2012-01-31(Tue)
小説・さやか見参!(133)
『山吹さやかさん、か』
音駒は荷物を片付けて
『さやかさん、改めてよろしく』
と言った。
『あの…』
さやかは音駒の挨拶には返さず
『本当に…助けてくれて、ありがとうございました』
と頭を下げた。
『ああ』
音駒は人懐こい笑顔を絶やさない。
『すみません、もっと遠くまで行けたら良かったんですが、いかんせん体力がないもので…』
『そんな…』
見るからに華奢なこの青年が、重い行李を背負い、動けないさやかを抱えるようにして走ったのである。
ここまで来れただけでも大したものだ。
さやかはもう一度頭を下げた。
『本当に、すみませんでした』
恐縮するさやかに音駒は大袈裟に手を振る。
『いやいや、こちらこそ申し訳ないです!
それにしても、あの青い人が追いかけて来なくて良かったですよ。絶対追いつかれると思って覚悟しましたから』
確かに、指1本の切断など致命傷にはなり得ない。
青装束がなぜ追跡を中断したのか、さやかにも分からなかった。
音駒は明るく
『何か奇跡でも起きたんですかね』
と笑った。
指を切断され刀を取り落とした下忍は、すぐさま刀を拾い指を回収し2人の後を追ったのだ。
だが、
突如現れた一角衆・血飛沫鬼、血塗呂によって首を撥ねられ絶命した事をさやかと音駒は知らない。
何故に血飛沫鬼と血塗呂はさやかを助けるような事をしたのか。
今は謎である。
『音駒さんはどうしてあの林に?どこかに行こうとしてたんじゃないの?』
昨夜聞いた話では、林の向こうに治療に出向くのだと言っていた。
今日もそこへ向かっていたのだろう。
音駒の説明はやはり昨晩聞いた通りであった。
ならばさやかは治療の邪魔をしてしまった事になる。
林の向こうには音駒を待つ病人がいるというのに。
『その人にもしもの事があったら…私どうしよう…』
さやかは申し訳ない気持ちで泣きそうになった。
『気にしないで下さい。薬は数日分渡してますし、すぐに症状が悪化するワケじゃないと思いますから。
それにあんな連中がいたんじゃどうせ林は抜けられなかった。
夜が明けたら林を迂回して行きますよ』
すでに陽が暮れている。
赤みも青みも消えた空に、林の樹々が作る巨大な影も飲み込まれている。
『とにかく今日は休みましょう。ちょっと離れた所に空いてる小屋がありましたから、今晩はそこを借りる事にしましょう。ちょっとだけ我慢して下さいね』
音駒はさやかの左腕を担ぐようにしてゆっくりと立たせた。
身体が痛む。
しかし呻き声をあげるわけにはいかない。
これ以上音駒に心配をかけたくない。
『身体が痛むでしょうから、ゆっくりでいいですからね。無理せずに少しずつ進みましょうね』
冷静になると夜風の冷たさを感じる。
自分の身体が冷えきっている事を実感する。
それを実感すればするほど、自分を支える音駒の温かさを感じた。
何となく気恥ずかしくなって、さやかは音駒の顔をちらと見た。
視線を感じたのか、音駒は急に、
『あ、あぁ、心配しなくても大丈夫ですよ!僕は納屋かどこかで寝ますから!ほ、本当にご心配なく!!』
と早口で言った。
強いのか弱いのか、豪胆なのか繊細なのかさっぱり分からない。
面白い人だな、と、
さやかは笑った。
音駒は荷物を片付けて
『さやかさん、改めてよろしく』
と言った。
『あの…』
さやかは音駒の挨拶には返さず
『本当に…助けてくれて、ありがとうございました』
と頭を下げた。
『ああ』
音駒は人懐こい笑顔を絶やさない。
『すみません、もっと遠くまで行けたら良かったんですが、いかんせん体力がないもので…』
『そんな…』
見るからに華奢なこの青年が、重い行李を背負い、動けないさやかを抱えるようにして走ったのである。
ここまで来れただけでも大したものだ。
さやかはもう一度頭を下げた。
『本当に、すみませんでした』
恐縮するさやかに音駒は大袈裟に手を振る。
『いやいや、こちらこそ申し訳ないです!
それにしても、あの青い人が追いかけて来なくて良かったですよ。絶対追いつかれると思って覚悟しましたから』
確かに、指1本の切断など致命傷にはなり得ない。
青装束がなぜ追跡を中断したのか、さやかにも分からなかった。
音駒は明るく
『何か奇跡でも起きたんですかね』
と笑った。
指を切断され刀を取り落とした下忍は、すぐさま刀を拾い指を回収し2人の後を追ったのだ。
だが、
突如現れた一角衆・血飛沫鬼、血塗呂によって首を撥ねられ絶命した事をさやかと音駒は知らない。
何故に血飛沫鬼と血塗呂はさやかを助けるような事をしたのか。
今は謎である。
『音駒さんはどうしてあの林に?どこかに行こうとしてたんじゃないの?』
昨夜聞いた話では、林の向こうに治療に出向くのだと言っていた。
今日もそこへ向かっていたのだろう。
音駒の説明はやはり昨晩聞いた通りであった。
ならばさやかは治療の邪魔をしてしまった事になる。
林の向こうには音駒を待つ病人がいるというのに。
『その人にもしもの事があったら…私どうしよう…』
さやかは申し訳ない気持ちで泣きそうになった。
『気にしないで下さい。薬は数日分渡してますし、すぐに症状が悪化するワケじゃないと思いますから。
それにあんな連中がいたんじゃどうせ林は抜けられなかった。
夜が明けたら林を迂回して行きますよ』
すでに陽が暮れている。
赤みも青みも消えた空に、林の樹々が作る巨大な影も飲み込まれている。
『とにかく今日は休みましょう。ちょっと離れた所に空いてる小屋がありましたから、今晩はそこを借りる事にしましょう。ちょっとだけ我慢して下さいね』
音駒はさやかの左腕を担ぐようにしてゆっくりと立たせた。
身体が痛む。
しかし呻き声をあげるわけにはいかない。
これ以上音駒に心配をかけたくない。
『身体が痛むでしょうから、ゆっくりでいいですからね。無理せずに少しずつ進みましょうね』
冷静になると夜風の冷たさを感じる。
自分の身体が冷えきっている事を実感する。
それを実感すればするほど、自分を支える音駒の温かさを感じた。
何となく気恥ずかしくなって、さやかは音駒の顔をちらと見た。
視線を感じたのか、音駒は急に、
『あ、あぁ、心配しなくても大丈夫ですよ!僕は納屋かどこかで寝ますから!ほ、本当にご心配なく!!』
と早口で言った。
強いのか弱いのか、豪胆なのか繊細なのかさっぱり分からない。
面白い人だな、と、
さやかは笑った。
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