2012-02-24(Fri)
小説・さやか見参!(142)
不問の屋敷を出たさやかと心太郎は、帰るべき山吹の里とは反対の方向に向かって歩いていた。
これには理由がある。
『さやか殿、おいらはこれから金丸藩に向かうっシュ』
屋敷を出てすぐ、心太郎がこう言ってきたのだ。
『えっ?金丸藩って山吹の里とは反対方向じゃない。それにけっこう離れてるわよ?』
『夜になったら走るっシュから、そんなにかからないっシュよ』
それでも1日半はかかるだろう。
『さやか殿も来るっシュか?』
『一体何しに行くのよ』
『実はおいら、不問様から密命をいただいたっシュ』
心太郎は得意気だ。
『密命?』
『はいっシュ。実は金丸藩にはお宝が眠ってるって噂があって…』
『それ聞いた事あるわね。ただのお宝じゃない、とっても不思議なものが金丸藩にはあるらしいって。でも噂でしょ?それを探しに行くのが密命なの?あんた、不問様にからかわれたんじゃないの?』
『そうじゃないっシュよ。宝探しは忍びの本分ではないっシュ。実は…』
『なによ』
『そのお宝を探して、藩内を怪しい奴がウロウロしてるらしいっシュ』
『はぁ?なにそれ』
さやかは呆れた顔をした。
あるかないかも分からない宝を探す怪しい人物。
それを取り押さえようとでもいうのか。
わざわざ忍びが出張る必要があるとは思えなかった。
『そいつを捕まえに行こうってんじゃないわよね』
『捕まえるかどうか分からないけど、正体を掴むのがおいらの役目っシュ』
『ちなみに、相手は何人なの?』
『分かってるのは1人だけっシュ』
さやかは大きなため息をついた。
『そんなの、お役人に任せときなさいよ』
『だって怪しい奴っシュよ?』
『そもそも宝探しなんてみんな怪しい連中でしょ』
『お役人には無理なんシュよ』
『どうしてよ』
『その宝探し、炎を自在に操るらしいっシュ』
心太郎の答えが想像を超えていたので、さやかの思考が一瞬止まった。
『…えっ?』
『念じるだけで辺りが火の海になる、口から火を吐く、手足から炎を飛ばす、そんな奴、お役人にどうにか出来るっシュか?』
『出来…ないわね…でもそんな話信じられないわ』
『そいつを捕まえようとした金丸藩のお役人が何人も大火傷させられたらしいっシュよ』
『…』
なるほど。それで金丸から不問の所に相談があったという事か。
そのような妖しい術を使うならば並の人間では太刀打ち出来まい。
我ら忍者でなければ。
『分かった。私も行くわ』
『そう言ってくれると思ったっシュ!』
『でもあんた、これ、不問様からの密命でしょ?私にとはいえ、こんなぺらぺら喋って良かったの?』
『不問様が、さやか殿には話していいって。さやか殿ならきっと“自分も行く”って言い出すはずだからって』
お見通しか。
さやかは悔しそうに不問の屋敷を眺めて、
『不問の叔父様、本当に油断ならない男ね』
と呟いた。
こうして2人は山吹の里とは反対の方向へ歩き出したのである。
さやかは心太郎の後ろを歩きながら、ぼんやりと
(音駒との再会はまだまだ先になりそうだなぁ…)
と考えていた。
これには理由がある。
『さやか殿、おいらはこれから金丸藩に向かうっシュ』
屋敷を出てすぐ、心太郎がこう言ってきたのだ。
『えっ?金丸藩って山吹の里とは反対方向じゃない。それにけっこう離れてるわよ?』
『夜になったら走るっシュから、そんなにかからないっシュよ』
それでも1日半はかかるだろう。
『さやか殿も来るっシュか?』
『一体何しに行くのよ』
『実はおいら、不問様から密命をいただいたっシュ』
心太郎は得意気だ。
『密命?』
『はいっシュ。実は金丸藩にはお宝が眠ってるって噂があって…』
『それ聞いた事あるわね。ただのお宝じゃない、とっても不思議なものが金丸藩にはあるらしいって。でも噂でしょ?それを探しに行くのが密命なの?あんた、不問様にからかわれたんじゃないの?』
『そうじゃないっシュよ。宝探しは忍びの本分ではないっシュ。実は…』
『なによ』
『そのお宝を探して、藩内を怪しい奴がウロウロしてるらしいっシュ』
『はぁ?なにそれ』
さやかは呆れた顔をした。
あるかないかも分からない宝を探す怪しい人物。
それを取り押さえようとでもいうのか。
わざわざ忍びが出張る必要があるとは思えなかった。
『そいつを捕まえに行こうってんじゃないわよね』
『捕まえるかどうか分からないけど、正体を掴むのがおいらの役目っシュ』
『ちなみに、相手は何人なの?』
『分かってるのは1人だけっシュ』
さやかは大きなため息をついた。
『そんなの、お役人に任せときなさいよ』
『だって怪しい奴っシュよ?』
『そもそも宝探しなんてみんな怪しい連中でしょ』
『お役人には無理なんシュよ』
『どうしてよ』
『その宝探し、炎を自在に操るらしいっシュ』
心太郎の答えが想像を超えていたので、さやかの思考が一瞬止まった。
『…えっ?』
『念じるだけで辺りが火の海になる、口から火を吐く、手足から炎を飛ばす、そんな奴、お役人にどうにか出来るっシュか?』
『出来…ないわね…でもそんな話信じられないわ』
『そいつを捕まえようとした金丸藩のお役人が何人も大火傷させられたらしいっシュよ』
『…』
なるほど。それで金丸から不問の所に相談があったという事か。
そのような妖しい術を使うならば並の人間では太刀打ち出来まい。
我ら忍者でなければ。
『分かった。私も行くわ』
『そう言ってくれると思ったっシュ!』
『でもあんた、これ、不問様からの密命でしょ?私にとはいえ、こんなぺらぺら喋って良かったの?』
『不問様が、さやか殿には話していいって。さやか殿ならきっと“自分も行く”って言い出すはずだからって』
お見通しか。
さやかは悔しそうに不問の屋敷を眺めて、
『不問の叔父様、本当に油断ならない男ね』
と呟いた。
こうして2人は山吹の里とは反対の方向へ歩き出したのである。
さやかは心太郎の後ろを歩きながら、ぼんやりと
(音駒との再会はまだまだ先になりそうだなぁ…)
と考えていた。
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