2012-02-09(Thu)
小説・さやか見参!(137)
『さやか殿!』
心太郎の声が響いた。
さやかが目的地に着いたのは、音駒と別れた翌日の夜であった。
足を引きずりながら、傷の手当てをしながらだったので、存外に時間がかかってしまったのだ。
ここは山吹の分家である。
『どうしたっシュか!?その傷は!!』
心太郎が駆け寄ってくる。
その後を屋敷付きの忍び達がついて来る。
この屋敷の者達にとって、さやかは本家からの大切な客人なのだ。
『誰か、早く手当てをお願いっシュ!』
心太郎が金切り声をあげた。
近くにいた中年の忍びが素早くさやかの隣りにしゃがみ込む。
『かしこまりました。さやかお嬢様、こちらへ』
だがさやかはやんわりとその手を押し退けた。
『ありがとう。でも大丈夫。それよりも先に巻き物を不問の叔父様に』
不問。
この分家を取り仕切る男の名だ。
さやかの叔父である。
山吹では、長男である武双(さやかの父)が本家を継ぎ、次男の練武、三男の不問がそれぞれに分家を持っている。
本来、山吹が二つの分家を持つ事は珍しいのだとさやかは聞いていた。
山吹では、長男を後継、次男をその後見と定めていて、三男以降はそれに仕える忍び衆として扱われる。
後継には『武●』、後見には『●武』と、『武』の文字が付く名を与えられるが、三男より下には名前すらない。
※さやかの兄・たけるは『武尊』と書く
しかしながら、幼少の時期に長男次男に劣らぬ頭角を現した者だけは、名を与えられ、山吹の一員に迎えられるのだ。
これはなまなかならぬ事である。
山吹を担う者として英才教育を受ける長兄次兄に対し、下の者達は十把一絡に戦闘員としての修行を課せられる。
その中で特殊な才能を発揮出来る者などそうはいない。
山吹の歴史の中でも三男以降が名を残した例は少ないのだ。
先ほど、『山吹が二つの分家を持つ事は珍しい』と書いたのはそういう事である。
武双、練武の弟は、武術の腕はそこそこであったが、超人的な博識を身に付けていた。
忍びの世界の事にとどまらず、世間の些事から医学、はたまた天体の動きまで、誰に習うでもなく知っていた。
それらの知識を下敷きに編み出される理論は山吹のみならず十二組全てを発展させたと言っても過言ではない。
『天才、などと言う枠には収まらぬ男』
とは武双の弁である。
他人に問う事を必要とせぬ博識博学な三男は、十歳で『不問』と名付けられたのだ。
心太郎の声が響いた。
さやかが目的地に着いたのは、音駒と別れた翌日の夜であった。
足を引きずりながら、傷の手当てをしながらだったので、存外に時間がかかってしまったのだ。
ここは山吹の分家である。
『どうしたっシュか!?その傷は!!』
心太郎が駆け寄ってくる。
その後を屋敷付きの忍び達がついて来る。
この屋敷の者達にとって、さやかは本家からの大切な客人なのだ。
『誰か、早く手当てをお願いっシュ!』
心太郎が金切り声をあげた。
近くにいた中年の忍びが素早くさやかの隣りにしゃがみ込む。
『かしこまりました。さやかお嬢様、こちらへ』
だがさやかはやんわりとその手を押し退けた。
『ありがとう。でも大丈夫。それよりも先に巻き物を不問の叔父様に』
不問。
この分家を取り仕切る男の名だ。
さやかの叔父である。
山吹では、長男である武双(さやかの父)が本家を継ぎ、次男の練武、三男の不問がそれぞれに分家を持っている。
本来、山吹が二つの分家を持つ事は珍しいのだとさやかは聞いていた。
山吹では、長男を後継、次男をその後見と定めていて、三男以降はそれに仕える忍び衆として扱われる。
後継には『武●』、後見には『●武』と、『武』の文字が付く名を与えられるが、三男より下には名前すらない。
※さやかの兄・たけるは『武尊』と書く
しかしながら、幼少の時期に長男次男に劣らぬ頭角を現した者だけは、名を与えられ、山吹の一員に迎えられるのだ。
これはなまなかならぬ事である。
山吹を担う者として英才教育を受ける長兄次兄に対し、下の者達は十把一絡に戦闘員としての修行を課せられる。
その中で特殊な才能を発揮出来る者などそうはいない。
山吹の歴史の中でも三男以降が名を残した例は少ないのだ。
先ほど、『山吹が二つの分家を持つ事は珍しい』と書いたのはそういう事である。
武双、練武の弟は、武術の腕はそこそこであったが、超人的な博識を身に付けていた。
忍びの世界の事にとどまらず、世間の些事から医学、はたまた天体の動きまで、誰に習うでもなく知っていた。
それらの知識を下敷きに編み出される理論は山吹のみならず十二組全てを発展させたと言っても過言ではない。
『天才、などと言う枠には収まらぬ男』
とは武双の弁である。
他人に問う事を必要とせぬ博識博学な三男は、十歳で『不問』と名付けられたのだ。
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