2012-01-22(Sun)
小説・さやか見参!(128)
断と封は恐怖に囚われていた。
身体が硬直して動かない。
気付かぬ内に背面の経絡に3本の針を突き立てられ動きを封じられた。
一角衆では手練れと言われる自分達が、だ。
背後には、2人の動きを封じた張本人、幻龍イバラキが立っている。
振り向く事は出来ないが、かなりの至近距離にいる事は分かる。
イバラキは、さも楽しくてたまらないといった感じに笑いを漏らしていた。
今、自分達は身動きも出来ぬまま、この恐るべき敵の掌にいるのだ。
視界の端には白い塊が見えている。
一角衆の忍び達の屍の山だ。
この山をいとも簡単に、しかもたった1人で築いた男、邪衆院天空。
その男は目の前に立っている。
数え切れぬ戦いの中で、断と封が手を組んで負けた事は今までたった2回しかない。
最初の敵はこの邪衆院天空だった。
屈辱的な惨敗だった。
手も足も出ないまま逃げ帰るしかなかった。
そして2回目は、いま。
幻龍イバラキに背後を取られ動きを封じられた今の戦いだ。
自分達2人を簡単に倒した相手が揃っている。
完全に勝ち目はない。
断は口を開いた。
『い…、こ…』
言葉が出ない。
イバラキがゆっくりと視界に入ってきた。
『いっそ殺せと言いたいのか?』
口元は笑っている。
しかし仮面の下の瞳には、めらめらと憎悪の炎が燃えているようだった。
『もちろん殺す』
イバラキの両手に長い針が光る。
『だが今すぐではない』
そう言うとイバラキは、断の左右の脇腹辺りに針を深く刺した。
『ぐっ、うっ』
断が唸った。
悲鳴を上げようにも声が出ない。
身をよじろうにも身体が動かない。
『これでおぬしは3年後に死ぬ。おののきながら生きるがいい』
針を引き抜き放り捨てる。
『相変わらず残酷だなぁ』
と邪衆院が笑顔のまま眉をひそめた。
イバラキは封の前に進む。
そして、しばらく封の顔を見てから
『子を産んで弱くなったのではないか?』
と笑った。
その言葉に封は驚愕した。
確かに封は十年ほど前に出産していた。
しかしそれを知っているのは一角衆でもほんの一部だけなのだ。
『確か娘だったな。血讐の血を継がぬ子は一角衆では珍しかろう』
父親の事まで知れている。
この男はどこまで自分達の事を調べ上げているのか。
『だが血を継がぬとあらば』
イバラキは封の顔をのぞき込む。
『娘は血讐の慰みものか。まだ年端もいかぬのにな』
一角衆幹部・血讐は、女をたらしこむ事でくのいちに育て上げるのだ。
『一角衆も因果なもの。母としても辛かろう』
イバラキが羽織の内側から長い針を取り出した。
『子を持てば感情が生まれる、感情を持った忍びは弱くなる』
封は近付いてくるイバラキの顔を見た。
鉄仮面の下のイバラキの眼は、ぞっとする冷たさを放っていた。
『封、二度と子が持てぬようにしてやろう』
イバラキの針は、封の下腹部に吸い込まれた。
身体が硬直して動かない。
気付かぬ内に背面の経絡に3本の針を突き立てられ動きを封じられた。
一角衆では手練れと言われる自分達が、だ。
背後には、2人の動きを封じた張本人、幻龍イバラキが立っている。
振り向く事は出来ないが、かなりの至近距離にいる事は分かる。
イバラキは、さも楽しくてたまらないといった感じに笑いを漏らしていた。
今、自分達は身動きも出来ぬまま、この恐るべき敵の掌にいるのだ。
視界の端には白い塊が見えている。
一角衆の忍び達の屍の山だ。
この山をいとも簡単に、しかもたった1人で築いた男、邪衆院天空。
その男は目の前に立っている。
数え切れぬ戦いの中で、断と封が手を組んで負けた事は今までたった2回しかない。
最初の敵はこの邪衆院天空だった。
屈辱的な惨敗だった。
手も足も出ないまま逃げ帰るしかなかった。
そして2回目は、いま。
幻龍イバラキに背後を取られ動きを封じられた今の戦いだ。
自分達2人を簡単に倒した相手が揃っている。
完全に勝ち目はない。
断は口を開いた。
『い…、こ…』
言葉が出ない。
イバラキがゆっくりと視界に入ってきた。
『いっそ殺せと言いたいのか?』
口元は笑っている。
しかし仮面の下の瞳には、めらめらと憎悪の炎が燃えているようだった。
『もちろん殺す』
イバラキの両手に長い針が光る。
『だが今すぐではない』
そう言うとイバラキは、断の左右の脇腹辺りに針を深く刺した。
『ぐっ、うっ』
断が唸った。
悲鳴を上げようにも声が出ない。
身をよじろうにも身体が動かない。
『これでおぬしは3年後に死ぬ。おののきながら生きるがいい』
針を引き抜き放り捨てる。
『相変わらず残酷だなぁ』
と邪衆院が笑顔のまま眉をひそめた。
イバラキは封の前に進む。
そして、しばらく封の顔を見てから
『子を産んで弱くなったのではないか?』
と笑った。
その言葉に封は驚愕した。
確かに封は十年ほど前に出産していた。
しかしそれを知っているのは一角衆でもほんの一部だけなのだ。
『確か娘だったな。血讐の血を継がぬ子は一角衆では珍しかろう』
父親の事まで知れている。
この男はどこまで自分達の事を調べ上げているのか。
『だが血を継がぬとあらば』
イバラキは封の顔をのぞき込む。
『娘は血讐の慰みものか。まだ年端もいかぬのにな』
一角衆幹部・血讐は、女をたらしこむ事でくのいちに育て上げるのだ。
『一角衆も因果なもの。母としても辛かろう』
イバラキが羽織の内側から長い針を取り出した。
『子を持てば感情が生まれる、感情を持った忍びは弱くなる』
封は近付いてくるイバラキの顔を見た。
鉄仮面の下のイバラキの眼は、ぞっとする冷たさを放っていた。
『封、二度と子が持てぬようにしてやろう』
イバラキの針は、封の下腹部に吸い込まれた。
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