2012-04-02(Mon)
小説・さやか見参!(157)
『あなたは鳥飼から来られたんですね!?』
美しい娘はさやかを問い詰めるように訊いた。
『よさねぇか、ゆり!』
男は力づくで娘を押し戻そうとしたが、ゆりと呼ばれた娘は華奢な身体で必死に抵抗した。
『父ちゃん離して!なんで何も教えてくれないの!?』
『今さら何聞いたって、もう無駄なんだ!だったら忘れた方がええ!』
『忘れる?簡単に言わないで!他人事だと思って!』
『他人事だと!?ゆり!おまえ、親の気も知らねぇで!』
男が平手を振り上げた。
娘が思わず目を閉じる。
だが、その平手が振り下ろされる事はなかった。
さやかが素早く手首を掴んで止めていたからだ。
『なんだか分かんねぇけど、二人とも少し落ち着いた方がええで』
さやかは少年の声でゆっくりと抑制した。
娘は驚いて目を開け、男は一瞬呆気に取られた。
『ふん』
掴まれた手首をふりほどいて、男がさやかに反論しようとする。
『たに…』
『他人のおらに口を出されるいわれがないのは分かってるけんどな、やっぱり目の前の事は止めなきゃお天道さんに申し開き出来ねぇもんだで』
言葉を遮られた男は怒鳴り損なって唸った。
『だったら早く出て…』
『出て行くけんどさ、こちらも知りたい事があって必死で尋ね回ってるんだ。もし鳥飼の事を何か知ってるなら教えてもらえねぇか』
『そんな事は知ら…』
『知らないわけがねぇ。それはゆりさんの口振りで分かる』
父親は黙った。
怒声を発した瞬間、まるで先を読んだかのように反論されてしまう。
ぶつけようとした怒りをするりと躱され続け、脱力したというか疲労を感じたというか、
とにかくこれ以上怒鳴る気にならなくなったのだ。
これはさやかの持つ戦闘技術の1つである。
戦いにおいて、あからさまな戦意を持って向かってくる敵には効く。
敵の動きをを読み、攻撃(気)が当たった瞬間に受け流す、
これを繰り返すと敵は少しずつ戦意を削り取られていくのだ。
当たってから受け流すというのが肝心で、完全に躱したり、しっかり受け止めたりすると効果は薄い。
口論においては、まず相手の発言を読み、先に相手に口を開かせ、言葉が出た瞬間に反論するという方法を採る。
話そうとした内容を無効化された相手は、それから次の反論を考えなければならない。
わずかだが間が空いてしまう。
そしてようやく口を開くとまた無効化され間を空けられてしまう。
その繰り返しが口論する気力を奪い取ってしまうのだ。
父親はしばし脱力して立ち尽くしていたが、やがて溜め息をついて、
『おまえはサトリみてぇだなぁ。心を読んでんのか』
と言った。
さやかは否定も肯定もせず、ただにっこりと笑って返した。
美しい娘はさやかを問い詰めるように訊いた。
『よさねぇか、ゆり!』
男は力づくで娘を押し戻そうとしたが、ゆりと呼ばれた娘は華奢な身体で必死に抵抗した。
『父ちゃん離して!なんで何も教えてくれないの!?』
『今さら何聞いたって、もう無駄なんだ!だったら忘れた方がええ!』
『忘れる?簡単に言わないで!他人事だと思って!』
『他人事だと!?ゆり!おまえ、親の気も知らねぇで!』
男が平手を振り上げた。
娘が思わず目を閉じる。
だが、その平手が振り下ろされる事はなかった。
さやかが素早く手首を掴んで止めていたからだ。
『なんだか分かんねぇけど、二人とも少し落ち着いた方がええで』
さやかは少年の声でゆっくりと抑制した。
娘は驚いて目を開け、男は一瞬呆気に取られた。
『ふん』
掴まれた手首をふりほどいて、男がさやかに反論しようとする。
『たに…』
『他人のおらに口を出されるいわれがないのは分かってるけんどな、やっぱり目の前の事は止めなきゃお天道さんに申し開き出来ねぇもんだで』
言葉を遮られた男は怒鳴り損なって唸った。
『だったら早く出て…』
『出て行くけんどさ、こちらも知りたい事があって必死で尋ね回ってるんだ。もし鳥飼の事を何か知ってるなら教えてもらえねぇか』
『そんな事は知ら…』
『知らないわけがねぇ。それはゆりさんの口振りで分かる』
父親は黙った。
怒声を発した瞬間、まるで先を読んだかのように反論されてしまう。
ぶつけようとした怒りをするりと躱され続け、脱力したというか疲労を感じたというか、
とにかくこれ以上怒鳴る気にならなくなったのだ。
これはさやかの持つ戦闘技術の1つである。
戦いにおいて、あからさまな戦意を持って向かってくる敵には効く。
敵の動きをを読み、攻撃(気)が当たった瞬間に受け流す、
これを繰り返すと敵は少しずつ戦意を削り取られていくのだ。
当たってから受け流すというのが肝心で、完全に躱したり、しっかり受け止めたりすると効果は薄い。
口論においては、まず相手の発言を読み、先に相手に口を開かせ、言葉が出た瞬間に反論するという方法を採る。
話そうとした内容を無効化された相手は、それから次の反論を考えなければならない。
わずかだが間が空いてしまう。
そしてようやく口を開くとまた無効化され間を空けられてしまう。
その繰り返しが口論する気力を奪い取ってしまうのだ。
父親はしばし脱力して立ち尽くしていたが、やがて溜め息をついて、
『おまえはサトリみてぇだなぁ。心を読んでんのか』
と言った。
さやかは否定も肯定もせず、ただにっこりと笑って返した。
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