2012-01-18(Wed)
小説・さやか見参!(127)
(とにかく音駒を守るしかない)
さやかは重い身体を引きずるように走った。
左右の手にクナイを握る。
刀はイバラキとの戦いで失ってしまった。
『伏せて!!』
さやかは叫んだ。
しかし、突然現れた奇異な頭巾姿の、しかも傷だらけの少女の声に音駒はただ驚くばかりだった。
『…えっ…!?…あっ…!?』
さやかは音駒の前に立ちふさがり、飛んで来る手裏剣をクナイで払った。
鈍い金属音が樹々の中に響く。
しかし、いかに山吹さやかとはいえ、傷ついた身体で、しかも短いクナイでは分が悪い。
『うぐっ』
低い呻きで音駒は我に返った。
いつの間にか目を閉じていた事に気付き、ゆっくと瞼を開いてみる。
目の前には、桜色の小さな背中があった。
先ほど駆けてきた少女か。
誰なのか、何が起きたのか、音駒には全く分からない。
『あの…』
事情を聞こうと音駒は少女の前方に回り込んだ。
『一体…』
そして音駒は息を飲んだ。
少女の右肩と左腿に十字の手裏剣が突き刺さっていたのだ。
『ちょっ…!そ…』
動転している音駒をさやかはぐいと自分の後ろに下げて、
『危ないから下がってて』
と言った。
声に力がない。
よく見ると桜色の頭巾も装束も血で染められている。
さやかは両手のクナイを打った。
いつもなら急所を狙う事をしないさやかだが、今回は手加減する余裕がない。
2本のクナイはさやかに向かって来ていた2人の青装束の喉元に突き刺さった。
制御を失った青い塊は、速度を落とさぬまま地面に激突し、何度か転がって動かなくなった。
さやかの肩越しにその光景を見た音駒は唇を震わせた。
医学に携わる者として何度も人の生き死にに立ち会ってきた音駒だが、これほど凄惨な光景を目の当たりにした事はない。
これまで音駒が看取ってきたのは病で命を落としてきた者がほとんどで、争いの結果死んだ者など皆無だったのだ。
ましてや、
命のやり取りの中にいるのは年端もいかぬ少女であり、その少女の手によって2つの命が奪われたのである。
音駒はさやかの後ろ姿を見た。
だがさやかには音駒を気遣う余裕などない。
肩に深く突き刺さった手裏剣を引き抜くと、絶叫に似た声を上げながら追手にそれを放った。
音駒は思わず目を伏せる。
血の糸を引きながら飛んだ手裏剣はやはり見事に3人目の喉をえぐり、その身体は先の2人と同じ様に地面に叩き付けられた。
残る追っ手は1人。
さやかは太腿から引き抜いた手裏剣を打った。
(しまった!)
さやかは舌打ちした。
弱った身体で、しかも痛みを堪えて放ったせいで、手裏剣の軌道が僅かにずれたのだ。
これでは相手を一撃で仕留める事は出来ない。
この攻撃を躱されては、次の手を打つ力はもう残っていないのだ。
だが奇跡が起きた。
神仏の加護とでも言うべきか。
手元が狂ったおかげで手裏剣は予想外の動きを見せた。
刀で払おうとしていた下忍の手前で急激な弧を描き、その右手の親指を切断したのである。
柄を支えていた親指を失った事で、勢い良く振られる途中だった刀は宙に飛んだ。
それを見た音駒は思わず、
『今のうちに!』
とさやかの身体を掴んで走り出していた。
さやかは重い身体を引きずるように走った。
左右の手にクナイを握る。
刀はイバラキとの戦いで失ってしまった。
『伏せて!!』
さやかは叫んだ。
しかし、突然現れた奇異な頭巾姿の、しかも傷だらけの少女の声に音駒はただ驚くばかりだった。
『…えっ…!?…あっ…!?』
さやかは音駒の前に立ちふさがり、飛んで来る手裏剣をクナイで払った。
鈍い金属音が樹々の中に響く。
しかし、いかに山吹さやかとはいえ、傷ついた身体で、しかも短いクナイでは分が悪い。
『うぐっ』
低い呻きで音駒は我に返った。
いつの間にか目を閉じていた事に気付き、ゆっくと瞼を開いてみる。
目の前には、桜色の小さな背中があった。
先ほど駆けてきた少女か。
誰なのか、何が起きたのか、音駒には全く分からない。
『あの…』
事情を聞こうと音駒は少女の前方に回り込んだ。
『一体…』
そして音駒は息を飲んだ。
少女の右肩と左腿に十字の手裏剣が突き刺さっていたのだ。
『ちょっ…!そ…』
動転している音駒をさやかはぐいと自分の後ろに下げて、
『危ないから下がってて』
と言った。
声に力がない。
よく見ると桜色の頭巾も装束も血で染められている。
さやかは両手のクナイを打った。
いつもなら急所を狙う事をしないさやかだが、今回は手加減する余裕がない。
2本のクナイはさやかに向かって来ていた2人の青装束の喉元に突き刺さった。
制御を失った青い塊は、速度を落とさぬまま地面に激突し、何度か転がって動かなくなった。
さやかの肩越しにその光景を見た音駒は唇を震わせた。
医学に携わる者として何度も人の生き死にに立ち会ってきた音駒だが、これほど凄惨な光景を目の当たりにした事はない。
これまで音駒が看取ってきたのは病で命を落としてきた者がほとんどで、争いの結果死んだ者など皆無だったのだ。
ましてや、
命のやり取りの中にいるのは年端もいかぬ少女であり、その少女の手によって2つの命が奪われたのである。
音駒はさやかの後ろ姿を見た。
だがさやかには音駒を気遣う余裕などない。
肩に深く突き刺さった手裏剣を引き抜くと、絶叫に似た声を上げながら追手にそれを放った。
音駒は思わず目を伏せる。
血の糸を引きながら飛んだ手裏剣はやはり見事に3人目の喉をえぐり、その身体は先の2人と同じ様に地面に叩き付けられた。
残る追っ手は1人。
さやかは太腿から引き抜いた手裏剣を打った。
(しまった!)
さやかは舌打ちした。
弱った身体で、しかも痛みを堪えて放ったせいで、手裏剣の軌道が僅かにずれたのだ。
これでは相手を一撃で仕留める事は出来ない。
この攻撃を躱されては、次の手を打つ力はもう残っていないのだ。
だが奇跡が起きた。
神仏の加護とでも言うべきか。
手元が狂ったおかげで手裏剣は予想外の動きを見せた。
刀で払おうとしていた下忍の手前で急激な弧を描き、その右手の親指を切断したのである。
柄を支えていた親指を失った事で、勢い良く振られる途中だった刀は宙に飛んだ。
それを見た音駒は思わず、
『今のうちに!』
とさやかの身体を掴んで走り出していた。
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