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2012-02-13(Mon)

小説・さやか見参!(139)

断と封が一角の砦に戻ったのは、さやかが不問の屋敷に辿り着いた翌日だった。

血讐は開口一番

『遅かったではないか』

と言ったが、それもそのはず、二人は走る気力もなく、ただ黙って歩いてきたのだ。

残り3年の命を宣告された断、

子を産めぬ身体にされた封、

気が沈むのも当然である。

しかも二人には、血讐に対するわずかな不信感が生まれていた。

『そりゃあ遅くもなりますよ』

断が愛想なく呟く。

その視線は、血讐の後ろの血飛沫鬼と血塗呂に注がれていた。

『遅くなった上に戻ったのは俺達だけですよ。荊木の奥義も、ね。この通りです』

断は両の掌をひらひらさせて、手ぶらで戻った事を強調した。

『だらしない。せっかくの好機であったものを』

『そちらの二人のおかげでね、幻龍だけでなく山吹ともご対面でしたよ』

血飛沫鬼と血塗呂はにやにやと笑っている。

『血讐様』

封が口を開いた。

『あの場所に幻龍だけでなく山吹の娘までおびき出したのは何故です?』

『山吹がおらなんだら上手く事が運んだと?』

『そうは言いません。正直イバラキと邪衆院天空の力は想像以上…まともに戦っても勝てるかどうか…』

血飛沫鬼がけけけと笑った。

赤と白の兄弟は、断と封がどのように負けたのか、その一部始終を知っているのだ。

断が血飛沫鬼を睨む。

わざとらしく口を塞ぐ血飛沫鬼を見て血塗呂が笑った。

『まぁ裏で色々細工してくれんのはありがたいんですけどね』

断が足を投げ出して地面に座り込む。

『もっと上手いやり方があったんじゃないですかい?血讐様ともあろう名策士が』

そう皮肉られた隻眼の老忍者は、ふふふと笑って

『策と言うのはな、幾重にも絡めながら進めるのが肝心なのだ。
ただ敵を倒す、ただ奥義を奪う、というだけでは脆いもの。
焦ってはならん。
上手く絡み合った罠こそが、最終的には強靭な策となるのだ』

『と言う事は血讐様、荊木の奥義奪取と並行して何かを進めておられるのですか?』

『そういう事だな』

血讐は短く答えるっ断と封にくるりと背を向けた。

『断、封、しばらくは身体を休めておけ』

立ち去ろうとする。

『待って下さいよ』

挑むような口調で断が引き止めた。

『俺達だって血讐様の手足として命張ってんだ。何をやろうとしてんのか、少しは教えてくれたっていいじゃないですか』

それを聞いて血讐が肩越しにふふっと笑う。

血飛沫鬼、血塗呂もへらへらと笑った。

そして振り返った血讐は自分のこめかみを指差し、

『人の身体の中で、これから何をするか分かっておるのは脳だけだ。手足は何も知らぬ。脳に言われるまま動くのが手足の役目であろう』

『くっ!』

断の頭に血がのぼった。

相手が血讐でなければ斬りかかっていたかもしれない。

しかし血讐は涼しい顔で断に近寄り

『だがな、脳は脳だけでは何も出来んのだ。手足があり胴があり頭がある。そのおかげでようやく脳は役目を果たせるのだ』

と肩に手を乗せた。

そして中味のない慈愛の笑みを浮かべると、血飛沫鬼と血塗呂を引き連れて去って行った。

『断』

封が呼び掛ける。

窘めるような、心配しているような声だ。

『あぁ』

こちらも、『分かってる』とも『心配するな』ともつかない返事である。

それでもこの二人の間には通じるのだろう。

断は簡単に躱された怒りの矛先をどこにぶつけて良いか分からず、

『くっそ…まったく狡猾なじじいだぜ』

と毒づいた。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

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