2012-05-03(Thu)
小説・さやか見参!(161)
なるほど。
鳥飼の異様な雰囲気は、相手が自分を罠に嵌めようとしているのではないかという猜疑心と、それならばこちらが先に陥れてやれという敵意から生まれたものだったのか。
心太郎は合点がいったようで、人々の昏い目付きを思い出しながらうなずいた。
さやかは雷牙がくれた防寒用の虎皮を2枚出し、1枚を心太郎に渡した。
『あ、かたじけないっシュ』
心太郎がそれを羽織る。
さやかはもう1枚を地面に敷きその上に座った。
『ゆりさんは鳥飼の人ではないからそのお触れを知らなかったそうなんだけどね』
『もし知ってても、そのせいで自分が冷たくされてるとは思わないっシュよね』
さやかがうなずく。
『他藩から通ってるゆりさんには鳥飼のお触れはほとんど関わりがないんだけど、でも疑心暗鬼に囚われてる富男さんはゆりさんをも信じる事が出来なくなっていた。それで婚約を解消しようと思ったんだけど…』
『そうか、それをやっちゃうと富男さんは捕まっちゃうんシュね。結婚するって言ってゆりさんを騙した事になるから』
『法に触れる事になるわよね。だからゆりさんを遠ざけて遠ざけて、相手から婚約を解消させたのよ』
『酷い男っシュ!』
心太郎が妙に憤った。
『一度愛すると決めたならどんな事があっても相手を守るべきっシュ!それが男ってもんっシュ!』
だがさやかは白けた口調で
『子供がなに言ってんの。二十年早い』
と切り捨てた。
心太郎がしゅんとなる。
『問題は鳥飼藩主…金丸侯のお兄様が、何故突然そんなお触れを出したか、よね』
『やっぱり…あいつらが関わってるんシュかね』
心太郎が言ったあいつらとは、城の周辺を監視していた気配の事である。
『一応、金丸侯にも聞いてみたっシュ。鳥飼では城の警護に忍びを使ったりしてたのかって』
『どうだった?』
『おそらくそんな事はなかったって。忍びを使わなくても頼りになる家来達がいたし、なにより鳥飼は平和だったから、って言われてたっシュ』
『そっか…じゃあ鳥飼の変貌にあいつらが関わってるのは間違いなさそうね』
さやかが立ち上がる。
心太郎も立ち上がる。
『もうすぐ夜が明けるわ。行きましょう』
『はいっシュ』
金丸藩主の依頼を受け、二人は明るくなる前に城内に忍び込む事になっていたのだ。
もちろんこの事は山吹の三男である叔父、不問の許可を得ている。
不問の配下もこちらに向かっているらしいし、父、武双の元にも連絡が行っているはずだ。
『いい?心太郎。あくまで偵察だからね。派手な事は一切なしよ』
『分かってるっシュよ』
『いつもみたいなドジな失敗もしないでね』
『ぐっ…気をつけるっシュ…』
『じゃ、行くわよ』
空が明るくなる直前、二つの影は鳥飼の城に向かって走り出した。
鳥飼の異様な雰囲気は、相手が自分を罠に嵌めようとしているのではないかという猜疑心と、それならばこちらが先に陥れてやれという敵意から生まれたものだったのか。
心太郎は合点がいったようで、人々の昏い目付きを思い出しながらうなずいた。
さやかは雷牙がくれた防寒用の虎皮を2枚出し、1枚を心太郎に渡した。
『あ、かたじけないっシュ』
心太郎がそれを羽織る。
さやかはもう1枚を地面に敷きその上に座った。
『ゆりさんは鳥飼の人ではないからそのお触れを知らなかったそうなんだけどね』
『もし知ってても、そのせいで自分が冷たくされてるとは思わないっシュよね』
さやかがうなずく。
『他藩から通ってるゆりさんには鳥飼のお触れはほとんど関わりがないんだけど、でも疑心暗鬼に囚われてる富男さんはゆりさんをも信じる事が出来なくなっていた。それで婚約を解消しようと思ったんだけど…』
『そうか、それをやっちゃうと富男さんは捕まっちゃうんシュね。結婚するって言ってゆりさんを騙した事になるから』
『法に触れる事になるわよね。だからゆりさんを遠ざけて遠ざけて、相手から婚約を解消させたのよ』
『酷い男っシュ!』
心太郎が妙に憤った。
『一度愛すると決めたならどんな事があっても相手を守るべきっシュ!それが男ってもんっシュ!』
だがさやかは白けた口調で
『子供がなに言ってんの。二十年早い』
と切り捨てた。
心太郎がしゅんとなる。
『問題は鳥飼藩主…金丸侯のお兄様が、何故突然そんなお触れを出したか、よね』
『やっぱり…あいつらが関わってるんシュかね』
心太郎が言ったあいつらとは、城の周辺を監視していた気配の事である。
『一応、金丸侯にも聞いてみたっシュ。鳥飼では城の警護に忍びを使ったりしてたのかって』
『どうだった?』
『おそらくそんな事はなかったって。忍びを使わなくても頼りになる家来達がいたし、なにより鳥飼は平和だったから、って言われてたっシュ』
『そっか…じゃあ鳥飼の変貌にあいつらが関わってるのは間違いなさそうね』
さやかが立ち上がる。
心太郎も立ち上がる。
『もうすぐ夜が明けるわ。行きましょう』
『はいっシュ』
金丸藩主の依頼を受け、二人は明るくなる前に城内に忍び込む事になっていたのだ。
もちろんこの事は山吹の三男である叔父、不問の許可を得ている。
不問の配下もこちらに向かっているらしいし、父、武双の元にも連絡が行っているはずだ。
『いい?心太郎。あくまで偵察だからね。派手な事は一切なしよ』
『分かってるっシュよ』
『いつもみたいなドジな失敗もしないでね』
『ぐっ…気をつけるっシュ…』
『じゃ、行くわよ』
空が明るくなる直前、二つの影は鳥飼の城に向かって走り出した。
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