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2012-03-17(Sat)

小説・さやか見参!(153)

『ちょっとあんた、起きなさいよ』

さやかは気を失っている炎丸の脇腹を爪先で小突いた。

だが炎丸は目を覚まさない。

たかが水されど水、

空から降った莫大な量の水は、直撃した者に恐ろしい衝撃を与えたに違いなかった。

『起きないわね…』

さやかは溜め息をついた。

しかし何かひらめく所があったらしく、すぐに

『あ、そうだ!』

と嬉しそうな顔をした。

それからしばらく後…


寒さと痛さで目を覚ました炎丸は、己の置かれた境遇を認識するのにしばらく時間がかかった。

山吹さやかを苦しめ、村人を焼き殺さんとした非道の宝探し・炎丸は、

褌以外の装備を全て剥ぎ取られ、裸で縛り上げられていた。

おまけに水溜まりの中に放置されている。

こんな季節に裸で水に浸かっていたら寒いはずだ。

『いてっ!!』

炎丸は突然声をあげた。

冷えた身体に何かが勢いよくぶつかってきたのだ。

顔をあげた炎丸が見たものは…

そこらにある砂利を拾って、喜々として自分に投げつけている山吹さやかの姿だった。

よく見ると、たくさんの小石が水溜まりに沈んでいる。

気を失っている間、さやかはずっと自分に石をぶつけていたのだろう。

炎丸は、震えながらも大声を出した。

『こ、こむすめ』

だがその言葉は続かなかった。

さやかの投げた小石が顎に当たり舌を噛んでしまったからだ。

『あぐぅ』

炎丸は手足を縛られたまま水しぶきを上げてもがいた。

『小娘って言うな』

さやかは冷たい目で見下している。

『お、俺様の服を、は、は、剥いだのは、お、おまえかぁ』

『そうよ。あんたの着物や甲冑には色々仕掛けがあるみたいだから。全部没収させてもらったわ』

『こんな、き、季節に、服を剥いでみ、水に浸すなんて、え、えぐ過ぎるぜぇ』

『関係ない人達を、しかも子供達まで焼き殺そうとしたあんたの方がよっぽどえぐいわよ』

『な、生意気な、小娘だぜぇ…いたっ!』

さっきまでより少し大きめの石が炎丸の額を打った。

『今度言ったら歯へし折るわよ』

その言葉を聞いて、炎丸はますます身体を震わせた。

まだ幼さの残る目の前の少女に狂気を感じたからだ。

これが忍者というものなのか、

それともこの娘の特質か。

いずれにしても、たかだか宝探しが勝負を挑むには相手が悪かったのだと炎丸は後悔した。

『お、俺様を、ど、どうするつ、つもりだ』

震えながらようやく言葉を絞り出す。

『藩主の金丸公に突き出すわ。あんたお役人にも怪我させてるんでしょ?どんな刑罰が待ってるかしらね』

『そ、そのか、鏡は』

『もちろん藩主様に献上するわよ。この領地に眠ってたお宝ですもの』

さやかは当然のようにそう言ったが、それを聞いた炎丸は激しく動揺した。

『そ、それは、えら』

『選ばれし者に不思議な力を与えてくれる鏡、なんでしょ』

『な、なんで』

炎丸が何を言いたいのかさやかには分かる。

このタオの鏡はさやかを選び力を貸した。

これからも所持していれば不思議な力でさやかを助けてくれるはずである。

それなのに何故それを手放すのか、

そう言いたいのだ。

だがさやかには確信があった。

さやかが自分の力で必死に戦い、必死に村人を助けようとしたからこそタオの鏡は力を貸してくれたのだと。

ならばそれを所持し、鏡の力をあてにした時点で、タオの鏡はさやかを見放すだろうと。

さやかは炎丸に向かって

『あんたみたいな下衆には分からないわよ』

とだけ言った。

『けっ。なな、生意気な、こ、小娘だぜぇ』

思わず口を突いて出た言葉に気付き、炎丸の表情が凍り付く。

『あ』

慌ててすがるような視線を送ってみたが、

もう遅かった。

『あんた、また言ったわね…』

夕陽を背にしたさやかの表情は見えない。

それがまた恐怖を煽った。

『小娘小娘小娘…何度言っても小娘小娘小娘!』

『すみ、すみ、すみま』

もう言葉にならない。

『私はさやか!山吹さやかだぜぇ!』

夕闇に炎丸の悲鳴が響いた。


翌日、金丸藩主の下に、領地を騒がせ役人達に大火傷を負わせた犯人が引っ立てられた。

寒空の中、褌一枚でがたがた震える冴えない男は痣だらけで歯をへし折られ、無残な姿を晒している。

そして同時に、古より言い伝えられていた鏡も、藩主に届けられた。

『よもや本当にあるとはな』

男と鏡を手土産に突然現われた謎の二人組は手厚くもてなされ、藩主への接見を許されていた。

『二人とも、こたびはご苦労であった。私もこの鏡に力を貸してもらえるよう立派なまつりごとを為さねばな』

その言葉を聞いて、さやかと心太郎は深々と頭を下げる。

どうやら信頼に足る人柄のようだ。

『そうかしこまるな』

穏やかな声だ。

『不問からな』

突然不問の名が出たので二人は驚いて顔を上げた。

『聞いておったのだ。手練れを二人送るから何も心配は要らん、とな。その方ら、不問の評価に違わぬ腕前であるな』

そう言われ、さやかは何だか嬉しくなった。

不問は自分達をそこまで認めてくれていたのか、と思ったからだ。

だが、自分達は不問の掌の上にいたのだと思うと少し悔しい。

(まったく…)

さやかは呆れたような、自嘲のような笑みを浮かべた。

『今回の働きに免じ、その方らの願い、必ず叶えよう』

『本当ですか!?』

さやかが嬉しそうな声をあげた。

『やったっシュね!』

心太郎も嬉しそうだ。

『藩主様、ありがとうございます!』

二人は揃って額を畳みにこすりつけた。


こうして、さやかと心太郎の訴えは聞き入れられた。

炎丸に怪我をさせられた鉱夫達は藩の保護を受け、不自由な身体でも出来る仕事が与えられた。

また、炎丸に焼き尽くされた村は、公費をもって再建される事となったのである。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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