2012-01-28(Sat)
小説・さやか見参!(130)
幻龍イバラキと邪衆院天空は連れ立って林の中を歩いていた。
仮面に隠されたイバラキの表情は分からぬが、邪衆院はといえば激しい戦いの直後とも思えぬ涼やかな顔をしている。
『山吹の巻き物は』
邪衆院が口を開いた。
『うむ』
それだけで全てを察したようにイバラキが頷く。
『おそらく奪い損なってるでしょうね』
『で、あろうな』
『やっぱりあの連中だけじゃ荷が重かったかなぁ…』
独り言のように呟いてため息をつく。
『すでに命はあるまいな』
『やっぱりですか』
邪衆院は拗ねたような顔をした。
そして真顔になり、
『手負いのさやかにも勝てぬとは…武術師範たるこの邪衆院の責任にございます』
と詫びた。
『ある程度の技術は皆に習得させているのですが…』
『気に病むな』
イバラキはゆるりと歩きながら答える。
『知ると得るは別物だ。おぬしに学んだ技術を使いこなせぬは奴等の怠慢ゆえよ』
『…』
『まだ1人では使えぬから組ませて動かす。すると人数に甘えて本気を出さぬようになる。死ぬ気で挑まぬ下忍が敵に勝てぬは必定』
邪衆院は黙ってきいている。
『必ずや己の力で道を切り開こうという気概がなければ、いかな技術を学ぼうと勝つ事は出来ん』
『…』
『独り生きてきたおぬしには分かっておるはず』
『それは、まぁ』
邪衆院は頭を掻いた。
幻龍の下忍達の甘さには邪衆院も気付いていたのである。
『幻龍イバラキという希代の忍びに率いられている彼らには、自分達が死線に立っているという自覚がありません。
幻龍組だから強いはず、イバラキ様がいるから負けないはず、そんな幻想を抱いているように思えます』
『いかにも。戦うのはあくまでも自分という“個”だと気付かねば、下忍連中など戦力にはならん。まだまだ奴等は使い捨ての駒よ』
足元に下忍の死体が転がっている。
ふたつは山吹のクナイで、ひとつは自分達の手裏剣で喉を貫かれていた。
だがイバラキも邪衆院も気にする様子はない。
ただゆるゆると歩いている。
『頭領自らその辺りを示唆してあげればいいのに』
『ふん。己の道は自分自身で見つけるしかない。弱ければなおさらだ。それが出来ぬような者は他人の駒となって死ぬほかないのだ』
『やっぱり厳しいなぁ。ま、俺もその意見に賛成ですけど』
そう言うと邪衆院は立ち止まった。
イバラキは先に立ち止まっている。
邪衆院は足元を見ながら、
『あぁ、これは山吹の仕業じゃないですね』
と明るい声で言った。
さやかを追った最後の下忍が、首を撥ねられて2人の足元に転がっていたのだ。
『これは一角衆だな。ふっ。あの紅白のガキどもだ』
イバラキは宣戦布告するようににやりと笑って天を見上げた。
どこかで微かに、不敵な笑い声が聞こえたような気がした。
仮面に隠されたイバラキの表情は分からぬが、邪衆院はといえば激しい戦いの直後とも思えぬ涼やかな顔をしている。
『山吹の巻き物は』
邪衆院が口を開いた。
『うむ』
それだけで全てを察したようにイバラキが頷く。
『おそらく奪い損なってるでしょうね』
『で、あろうな』
『やっぱりあの連中だけじゃ荷が重かったかなぁ…』
独り言のように呟いてため息をつく。
『すでに命はあるまいな』
『やっぱりですか』
邪衆院は拗ねたような顔をした。
そして真顔になり、
『手負いのさやかにも勝てぬとは…武術師範たるこの邪衆院の責任にございます』
と詫びた。
『ある程度の技術は皆に習得させているのですが…』
『気に病むな』
イバラキはゆるりと歩きながら答える。
『知ると得るは別物だ。おぬしに学んだ技術を使いこなせぬは奴等の怠慢ゆえよ』
『…』
『まだ1人では使えぬから組ませて動かす。すると人数に甘えて本気を出さぬようになる。死ぬ気で挑まぬ下忍が敵に勝てぬは必定』
邪衆院は黙ってきいている。
『必ずや己の力で道を切り開こうという気概がなければ、いかな技術を学ぼうと勝つ事は出来ん』
『…』
『独り生きてきたおぬしには分かっておるはず』
『それは、まぁ』
邪衆院は頭を掻いた。
幻龍の下忍達の甘さには邪衆院も気付いていたのである。
『幻龍イバラキという希代の忍びに率いられている彼らには、自分達が死線に立っているという自覚がありません。
幻龍組だから強いはず、イバラキ様がいるから負けないはず、そんな幻想を抱いているように思えます』
『いかにも。戦うのはあくまでも自分という“個”だと気付かねば、下忍連中など戦力にはならん。まだまだ奴等は使い捨ての駒よ』
足元に下忍の死体が転がっている。
ふたつは山吹のクナイで、ひとつは自分達の手裏剣で喉を貫かれていた。
だがイバラキも邪衆院も気にする様子はない。
ただゆるゆると歩いている。
『頭領自らその辺りを示唆してあげればいいのに』
『ふん。己の道は自分自身で見つけるしかない。弱ければなおさらだ。それが出来ぬような者は他人の駒となって死ぬほかないのだ』
『やっぱり厳しいなぁ。ま、俺もその意見に賛成ですけど』
そう言うと邪衆院は立ち止まった。
イバラキは先に立ち止まっている。
邪衆院は足元を見ながら、
『あぁ、これは山吹の仕業じゃないですね』
と明るい声で言った。
さやかを追った最後の下忍が、首を撥ねられて2人の足元に転がっていたのだ。
『これは一角衆だな。ふっ。あの紅白のガキどもだ』
イバラキは宣戦布告するようににやりと笑って天を見上げた。
どこかで微かに、不敵な笑い声が聞こえたような気がした。
スポンサーサイト