。
だとしたら、虚言を禁じる御触れを出した後にこの容態になってしまったのだろうか。
心太郎はそこで思考を止めた。
どれだけ考えてみても憶測推測の域を出る事はないのだ。
ならば余計な事を考えずに、ただ様子を見ていた方がいい。
藩主は一、二度厠に行ったぐらいで後は寝所から出る事はなかった。
よってさやか達もじっと暗がりに潜んだままであった。
身動きひとつする事もなく、一切の飲み食いもせず、埃だらけの板の上にただ無機物のように横たわる。
忍びにとってそれは全く苦ではない。
これぐらいは三、四日続けられなければ忍びとして役には立たないのだ。
さやかは決して気を散らす事なく、ぼんやりと音駒の笑顔を思い出していた。
そして、
(心太郎は何を考えてるだろう)
などと思っていた。
遠くで鴉が鳴いた。
外では陽が落ちはじめているのだ。
寝所に数人の家臣達が入ってきたのはその直後であった。
天井裏から鳥飼藩主の様子を見ていたさやかは心の中で呟いた。
すでに陽は高くなり、町からは人々の行き交う音が聞こえている。
さやかと心太郎が城内に潜んですでに数時間が過ぎた。
鳥飼侯は夜明けからしばらくして目を覚ましていた。
だが、さやかが呟いたように、その様子は普通ではなかった。
周りに誰もいなければ黙って横になり、家臣達が来れば黙って座している。
とにかく言葉を忘れたかのように、ただの一言も喋らぬのだ。
そして何よりも、
鳥飼侯の目には生気が全くなかった。
どろりとした濁った目をしていたのだ。
床下から様子を窺っていた心太郎は、藩主は重い病なのではないかと思った。
意識の混濁や記憶の障害、そういった何かではないのかと。
もし病だとしたらそれはいつからだろう?
この様子では例の御触れを出す事も出来まい。
御触れどころか通常の職務さえこなせそうにない。
だとしたら、虚言を禁じる御触れを出した後にこの容態になってしまったのだろうか。
心太郎はそこで思考を止めた。
どれだけ考えてみても憶測推測の域を出る事はないのだ。
ならば余計な事を考えずに、ただ様子を見ていた方がいい。
藩主は一、二度厠に行ったぐらいで後は寝所から出る事はなかった。
よってさやか達もじっと暗がりに潜んだままであった。
身動きひとつする事もなく、一切の飲み食いもせず、埃だらけの板の上にただ無機物のように横たわる。
忍びにとってそれは全く苦ではない。
これぐらいは三、四日続けられなければ忍びとして役には立たないのだ。
さやかは決して気を散らす事なく、ぼんやりと音駒の笑顔を思い出していた。
そして、
(心太郎は何を考えてるだろう)
などと思っていた。
遠くで鴉が鳴いた。
外では陽が落ちはじめているのだ。
寝所に数人の家臣達が入ってきたのはその直後であった。
スポンサーサイト