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2012-01-25(Wed)

小説・さやか見参!(129)

断と封が身体の自由を取り戻したのは、背中から針を抜かれ、ほどなく経ってからだった。

もちろんイバラキと邪衆院の姿はとっくに消えている。

『くそっ!』

断は先ほど自分達が斬り落とした一角衆下忍の首を蹴り飛ばした。

飛んだ首は積み上げられた屍の山にぶつかって転がった。

『俺が3年で死ぬだって?へっ、冗談じゃねぇ!そんな先の事が分かってたまるかよ!』

語気を荒げる断に封がつぶやく。

『断、声がうわずってるわよ』

『あぁっ!?』

断が振り返ると、封は針を打たれた下腹部に手を当て、ぼんやりと虚空を見つめていた。

『…おふう…』

『人体の気脈について学んだ時、聞いた事あるでしょ。あるツボを打たれた者は3年後に突然命を落とすって』

『そ…そりゃあ知ってるさ。でもよ、これまで目の当たりにした事ぁねぇ。ホントに効くかどうか分かんねぇよ』

『でも場所は合ってた』

断は言葉を飲み込んだ。

『あんたが打たれた場所、私達が教えてもらったのと同じ所だった。体内を流れる血液の浄化機能が徐々に衰え、3年後に限界を迎えて死に至る』

『場所が分かってたって簡単に出来るもんじゃねぇさ。老師が言ってたろ。実際に効かせるのは至難の業だって』

『でも、イバラキなら出来る』

断は再び言葉を飲み込んだ。

『イバラキの腕前は分かってるはずよ。まぁもちろんきっかり3年後じゃないだろうけど』

『うっ…』

『だからあんたは、おおよそ3年以内に死ぬ』

『おふう』

『そして私の…私の一族の血は絶えた』

封は手を当てている下腹部を見た。

『おふう、おまえ、その歳でまだガキぃ作る気だったのかよ』

『そうよ。次こそは息子を産んで、一族の血を継がせようと思ってたもの。娘は…長くは生きれないだろうしね』

『あのエロじじぃに囲われちまったら死んだも同然だからな』

封が冷たい目で断を見る。

『おっといけねぇ、おまえの娘の話だったな。悪い。何にしても、おまえだって試してみなきゃ分からないさ。これからバンバン励んでみろよ、子作りに』

『下衆』

封は冷たく切り捨てた。

だが、断なりに封を励ましているのだと気付いてもいた。

『まぁ子作りの前によ、この死体の山を片付けなきゃなんねぇんだけどさ』

断が大袈裟にため息を突いた。

突然の余命宣告に激しく動揺しているはずだが、それを悟られないよう振る舞っている。

『ねぇ断』

『ん?』

『多分イバラキは、私達が何を大切にしてるか知ってたのよ。あんたは自分の命。私は次の命。その希望を奪う為にこんな事をしたんだわ』

『なるほどな。俺達一角衆も奴から大切なものを奪い続けてきたからな。報いって事か』

封は黙っている。

『俺達は奪い奪われる世界に生きてるんだ。恨んだって恨まれたって上等よ』

断は自分に言い聞かせているのだと封は思った。

未来への絶望を、恐怖を、怒りと恨みに変える事で乗り越えようとしているのだ。

幻龍イバラキのように。

死体の山に向かいながら断は言った。

『イバラキは俺が必ずぶっ殺してやる』
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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