2012-03-28(Wed)
小説・さやか見参!(156)
町を監視している者達の存在に気付いてから、さやかと心太郎は一旦鳥飼を出る事にした。
藩の変貌に何者かが関わっているのであれば、策を練って偵察に望まねばなるまい。
さやかは心太郎に、金丸に戻り現状を報告するよう指示を出した。
そして自身は情報収集の為、周囲の藩に入り込む。
些細な事でもいい。
何か手掛かりが欲しい。
『行商に出た父を探しに鳥飼に入ったが、誰もが邪険で相手にしてくれない。鳥飼という藩は昔からそうなのか』
さやかはそう言って聞き込みを続けた。
しかし有力な情報はなかなか得られない。
そもそも鳥飼というのは他藩との外交が極端に少なかったようなのである。
藩内の事は余所に頼らずとも自給自足で事足りる。
と同時に交易出来るほどの産業物資もない。
であれば必然、暮らしは藩内で閉じたものになってしまう。
『商売しようにも鳥飼にゃあ何もねぇからなぁ』
さやかが話を聞いた商人の男はそう言った。
『様子が変わったかと訊かれても、わしらは昔の鳥飼も今の鳥飼も知らんもんで』
別の老人はそう言った。
『商売者は鳥飼にゃまず行かねぇよ。おとうを探すなら金丸に行く事をすすめるぜ』
さやかは寂しい気持ちになってきた。
確かに金丸は産業も資源も豊富だ。
交易するにはうってつけの藩だろう。
しかし、その土台を作ったのは他ならぬ鳥飼の藩主なのだ。
人柄にも才能にも恵まれている男が、たまたまこの藩を与えられたばかりに燻っている。
義理の弟であり、兄に心酔する金丸侯はこの現状を知っているのだろうか。
『鳥飼は、金丸の後ろ盾があるから成り立ってる藩よ』
村人のこの言葉を聞いて、さやかは心が折れた。
知りたい事は聞けず、耳に入るのは心をえぐる言葉ばかりだ。
さやかは聞き込みをやめる事にした。
視界に一軒の家が見える。
あそこで話を訊いたら少し心を休めよう。
戸を叩く。
のっそりとした動作で戸を開けたのは中年の男だった。
なんだか疲れきっている。
老けて見えるが、実年齢は見た目より若いだろう。
さやかが事情を話すと男の目の色が変わった。
『帰ってくれ!』
突然の豹変にさやかも驚きを隠せない。
『えっ?どうして』
『どうしてもこうしてもねぇ!鳥飼について話す事なんて何もねぇ!』
何やら鳥飼に因縁でもあるのだろうか。
それを尋ねようとした時、家の中から
『鳥飼?あなたは鳥飼から来られたのですか?』
という女性の声がした。
『馬鹿っ!おまえは出てくるんじゃねぇ!』
男が慌てて制する。
だが声の主は、止めようとする男の手をふりほどいてさやかの前に現われた。
長い黒髪、
大きな瞳にくっきりした睫毛、
白い肌に薄い唇、
それは年の頃なら十六、七の、
華奢で美しい娘だった。
藩の変貌に何者かが関わっているのであれば、策を練って偵察に望まねばなるまい。
さやかは心太郎に、金丸に戻り現状を報告するよう指示を出した。
そして自身は情報収集の為、周囲の藩に入り込む。
些細な事でもいい。
何か手掛かりが欲しい。
『行商に出た父を探しに鳥飼に入ったが、誰もが邪険で相手にしてくれない。鳥飼という藩は昔からそうなのか』
さやかはそう言って聞き込みを続けた。
しかし有力な情報はなかなか得られない。
そもそも鳥飼というのは他藩との外交が極端に少なかったようなのである。
藩内の事は余所に頼らずとも自給自足で事足りる。
と同時に交易出来るほどの産業物資もない。
であれば必然、暮らしは藩内で閉じたものになってしまう。
『商売しようにも鳥飼にゃあ何もねぇからなぁ』
さやかが話を聞いた商人の男はそう言った。
『様子が変わったかと訊かれても、わしらは昔の鳥飼も今の鳥飼も知らんもんで』
別の老人はそう言った。
『商売者は鳥飼にゃまず行かねぇよ。おとうを探すなら金丸に行く事をすすめるぜ』
さやかは寂しい気持ちになってきた。
確かに金丸は産業も資源も豊富だ。
交易するにはうってつけの藩だろう。
しかし、その土台を作ったのは他ならぬ鳥飼の藩主なのだ。
人柄にも才能にも恵まれている男が、たまたまこの藩を与えられたばかりに燻っている。
義理の弟であり、兄に心酔する金丸侯はこの現状を知っているのだろうか。
『鳥飼は、金丸の後ろ盾があるから成り立ってる藩よ』
村人のこの言葉を聞いて、さやかは心が折れた。
知りたい事は聞けず、耳に入るのは心をえぐる言葉ばかりだ。
さやかは聞き込みをやめる事にした。
視界に一軒の家が見える。
あそこで話を訊いたら少し心を休めよう。
戸を叩く。
のっそりとした動作で戸を開けたのは中年の男だった。
なんだか疲れきっている。
老けて見えるが、実年齢は見た目より若いだろう。
さやかが事情を話すと男の目の色が変わった。
『帰ってくれ!』
突然の豹変にさやかも驚きを隠せない。
『えっ?どうして』
『どうしてもこうしてもねぇ!鳥飼について話す事なんて何もねぇ!』
何やら鳥飼に因縁でもあるのだろうか。
それを尋ねようとした時、家の中から
『鳥飼?あなたは鳥飼から来られたのですか?』
という女性の声がした。
『馬鹿っ!おまえは出てくるんじゃねぇ!』
男が慌てて制する。
だが声の主は、止めようとする男の手をふりほどいてさやかの前に現われた。
長い黒髪、
大きな瞳にくっきりした睫毛、
白い肌に薄い唇、
それは年の頃なら十六、七の、
華奢で美しい娘だった。
スポンサーサイト