2011-12-26(Mon)
小説・さやか見参!(124)
イバラキが断と封に向かって進むのと同時に、青装束の下忍達が姿を消した。
もちろん気を失っているさやかも一緒に、である。
この場は頭領に任せ、山吹の巻き物を奪い取る算段なのだろう。
下忍が消えたのを見て、断が舌打ちする。
『断、いいじゃないの。山吹はオマケでしょ。私達の目的は荊木の奥義よ』
『はいはい。分かってるよ』
『あんたはあっちもこっちも狙い過ぎなのよ』
『うっせぇな』
まるで痴話喧嘩のようなやり取りにイバラキも笑みを浮かべた。
『集中力が欠けては忍びは務まらんぞ』
そう言われて断は不満気な表情を封に向ける。
『ほら見ろ。おふうが余計な事を言うせいで敵にまで笑われちまった』
その言葉は終わった瞬間、断の姿が消えていた。
いや、いつの間にかイバラキの背後に回り込んでいた。
よく見ると断の手には大きな針のような物が握られており、それはイバラキの左の肩甲骨の下辺りに深々と突き刺さっている。
どさり。
積もった枯れ葉の中に何かが落ちた。
それは、
刎ね飛ばされたイバラキの首であった。
前方では封が刀を払った姿勢で止まっていた。
瞬間の連携技である。
長年組んできた二人だからこその阿吽の呼吸と言えよう。
しかし本人達には連携の意識はないようである。
『はっ、俺の一撃で終わっちまった』
そう言いながら断が針を抜く。
首を失った身体が断の足元に崩れ落ちた。
『たわいもないぜ』
『ちょっと』
封が刀に付いた血を拭った。
『あんたが刺す前に首は飛んでたでしょ』
封は刀を背に回し、革製の鞘に納めた。
『殺ったのは私よ』
『馬鹿言え。俺の針で動きが止まってから斬っただろ。手柄を横取りすんじゃねぇよ』
相変わらず痴話喧嘩のような二人のやり取りに、明るい声が割り込んだ。
『面白いなぁ』
断と封が振り向くと、白い小山に邪衆院が腰掛けていた。
笑顔である。
『お、おまえ』
断の声がうわずった。
邪衆院の台座となっているのは一角衆配下の屍の山だったからだ。
『面白い』
再び邪衆院が声を上げた。
『面白いなぁ、一角衆は』
屍の山からひらりと降りる。
あれほどの数の白装束が、わずかな間に命を奪われ積み上げられている。
イバラキを仕留めている最中だったとはいえ、自分達はその気配も感じなかったのだ。
そして死体の山を築き上げた張本人は、疲れも見せず、返り血も浴びず、ただにこにこと笑っている。
断と封が二、三歩下がった。
『手柄争いなんかしてるけど』
邪衆院が歩いてくる。
二人が下がる。
『仲間の首が手柄になるんだねぇ、一角衆って』
『えっ?』
邪衆院の言葉に二人は足を止めてぎょっとした。
視界の隅にあるイバラキの亡骸が、
先ほどまで確かに黒い装束をまとっていたハズの首のない死体が、
いつの間にか、“血に染まった白い装束”をまとっていたからだ。
あれは紛れも無く一角衆の装束である。
という事は…
断はイバラキの首を探そうとして硬直した。
身体が動かない。
視界の端で封も固まっている。
まさか
背後から声がする。
『背面の経絡三点を刺してある。動く事は出来ぬぞ』
それは笑いを噛み殺した幻龍イバラキの声であった。
もちろん気を失っているさやかも一緒に、である。
この場は頭領に任せ、山吹の巻き物を奪い取る算段なのだろう。
下忍が消えたのを見て、断が舌打ちする。
『断、いいじゃないの。山吹はオマケでしょ。私達の目的は荊木の奥義よ』
『はいはい。分かってるよ』
『あんたはあっちもこっちも狙い過ぎなのよ』
『うっせぇな』
まるで痴話喧嘩のようなやり取りにイバラキも笑みを浮かべた。
『集中力が欠けては忍びは務まらんぞ』
そう言われて断は不満気な表情を封に向ける。
『ほら見ろ。おふうが余計な事を言うせいで敵にまで笑われちまった』
その言葉は終わった瞬間、断の姿が消えていた。
いや、いつの間にかイバラキの背後に回り込んでいた。
よく見ると断の手には大きな針のような物が握られており、それはイバラキの左の肩甲骨の下辺りに深々と突き刺さっている。
どさり。
積もった枯れ葉の中に何かが落ちた。
それは、
刎ね飛ばされたイバラキの首であった。
前方では封が刀を払った姿勢で止まっていた。
瞬間の連携技である。
長年組んできた二人だからこその阿吽の呼吸と言えよう。
しかし本人達には連携の意識はないようである。
『はっ、俺の一撃で終わっちまった』
そう言いながら断が針を抜く。
首を失った身体が断の足元に崩れ落ちた。
『たわいもないぜ』
『ちょっと』
封が刀に付いた血を拭った。
『あんたが刺す前に首は飛んでたでしょ』
封は刀を背に回し、革製の鞘に納めた。
『殺ったのは私よ』
『馬鹿言え。俺の針で動きが止まってから斬っただろ。手柄を横取りすんじゃねぇよ』
相変わらず痴話喧嘩のような二人のやり取りに、明るい声が割り込んだ。
『面白いなぁ』
断と封が振り向くと、白い小山に邪衆院が腰掛けていた。
笑顔である。
『お、おまえ』
断の声がうわずった。
邪衆院の台座となっているのは一角衆配下の屍の山だったからだ。
『面白い』
再び邪衆院が声を上げた。
『面白いなぁ、一角衆は』
屍の山からひらりと降りる。
あれほどの数の白装束が、わずかな間に命を奪われ積み上げられている。
イバラキを仕留めている最中だったとはいえ、自分達はその気配も感じなかったのだ。
そして死体の山を築き上げた張本人は、疲れも見せず、返り血も浴びず、ただにこにこと笑っている。
断と封が二、三歩下がった。
『手柄争いなんかしてるけど』
邪衆院が歩いてくる。
二人が下がる。
『仲間の首が手柄になるんだねぇ、一角衆って』
『えっ?』
邪衆院の言葉に二人は足を止めてぎょっとした。
視界の隅にあるイバラキの亡骸が、
先ほどまで確かに黒い装束をまとっていたハズの首のない死体が、
いつの間にか、“血に染まった白い装束”をまとっていたからだ。
あれは紛れも無く一角衆の装束である。
という事は…
断はイバラキの首を探そうとして硬直した。
身体が動かない。
視界の端で封も固まっている。
まさか
背後から声がする。
『背面の経絡三点を刺してある。動く事は出来ぬぞ』
それは笑いを噛み殺した幻龍イバラキの声であった。
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